第1話:はじめてのゲストハウス【kaisu】
友だちに誘ってもらって足を踏み入れたのは、赤坂にあるゲストハウス、kaisu。
ゲストハウスにドミトリーで宿泊するという経験はもちろん、友だちとそこで落ち合うなんて、想像がつかずドキドキしながら足を踏み入れたのは、オシャレな一軒家風の建物だった。
「いらっしゃい」
そう声をかけてきたスタッフさんに顔を向けると、長い黒髪に目元が隠されていて、表情があまり見えない。
「ちょっと怖い人だなあ」と思いつつ、シャツから覗く細い手首が色っぽくて、ドギマギしながらチェックインを済ませると、ソファーで待つ友だちの元へと向かった。
ゲストハウスって、こんなにオシャレなものなの……?
表参道や青山にありそうな、木を基調にしたオシャレなラウンジ。バーカウンターがあり、ソファーがあり、ゆったりとしたスペース。ギターやけん玉が置いてあり、遊び心も忘れない。オシャレすぎるカフェに入ったときの高揚感がわたしを襲った。
「夕飯どうする?」友だちと話しながら、赤坂駅からここまで歩いてくるのに、たくさん店があったことを思いだす。みんなで散歩がてら、赤坂の町を歩き、近くのお店に入ってご飯。飲み足りなくて、お菓子やワインをもってkaisuへ戻る。
「おかえりなさい」
先ほどと同じ彼が声をかけてくれる。雰囲気が柔らかくなった気がした。
「すみません、フォークってありますか」
持ち込みのケーキを食べるときも、親切にフォークを渡してくれた彼。やっぱり細い手首がきれいで、はかなくて、気になる。
バーがしまるギリギリまで、彼は私たちを温かく見守ってくれ、「閉まりますよね!ごめんなさい」と宿泊者のみのラウンジスペースへと慌てて戻ろうとする私たちを「大丈夫ですよ、おやすみなさい」と送り出してくれる。
少し気分がよくなって、酔っ払ったからだろうか。ものを持ちすぎてふらついたわたしに、あの彼が、あの手首を伸ばして、支えてくれた。
「危ないよ」
はじめて、敬語ではない、言葉遣い。オシャレすぎて、自分にはちょっと居心地悪かったkaisuだったけれど、あたたかで甘い、その響きに、一瞬にして惹かれてしまった。
…ここで私の記憶は途絶える。いや、もちろん、宿泊者の共有スペースでイケメン外国人と話したことも、木の2段ベッドの下で寝たことも、2段ベッドの下に慣れていなさすぎて頭をぶつけたことも。覚えている、覚えているのだけれど。
一度触れてしまった彼のぬくもりが離れない。こんなにも、暖かい場所があっただろうか。冷たいようにみえて、自分とは違う世界に見えて、あんなにも惹かれるものがあっただろうか。
さらに衝撃を与えたのは、翌日の朝。
早起きをして共有リビングでパソコンを開き、作業をしていたときだった。リビングの横にあるシャワーから、濡れた髪をかきあげながら出てきたのは、なんと、彼だったのだ。
長い髪で隠れていた彼の目元は、泣きボクロが特徴的な、きれいな切れ長の瞳だった。目があった瞬間、彼は表情を緩めて言った。
「よく眠れましたか?」
私は、完全に惚れた。ゲストハウスとは、kaisuとは、なんて素晴らしい場所なのだと。夜の顔も、朝の顔も、オシャレな顔も、親しみやすい顔も。
ソファがあって、リビングがあって、ベッドがあって、シャワーがあって、そこで暮らしているようで、非日常で。
kaisuクンのおかげで気づいたのだ、私は、ゲストハウスに、もっと泊まってみたい。
心にときめきを抱きながら、わたしはkaisuを後にした…。
実は隠れたイケメン男子、kaisuクンの秘密を知りたい方、ご予約はこちらから…♡
※kaisuクンの存在は、フィクションですが、kaisuに惚れたのは、ノンフィクションです。
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