CNN vs FOX アイオワ州党員集会直前スーパーショウアップ特番の洗礼/2024米国セカイ系大統領選 観戦記#1
2024年1月15日(月)にアイオワ州の共和党・党員集会が開かれた。
これが11月の大統領選挙本番に向けた最初の予備選挙・党員集会となった。(※注1)
結果はトランプが52,360票/51%で首位、デサンティスが23,420票/21.2%で2位、ヘイリーが21,085票/19.1%で3位、ラワスマミが8,499票/7.7%で4位。
アイオワ州に割り当てられた代議員40人のうちトランプが20人、デサンティスが9人、ヘイリーが8人、ラワスマミが3人を獲得した。
ラワスマミは結果判明後すぐに撤退を表明。翌々日にデサンティスも撤退を表明。いずれもトランプ支持を明確に表明しながら撤退した。
その前週の1月10日(水)午後9時(東部時間)、CNNとFOX Newsでそれぞれ生放送特番が放映された。
CNNは共和党候補者レースにおいて、その時点の世論調査で支持率2位のデサンティスと3位のヘイリーの生討論番組。
FOX Newsは2位以下に大差をつけて首位独走のトランプの生インタビュー番組。
もともとCNNは主要候補者3人での生討論番組にすべくトランプも招待していたがトランプは拒否。
トランプが三者討論を拒否するのは当然といえよう。世論調査でダントツにリードしているトランプが他候補と肩を並べるメリットはゼロ。他候補にとってはトランプを利用し、トランプよりも目立つことで得票をのばすチャンス。
トランプにとってはただデメリットしかなく、他候補者にとっては低リスク高リターン。
とうことでCNNは二者討論の生放送特番を組み、そしてFOX Newsはトランプの単独インタビュー生放送特番を組んでCNN特番にぶつけた。
FOX Newsとトランプの「結婚」は円満に続いている。
ということで、こちらがCNNの討論番組のキャプチャ。
「政治家の討論」がこんな形でこんなにもショウアップされるとは。まったく驚いた。
ソリッドで緊張感のある豪華なセットと照明による演出。
豪華ではあるがゴテゴテはしていないため視聴者の視線は候補者に集中する。
候補者の「討論」でありながら両候補者は真横に並んで立ち、カメラはその顔を真正面から撮っている。候補者は視聴者と観客の視線を真正面から受け止める形。
また、真正面ということで表情や身振りの機微が捉えられ、自信もいらだちも動揺も逃すところなく撮られる。
カメラは複数台あり、クレーンまであり、大ヨリでも抜かれる。
画面に撮影された映像意外で追加表示される情報は質問文のキャプションと番組名くらいで、最小限。ほぼカメラが撮っているものだけで画面を構成している。
そしてそれだけで1時間やる。つまり、コンテンツは候補者二人のしゃべりと司会進行だけ。
色彩設計と小物デザインの思想は異なるが、クイズ番組の決勝やIPPONグランプリの決勝を連想させる。「大統領選立候補者たちの討論番組」にもかかわらず。
別の観点。デサンティスはスーツにトランプライクなネクタイを締めている。彼はこの1月のアイオワ州の集会ではいつも、あえてジーンズにジャンパーなどのラフな格好で通していた。
ヘイリーはそれと対照するような薄ピンクのワンピース(おそらく)。
他方で、FOX Newsのインタビュー特番。
これです。
番宣ではトランプが今夜9時からFOX Newsで”Town Hall”をやります、とあったので、アイオワ州の市庁舎的なところでいつもの感じの演説をするんだろうなあ、と思っていたらこれ。
ほぼ間違いなく今年の大統領選でバイデンと戦うことになる元大統領が、インタビュアーのFOX newsのキャスター(女性キャスターは上下白で、脚を組む)とともに舞台上に唯一の小物「白いスツール」に片足は地面、片足はスツールの脚に乗せてカジュアルに腰掛け、インタビュー形式でこちらもしゃべり一本で1時間。参加しているアイオワ市民からの質問にも「あたたかく」答える。
CNNの画にもたいへん驚いたが、FOX Newsの画にはなお度肝を抜かれた。(政治家がスツールに腰掛けてインタビュー!)
