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野良猫と飼い猫とねずみとキャットフード

 背中の向こうのキッチンには、猫がごはんを食べている音がする。
4匹いるうちの、どの子が食べているのか、この食べっぷりはオス猫のたらちゃんだろうと想像しながらも、私は振り向いて確認することをせず、スマホをのぞきこみ年末のご挨拶のメールを打っていた。

打ち終えたメールを読み直しているとスマホから電話の音。

「今日のお客さんが来たからこれから戻るね。」
ゲストハウスでお客様を迎えてくれている徹也さんからの電話だ。

「ありがとう。そしたらごはん焚いておくね。えっと食材はあるかしら」くるっと振り向いてキッチンのほうへ進もうとした瞬間、灰色の大きな猫のしっぽが隙間から逃げていくのが見えた。
「うわっ!知らない猫がご飯食べに来てる!」
電話の向こうの徹也さんは、あまり驚いていないようだった。

我が家の猫のごはんを食べていたのは、グレーのうちにいる猫より倍の大きさがありそうな、ふてぶてしい感じの猫で、最近は、私と目を合わせては、逃げていく猫だったのだ。
「我が家の猫たちのご飯を食べるとは、どこの猫なのよ!」とその猫に対して苛正しい気持ちになっていた。

グレーの猫が入ってこれる場所は、キッチンの隣にある改装中の部屋からだ。
6畳一間の改装中の部屋は、ここに住み始めた時から黴臭く、部屋の一番奥の床はすでに下地が腐って崩れかけていて、この家で暮らしてから初めての冬が来る前に、寒さ対策のために、この部屋に薪ストーブを設置しようと決めた。

秋の始まりの頃に、崩れかけた床を2人できれいに剥がした。

今は床が無く土間の状態になっている。部屋の奥の壁は、もともとは窓だったのだろうか。

住み始めた時には、窓ガラスはあったものの、その窓ガラスの外からは景色は見れず、がっちりとトタンで覆われて部屋には光が少しも入り込む余地がなかった。

そのトタンを外したときの光と新しい風がこの部屋に入りこんだ時は、まるで部屋がもう一度呼吸し始めた気がした。

新しい窓を作り、そこから薪ストーブの煙突が外へ出るように、少しずつ工事は進んでいるが私たちが手を動かすよりも、冬がやってくるほうが早いことも感じながら暮らしている。

窓ガラスから床までは20センチほどの距離があり、その20センチがブロック塀になっていて、この建物の土台になるのだろう。

なにせ、この建物今は亡きお爺さんが建てたもので、手作業で建てられたこの建物は、まるでつぎはぎだらけの着物のようで、お爺さんが出逢った廃材を駆使して建てられいて、見ればみるほど危なっかしいけど愛おしい建物だ。

その土台の部分のブロック塀に猫が出入りできるくらいの穴が開いていそこを通って我が家の猫たちも、家の中から外へ出入りできるようになっている。
改装中の部屋とキッチンの間にある扉はうちの猫たちが出入りするので、常に隙間をあけている。グレーの猫が入らないようにしたいが閉めておくわけにおもいかないので、やっぱり対策が練れずにいた。

グレーの猫が逃げ出ていってから、数分たらずで我が家のたらちゃんが、その入り口から帰ってきた。
またあの猫じゃなくて良かった。かわいい我が家のたらちゃんだ。

だが、ほっとしたのは束の間のこと、よく見るとたらちゃんの口元には弱ったねずみがくわえられていた。
私の感情が整理されていく。
まったくもってデンジャラスだと思った。
固定概念が、また崩されていく

我が家の猫は、私が与えたご飯を食べずに、ネズミをくわえている。
見知らぬ猫は、私が猫に与えたご飯を必死で食べる

私の苛立ちは「これはうちの猫のためのご飯だ」と思っているからだ
そう思った矢先に、私の勝手な決めつけの考えを壊してくれる、我が家の猫

みんな自分の力で生きているのだよ
必死に生きているんだ

ねずみは、私たちの食べ物から餌を探し
猫はねずみを食べて
野良猫は、家猫の餌を食べる。

みんな結局わけあって生きてるんだな。

山のおへそで暮らして今日もそんなことを思う夜。

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