「火星×ビジネス=恐竜」を本気で考えてみた

 これは、私が大学院在籍時代に「火星でのビジネス」について本気で考えた結果、「恐竜」という結論にたどり着いた話だ。ちなみに私の専攻は化学(あの「スイヘーリーベー...」のやつ)で、火星のこともビジネスのことも1ミリも知らない。火星といえば、「水金地火木の”火”ですよね?」くらいのことしか言えない。それでも、私なりに真剣に考えた結果なのでぜひ聞いて欲しい。

 私が在籍していた大学では、自分の専攻分野の他にも様々な分野、業種のエキスパート達からの講義を受けられる制度があった。文系・理系に関わらず、「第一言語習得の機構を云々」みたいな小難しいものから、「90分間ウルトラマンを観続ける」みたいな講師の道楽としか思えないようなものまで、多種多様だ。

 そんな種々雑多な講義リストの中に、「先端技術でビジネスを開発しよう」という趣旨の講義があった。夢を熱く語る起業家やビジネスパーソンが講師陣として招聘され、彼らの夢を旗印に、意識高い系の学生達約100人とビジネスの糸口を探すというオムニバス形式の講義である。当時の私は、新学期特有の「一過性のモチベ」にそそのかされ、この意識高い系の一員に成りすまし、この講義を受講することに決めた。

 その講師陣の中の一人が提案したテーマが「火星」だった。その講師は通信業界大手企業の方で、「宇宙は既に通信インフラの基盤となっており、最早地球周辺の整備だけでは足りません。その開発の対象範囲は飛躍的に広がっているのです。」的な説明を熱く語った。そして、その講師曰く「火星」が次のビジネスのターゲットになりうる、火星を有効利用したビジネスアイディアを自由な発想で提案して欲しい、とのことだった。

 私は、火星にも通信にも詳しいわけではなかったので、この講師の「自由な発想で」という言葉だけを切り取り、勝手に「火星を生物の住処に改造する」と考え始めた。火星はどんな生物の住処になりうるだろうか?人間?ありきたりだな。動物?広すぎるな。どうせなら自分の好きな生物を選ぼうではないか。ということで、私が一番好きな生命体、「恐竜」に行き着いた。
 しかし、ご存知のとおり恐竜は既に皆絶滅している。そこで、「火星で恐竜を復元する」という我ながら実に自由な着想を得たのだ。一度本物の恐竜に会ってみたい、という幼少時の夢物語が源泉だ。

 しかしこれはあくまで大学院の講義の一環。夢物語の実現可能性を論理的に示さなければ、この妄想に単位は出ない。そこで色々と調べてみると、意外や意外、「不可能ではないのでは?」と考えられるではないか。理由は主にふたつ。
1.火星の表面温度、大気組成が、恐竜誕生初期の三畳紀(約2億5200万年前)に似ていると言えなくもないこと
2.火星に物資(水、植物など)を運び活用するという研究が既になされていること
である。要は、大気や気温、生態系など、三畳紀頃の地球に近い状態を火星で再現することで、恐竜に似た生物を誕生させるというアイディアである。水や酸素、植物など必要なものは、地球から持って行けばいい。さらに、過去の地球を再現し、恐竜を中心にその進化の過程を観察することで、過去に地球で起きた生命進化の謎を紐解き、将来地球上で起こりうる生命の進化、変化を予測できるかもしれない。そうなれば、これはビジネスどころか、生物学への新たなアプローチ手法として確立される。
 ここまでをA4数枚に整理した私は、「我ながら自由かつ独創的で、科学的裏づけもある立派なレポートが出来上がった」と達成感を感じていた。図もあったほうが講師も理解しやすいだろうと考え、頼まれてもいない図解を添付し、意気揚々とレポートを講師のメールアドレス宛に送信した。

頼まれてもいない図解(※繰り返すが大学院の講義レポートである)

画像1

 翌週の講義の中で、その講師が集まったアイディアのいくつかを紹介した。私はそれを聞きながら、震えていた。何故なら他の意識高い系学生が提示したアイディアは、火星を衛星通信のハブ基地として利用し云々、軌道解析を通じてどうのこうの、といった、専門知識と十分な技術的根拠、優れた発想力の掛け合わせで、半端じゃない完成度のものばかりだったからだ。「大気組成が似ていると言えなくもない」くらいで論理立てた気になり、恐竜に会いたいという思い入れに取り憑かれていた私とは比ぶべくもない。そもそも講師が通信系の人であることを忘れていたのだ。阿呆もいいところだ。「宇宙だけに、次元が違うなあ」みたいな感想をつぶやきつつ、これは私のアイディアには触れられそうもないなと、情けなさと安堵半々の気持ちで大人しく座っていた。
 しかし紹介の終盤、講師が「次のアイディアは、、、あ、これね!www これ読んだときめちゃくちゃ笑ったんですよ!隣にいたJA○Aの人も、発想が面白いねえって笑ってました!」と、失礼極まりない前置きと一緒に、私の図解とレポートをスクリーンにデカデカと映し出した。100人の意識高い系の学生が、私が描いた火星に立つマヌケ面の恐竜を見て失笑している。ましてや、Google検索とWikipediaで調べた程度の火星の知識が天下のJA○A様に見られてしまうとは。ああ恥ずかしい。しかし幸い、発案者名は公表されなかったため、黙っていればこのアイディアが私のものと気づく人はいない。そうだ、何も自分事として気まずくなることはない。他人事だと思ってしまおう。と、周囲に同化し作り笑いでメンタルを守ることに決めた。しかしそんな誓いも虚しく、講師が「いやー、このアイディアは本当に面白いよね!これ書いた人!教室にいるよね?ちょっと手挙げてよ!」などと言い出した。これまでの紹介で挙手の流れなど一度もなかったのに。しかし、挙手しなければ欠席扱いになり単位が出ない。私は作り笑いのままそっと右手を挙げた。意識高い系の学生の目が、画面の恐竜からその産みの親に集まる。講師が嬉々として、「君か!いいねえ、何でこのアイディアを思いついたの?教えて!」とさらに悪気のない追い討ちをかける。私は「いや、まあ、昔から恐竜が好きで、火星で恐竜が誕生すれば会えるかなと思って、、、万が一恐竜が暴れても地球に迷惑はかからないですし、、、へへ、、、。」みたいな回答をしたことをぼんやり覚えている。

「自由な発想」という講師の一言を真に受けて考えた私の渾身のビジネスアイディアは、こうして意識高い系100人の前で一笑に付された形で幕を下ろした。あと、一応単位はもらえた。しかし、今回は科学的根拠を少々欠いたことと講義の趣旨を読み違えたことが敗因であり、アイディアそのものは悪くなかったと今でも思う。奇想天外なアイディアとはこのように、既存のアイディアに門外漢が「好きなもの」を無理やり掛け合わせるところから生まれるはずなのだ。というわけで、私は懲りずに恐竜と会える日を妄想しながら今日も生きている。レポートにして送信する相手はいないが、これぞ!というのが完成したら、ここ(note)で晒せばいいかと思う。

#キナリ杯




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?