また色彩設計、ライティング、セットは、政治志向もニュース番組作りの志向も全く異なるCNNと奇妙に一致しており、ということはこれは、大統領選イヤーにおける定式化した演出ということだろう。
こちらもカメラ台数は多く、クレーンも使われている。
こちらにいたっては、日本のテレビ番組で似ているものなどありはしない。
どちらの番組も、司会進行もカメラワークもスイッチングも実にこなれていた。
そして生放送へのこだわりを感じた。生放送にこだわる、ということは視聴者が生放送を求めているということだ。
つまりアメリカ国民は「観戦」を求めている。
これらの番組を見終わったたときに、アメリカで大統領選はどのように演出されるのかを追っていこうと決めた。
これらの番組で話されていることはどうでもよい。演出こそが重要だと感じた。
あまりにも日本の演出とは違いすぎる。
あまりにも日本の「選挙」のイメージとは違いすぎる。
どちらが良いとか悪いとか、ということではない。
単に、根本的なところがあまりにも違っており、よって演出の発想も根本的に違う。
アメリカでは、単にこの形がインプレッションを取れるからこのような形を取るに至ったはずだ。すなわちアメリカ国民の欲望がそうさせた。
また、候補者達もこの方がインプレッションを取れるからそれに乗っているはずだ。
こういった番組で話された内容はすぐに英語でも日本語でも速報され、識者の解説付きで読むことができる。そういう意味で、この番組で彼らが話した内容はひとまずどうでもいい。
しかし、その速報や解説では「アメリカにおける選挙がいかに演出されているか?」については、候補者たちが話した内容ほどには注目されず、こぼれ落ちる。なので僕はそれを拾っていこうと考えた。
演出には常にねらいがあり、それは消費者側の無意識の欲望を反射している。
僕にはそれらを分析することはできないが、少なくとも記録することはできる。(※注2)
1月10日は、このショウアップにあっけにとられながら何枚かのキャプチャを撮った。これよりのちはより積極的に写真を撮るようになった。
(以下注記・補足)
【※注1:wiki、NHK、各新聞社等で詳細に解説されていてそちらを読むことをおすすめするが、一応予備選挙・党員集会について雑に補足】
民主党・共和党の2大政党制を敷くアメリカは、各党から1名ずつ大統領候補者を擁立して11月の大統領選に臨む。その各党の代表者もまた、選挙で選ばれる。
それが「予備選挙」または「党員集会」と呼ばれるもので、全米の各州で、それぞれの党が主催して行われる。
州によって、党員しか投票できない州もあれば、成人であれば誰でも投票できる州もある。
日程も民主党と共和党で重なっている州もあれば異なる州もある。
「予備選挙」は一般的な、普通の投票と同じで投票用紙を投票箱に投票すれば終了だが、「党員集会」は似たようなものが日本にはなく、わかりにくい。どうも各集会所で参加者による候補者の応援演説や参加者同士の議論を経たのち、合議で選んだり、公開投票で選んだりするもよう。
党員集会はより民主的でアメリカ的な手続きと評されることがあるようだが、プロセスが多く結果がわかるまでの時間もかかる傾向にある。
ということもあって、ほとんどの州は予備選挙を採用している。
ひとまず党員集会と予備選挙をまとめて「予備選挙」とする。
予備選挙では得票数に応じて代議員を獲得できる。
2024年予備選挙における代議員の総数は民主党3,934人で、共和党2,429人。これらが州の人口ごとに割り振られており、過半数を獲得したら党の候補者として指名を獲得できる。
したがって人口の多いカリフォルニアとテキサスは特に大票田で重要州となる。
ただ、実際は過半数争いを続けることは多くなく、今年の共和党のようにあっという間に決着がついて残りは消化試合、ということも珍しくない。
また、予備選挙はだいたい1週間ごとに1州のペースで開催されているが、3月初旬の火曜日には10州以上の州が一斉に予備選挙を行い、事実上この日に趨勢が決まることから「スーパーチューズデー」と呼ばれる。
なお、アイオワ州の代議員数はたったの40で、過半数獲得に向けてはほとんど無視できる数だが、1976年以降伝統的に「予備選挙が最初に行われる州」ということで注目を浴び、メディア露出も多いため、候補者もアイオワ州には非常に力を入れる。泡沫候補だったカーターがアイオワ州でドブ板選挙を徹底して勝利して注目を集め、そのまま民主党候補を勝ち取り、大統領にまでなったことから神話化していて、泡沫候補もここで頑張るもよう。
ちなみに民主党はバイデンが続投ということで、予備選挙をやるにはやっているが最初からバイデンありきの消化試合で、事実上対抗馬はおらず、いまのところサモアを除く全てでバイデンが圧勝している。なぜサモアで負けたかは今回は省略。
ちなみに、バイデン主導のもと民主党は今回からアイオワ州を予備選挙のスタート州から外した。この辺にもいろいろあるようで、さまざま記事があるので検索されたい。
【※注2】
大統領選挙がどのように演出されるかを追っていこう、と発想したのはひとえに以下の配信番組に影響を受けてのことだ。
東浩紀×上田洋子「ゲンロンが見たウクライナのいま──独立広場にまだ着ぐるみはいた」
ダイジェスト版:https://www.youtube.com/watch?v=mTztTdfK47Y
フル版:https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20231129
こんな「観光」の仕方があるのか、とたいへん感銘を受けた。
この配信で扱われたものたちはどれも示唆に富み、深刻な問題を提示する。
同時に、それらとは別に、このような観光の仕方は観光をより面白く、より充実した豊かなものにすると感じたし、こんな観光もしてみたい、してみようと思わせてくれるものだった。
思い返せば東氏の論考「悪の愚かさについて」や「テーマパーク化する地球」など、ずっと以前から彼はこのスタイルで世界を観光し、考え続けていた。(2022年、プロジェクト・シン・エヴァンゲリオンの執筆に四苦八苦していたころ、ゲンロンカフェのあるイベントの評判を耳にし、なんとなく視聴してみたところ大変感銘を受け、プロジェクト本の執筆に影響を受けたことで、学生時代ぶりに氏の本やゲンロンを読むようになり、この配信にもたどり着いた。が、それはまた別の話としてプロジェクトシンエヴァ関連の投稿で触れたい)
東氏や上田氏のような目線でものを見て、気づき、考えることはとてもできない。
なので自己満足的な真似ごとだ。しかしどのような観光も先人が見つけたルートをたどり、旅先ではこういうものを見たら楽しめるよ、という先人のガイドを参考にしながらうろちょろして、自己満足して帰るはずだ。
そして撮った写真をしばらく経ってからふと見返して、まぁまぁいい写真撮ってるじゃん、あのときはここでこんなこと考えていたな、となることがある。
なので、アメリカではこの真似事をえっちらおっちらやっている。
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