カリフォルニアロケット服薬体験記

 モモです。

 もうそろそろカリフォルニアロケットの服薬を開始してからちょうど100日になるので、自分のこれまでの服薬生活を振り返る意味でも、このタイミングで一度、体験記という形で服薬の経過をまとめて、公開したいと思います。

 以下の文章は、私が毎日個人的につけている服薬記録の記述をもとにして経過をまとめたものなので、意識しないうちに過去を現在の視点から現在の自分にとって都合の良いように作り替えてしまうようなことは避けられていると思いますが、なにぶん学術的な厳密さに乏しい手記のようなものがベースになっているので、医学的・科学的な根拠が確実な記述を欲している方にとっては、あまり得るところがないかもしれません(そういう方は、お医者さまに直接お聞きになるか、ご自身で医学書を手に取ってみることをお勧めします)。


 あくまで、n=1事例の、エピソードベースの話だと思って、「この人の場合はそうだったんだな」くらいのスタンスで参考程度に読んでいただけると幸いです。

 以下では、まず、カリフォルニアロケット療法の概要を簡単に説明した上で、私の場合に、具体的にどういう経過を辿ったのか(副作用、慣れるまでにかかった期間など)を、時期ごとに分けて説明していきたいと思います。

1, カリフォルニアロケット療法とは

(ここは正直読むのが面倒だったら読み飛ばしてもらっても大丈夫です。)

 まず、カリフォルニアロケット療法とは何ぞや、ということですが、ウィキペディアによりますと、「アメリカ合衆国の精神薬理学者スティーブン・M・ストールが考案した療法で、単剤処方では十分な治療効果が得られない難治性うつ病を異なる作用の抗うつ薬で神経伝達物質のさらなる増加を図るもの」となっています。
 ウィキペディアの当該ページが出典として挙げている、Stephen M. Stahl, * Stahl's Essential Psychopharmacology * を見てみると、"California rocket fuel"という項目で、SNRIとミルタザピンの併用として取り上げられています。また、同項目の末尾では、「ミルタザピンとさまざまなSSRIやSNRIとの併用もまた、大うつ病性障害の治療の初期から見込みのある治療法として研究されている」(試訳)と記述されています。
 以上のことを踏まえ、以下では、私が服用しているのがSSRI(レクサプロ)であることも考慮して、暫定的に、カリフォルニアロケット療法を「ミルタザピンと、SSRIまたはSNRIを併用する、うつ病に対する治療法」とする理解を採用します。


 SSRI・SNRI、ミルタザピンは、どれも抗うつ薬(前二者は抗うつ薬の種類の名前で、ミルタザピンは特定の抗うつ薬の名前)ですが、作用機序が異なります。
 紙幅の都合上(と私の知識不足のため)、詳しい話は、専門書を頼っていただきたいのですが、ここでは、私が現在服用しているSSRIとミルタザピンについてだけ簡単に説明をしておきたいと思います。
 SSRIとは、正式名称を「選択的セロトニン再取り込み阻害薬」といい、その名の通り、脳内のセロトニンが、シナプス前終末へ再取り込みされるのを阻害することによって、シナプス間隙におけるセロトニンの量を増やし、以って抗うつ作用をもたらすという薬です。
 これに対して、ミルタザピンは、NaSSAに分類される抗うつ薬で、NsSSAは、正式名称を「ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬」といいます。NaSSAの作用機序は、SSRIよりも複雑なので、ここでは詳しい説明は避けますが、重要な点は、SSRIとは異なる作用機序で、脳内のノルアドレナリンやセロトニンの働きを改善することで抗うつ作用を示す、という点で、ここさえ押さえていただければ、カリフォルニアロケット療法の理解にとっては十分であると思います(ノルアドレナリンやセロトニンは、脳内の神経伝達物質で、これらの働きに問題が生じると、うつ状態やうつ病、不眠症状などをもたらすとされています)。

 以上のことを踏まえると、カリフォルニアロケット療法とは、「異なる作用機序で働く抗うつ薬を複数併用することで、薬理学的な相乗効果を生み出し、それらをそれぞれ単剤で服用した場合よりも、強い抗うつ作用をもたらすことを可能にするうつ病の治療法」であると理解できます。

