メトホルミンの消化器症状を避けるために何ができるか
※この記事は医療従事者向けです。
※特定を避けるため、フェイクを入れて書いています。念のため。
糖尿病で、SU薬とDPP-4阻害薬を長年飲んでいたAさん。血糖コントロール不良のため、薬を変更することに。変更後は、SU剤はそのまま服用し、DPP-4阻害剤は合剤のエクメットHDになりました。
数日後に、服用後フォローアップでお電話をおかけしたところ、腹痛と食欲不振を訴えられました。そこで薬剤師から、医師に副作用の可能性をお伝え。エクメットHDからLDへと薬剤が再度変更になりました。
エクメットHDに配合されているメトホルミンが原因となって、消化器症状が起きたと考えられます。
この苦い経験から、メトホルミンが起因となる消化器症状を回避するために何ができるかを勉強します。
メトホルミンはどんな薬?
メトホルミンは、主に肝臓における糖新生を抑制することで血糖降下作用を示します。膵β細胞のインスリン分泌を介することがないため、また、筋肉を中心とした、末梢組織におけるインスリン感受性の促進、小腸における糖吸収の抑制等も知られています。
二型糖尿病の第一選択薬として使用されることが多い薬です。
消化器症状が起こるメカニズム
メトホルミンによる消化器症状の機序はまだ不明な点が多いです。
調べたところではメトホルミンは、腸内細菌叢に影響を与えるという報告があるよう※1
下痢や腹部膨満などの消化器症状は、腸内細菌の変化が原因となっている可能性があります。
※1Metformin, Gut microbiota composition, and glucose metabolism
Fernández-Real Lemos José Manuel (Department of Endocrinology, Hospital of Girona Dr Josep Trueta CIBERobn Obesity, Spain)
消化器症状を避けるための注意点
さて、今回のAさんのケースでは、SU剤とDPP-4阻害剤の単剤を併用していたところに、メトホルミン1000mg(エクメットHDを朝夕食後、500mg×2T)を服用することになりました。
①メトホルミンの量は少量から開始する
大日本住友のホームページを参照
※医療関係者用
メトホルミンの消化器症状は低用量から開始し、徐々に増量することで消化器症状が起こりにくいとされています。
AさんはHbA1cが高かったため、メトホルミンの維持量(1000㎎)が追加になりました。しかし、消化器症状を避けるためならば、まずはメトホルミンの単剤から開始するか、エクメットLD(エクア50mg/メトホルミン250㎎)の使用が適切でした。
幸いにもAさんの消化器症状は、メトホルミンの減量後に改善。今後のHbA1cの経過に応じて、再度エクメットHDに増量することもあるかもしれません。慎重に様子を見る必要があるでしょう。
②75歳以上or腎機能障害患者は慎重投与
もともとは75歳以上の高齢者への使用は禁忌であったメトホルミン。研究が進み、現在は75歳の患者さんへの使用は『慎重投与』とされています。
これは、腎機能低下による乳酸アシドーシスの発現を防止する目的です。
添付文章上で、乳酸アシドーシスの症例に多く認められた特徴は以下のように記載されています。
eGFRが30~60の中等度腎機能障害の患者では、腎機能に応じて添付文書上の最高用量の目安を参考に用量を調整する必要があります。
AさんのeGFRも30~60の間であり、血中のメトホルミン濃度の増加により消化器症状が現れたと考えられるでしょう。
処方変更を提案できなかったことが悔やまれる
と、ここまで書いてきましたが、非常に当たり前のこと過ぎて自分が情けないです。
きちんとAさんの状態を把握して、「エクメットはLDから開始しませんか?」と提案できてさえいれば、消化器症状が起こることはなかったかもしれません。
一過性の消化器症状だったからよかったものの、乳酸アシドーシスだったら・・・と考えると血の気が引きます。ああ・・。
しかし、早期発見して消化器症状が改善できたことは何よりです。Aさんも、「薬剤師さんが電話をくれたから、早めに体調が良くなって嬉しい」と言って下さいました。
苦い経験ですが、今後の糧にします。
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