見出し画像

ある犬の物語

熊本県のとある田舎町。
まだ子犬だった1匹の犬が、老夫婦の元にやってきた。
田舎の番犬として可愛がられ、芝犬の先輩犬と共に成長していく。特におじいさんに懐き、畑に行く時も一緒。軽トラの荷台に乗り込み意気揚々と出掛ける。広い畑は山に接しており、おじいさんの作業を横目に遊んだり昼寝したり思う存分毎日を楽しんでいた。

5歳になる初夏。
その日からその犬にとって最大の試練が訪れる。

大事に育ててくれた最愛のおじいさんが入院してしまい、そのまま亡くなってしまったのだ。
静かだった家に急に親戚とかいう人間がたくさん来たかと思うと、あっという間に居なくなってしまった。
それからおばあさんも帰って来なくなった。
先輩犬の柴犬も居なくなった。
たった1匹、庭先に鎖で繋がれたまま何日も過ぎた。
どんなに吠えても誰も来ない。
水もご飯もない。
たった2メートルの鎖に繋がれ、おじいさんを探しに行く事も出来ない。
お腹が空いたよ。
おじいさんはどこに行ったの?
独りぼっちは嫌だよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?