2, 経過(1):1日目〜21日目

 まず、私がカリフォルニアロケット療法を始めることになった経緯ですが、私は現在、不眠症状(はじめは早朝覚醒が主でしたが、次第に中途覚醒や熟眠障害が目立つようになりました )とうつ病(うつ状態?)の治療のために、心療内科に通院しております。
 はじめは、不眠の改善のために、マイスリー(睡眠薬)とクエチアピン(抗精神病薬)を、鬱の改善のために、レクサプロとアモキサン(三環系抗うつ薬)とセニラン(抗不安薬)を服用していたのですが、不眠の方が一向に改善する兆しが見えなかったため、副作用として強い眠気を伴うミルタザピンを追加投与することによって、長時間熟睡できるようになることを目指す服薬をすることになりました。

 21日目までで区切る理由ですが、私の通院スパンが3週間に一度であるということと、最初の3週間でまずミルタザピン15mgを半錠投与して副作用が強く出すぎないように体を慣らし、次の3週間で1錠投与するという服薬スケジュールになっていた、という事情によります。

   それで、肝心のミルタザピンを追加服用したことの効果ですが、結論から言うと、私の場合は、15mgの半錠投与ではほとんど不眠の改善が見られませんでした。
   これは、私の不眠症状がとりわけ重篤であることに起因するのか、それともそもそも15mgの半錠では、SSRIと併用したとしても劇的な効果が見込めるようなものではないということなのか、よくわかりません。
   今回の私の服薬の場合、カリフォルニアロケット療法の本来の効果である抗うつ作用を当てにしたものではなく、副作用である強い眠気を逆に活かそうとした、という特殊な服薬の仕方であったために、望んでいた効果が現れなかった、ということなのかもしれません。


 もっとも、眠気がもたらされなかったというわけではなく、むしろ「眠気はあるのに十分長い間熟睡できない」、「いくら寝ても眠気が取れない」というような状態が続き、結局この期間は、服薬の本来の目的である「長時間の熟睡」は達成できませんでした。具体的な睡眠時間としては、平均するとだいたい8時間から9時間くらいでしたが、これは寝て起きてを何度も繰り返した末の合計の睡眠時間であって、純粋に熟睡できていた時間だけを取り出すと5時間とか6時間くらいです。

 どうしてすぐ起きられずに再び眠りに落ちてしまうのかというと、これは後述する副作用の倦怠感と眠気の残存によるもので、目が覚めても十分な時間熟睡できていないために、眠気が残存しており、かつ全身の倦怠感のせいで物理的に体を起こすことが難しく、よってベッドから起き上がろうと努力している間に眠りに落ちてしまい、それがエンドレスで続き、寝ては起き、寝ては起き、……というように細切れの睡眠を何度も無理やり繰り返させられることになり、これはちょっとした拷問並みに苦しかったです。

 副作用である倦怠感や眠気の残存(これは強い眠気の裏返しのようなものであって、本来別個の副作用として扱うべきものではないのかもしれませんが、ここでは、私の服薬の本来の目的である「長時間の熟睡」の実現に実際に寄与しているものを「強い眠気」、熟睡はもたらさないけれども、眠気だけは残っているというものを「眠気の残存」と呼称して区別しています)ですが、これらは、とりわけ服薬開始から4日目くらいまではかなり酷く、目が覚めていても、ベットから起き上がるのに大変苦労しました。


 特に倦怠感の副作用が酷く、ベットから起き上がるのに物凄いエネルギーを必要とする上に、起床した後も、全身が重く、頭もぼんやりしていたために、その日は一日中、ほとんど活動的なことができず、ベッドに横になってスマホを眺めていたり、天井を眺めていたりすることしかできませんできた。
 しかし、それ以降は徐々に体が慣れてきたのか、目覚めてから起床までにかかる時間はだいたい30分以内で済むようになり、起床後にもある程度活動ができるようになりました(それでも、以上の副作用が完全になくなることはありませんでした)。

3, 経過(2):22日目〜50日目

 先ほど上で述べたように、22日目からは、ミルタザピン15mgを1錠服薬することになりました。また、それに合わせて、今までのクエチアピン25mg1錠から12.5g1錠の服薬に変更になりました。

