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レスキュー

たまに食べ物を投げ入れてくれる近所の人にも唸りながら、誰一人勝手に入って来ないように家を守る事が、この犬に出来る最大の使命だった。

おじいさん、早く帰ってきて。
おばあさんと先輩犬と、どこに行ったのかな。
一緒に行きたかったよ。
お留守番はつまんないね。
でも、お利口さんにちゃんと待っているよ。
誰も勝手に入って来ないようにこの家を守ってるからね。だから早く帰って来て。たくさん褒めて欲しいな。おじいさん。

そうやって頑張って頑張って、空腹に、孤独に耐えながら過ごす日々。
見かねた近所の方が、おじいさんの息子さんに連絡をとってくれた。
しかし、この犬を不憫に思う気持ちは次の言葉で怒りに変わった。
『まだ生きてたんですか。うるさくてすみません。今度保健所に連絡して処分してもらいますので』

おじいさんが亡くなった後、おばあさんは息子夫婦と共に暮らすことが決まった。柴犬の先輩犬はもう歳を取っていた事もあり、大人しくおばあさんにもよく懐いていたため、おばあさんと一緒に息子夫婦の元に連れて行かれた。
1匹残されたその犬は、大型犬であり、おじいさんにしか懐いていなかった事で、引き取り先を探す事もなく、家にそのまま置いていたら死ぬだろと放置されたのだった。

そうして、近所の方から知り合いを経てシェパードレスキューに連絡がいったのだった。
その時、すでに放置されて2ヶ月が経とうとしていた。
ボロボロの皮膚に毛。痩せ細り輝きを失った目。
それでも、誰かが家に入ろうとしたら牙を剥き吠えた。
『大丈夫、大丈夫』の言葉に吠えているのに尻尾が揺れた。
寂しかった!と全身で表現するように飛びついてきた。
やっと、孤独な日々から、飢えから解放されたのだ。

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