 肝心の効果ですが、結論から言うと、「めちゃくちゃ眠れる日は13時間くらい眠れるが、眠れない日は5時間くらいしか眠れない」といった感じでした。
 どういうことかというと、ミルタザピンの量が単純に2倍になったことで、眠気自体は以前より強くなっているのですが、それでも長時間一度も覚醒せずに熟睡できるようにはならず、むしろ何らかの要因で睡眠が阻害されて途中で目が覚めてしまったときに、以前よりも(眠気の残存の裏返しとしての)主観的な寝不足感が強く感じられるようになったために、再入眠へと向かおうとする心理的な傾向が強くなり、結果、質の良い熟睡ではなく、質の悪い過眠で寝不足感を消し去ろうとするような睡眠が多くなりました。
 5時間しか眠れない日というのは、(早朝覚醒のような仕方で)再入眠に失敗した日で、その分の寝不足を補おうとする形で過眠が促されるということにもなりました。

 副作用については、このくらいの時期になると、とりわけ全身の倦怠感にはかなり慣れてきて、普段の生活を送る中で意識することはほとんどなくなりました。もっとも、普段は、休学中ということもあり、家で本を読んだり、ゲームをしたりといった比較的穏やかな生活をしているので、もしかすると、毎日会社に通勤している方や、学校に通っている方にとっては、依然として無視できないほどの副作用に感じられるかもしれません。
 また、眠気の残存ですが、これについては、この時期でも依然として慣れることはなく、上で述べたように、主観的な寝不足感として、毎日苦しむ羽目になりました。

4, 経過(3):51日目〜100日目

 ここから一気に50日分を振り返りますが、決して面倒くさくなったからというわけではなく、その間特にこれといって変化がないからです(もっともこれから変化が起こる可能性は否定できませんが)。

 51日目あたりからそれ以前とどのような違いが生じたかというと、まず明らかに中途覚醒になる日が増えました。これまでも、10時間なら10時間一度も目覚めることなく熟睡する、というようなことができていたわけではありませんが、それでも6〜7時間くらいは熟睡することができていました(それなのに寝不足感があったのは、ミルタザピンによる強い眠気のためです)。
 しかし、この時期あたりからは、なぜか毎日4時〜5時半くらいの間に必ず一度目が覚めるようになり、その結果熟睡できていた時間というのが4〜5時間ほどになりました。これはかなりつらかった(というか現在進行形なのでつらい)です。


 中途覚醒の原因に関しては、担当医が言うには、「日の出の時間帯が早くなっているからそれに対応して目が覚める時間帯も早くなっているというだけの話であり、生物学的にはごく自然のこと」ということらしいです。といっても、世の大半の(少なくとも同年代の)人々は、4時半に一度目が覚めてからしばらくして再入眠する、みたいなことを日常的にしているわけではないので、この所見に対しては、正直、生物学的に自然ってなんやねんという気持ちがあるのですが、仮にそれが正しいと仮定すると、早朝に中途覚醒してしまうというのは、カリフォルニアロケット療法に内在的な問題というよりは、住居環境とか生活習慣とかの外在的な問題ということになるので、ここから何か一般的な含意を引き出すのは、危険かもしれません。

 その他の副作用についてですが、倦怠感については、経過(2)で述べた通り、依然としてほどんど問題ありません。眠気の残存に関しては、やはりまだ副作用として色濃く出ているのですが、正直心理的に慣れたという感じではあります(慣れたというより、諦めがついてなんかもうどうでも良くなったというのが近いです)。

5, まとめ

 ここまで長々と書き連ねてきましたが、まとめると以下のようになります。

・カリフォルニアロケット療法をしても、長時間の熟睡という目的は、十分に達成できなかった

・副作用である倦怠感は、はじめのうちはかなり酷かったが、ある程度の期間を経ると体が慣れて、特に問題ではなくなった

・眠気の残存については、現時点でも依然としてなくなることはなく、心理的にある程度慣れはするが、相変わらずつらいものはつらい


 以上で、今回の記事は終わりにしますが、最後に重ねて注意喚起をしておくと、上で書いたことは、あくまで私の場合どうだったかという話であり、ここから一般的に言えることを何か引き出してくることはおそらくできないので、一つの体験記でしかないということは銘記していただければと思います。
 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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