タイトル-03

「成馬零一×松村早希子の大人になるのは向いてない」Vol.1 2016年上半期アイドル特集(2)


lyrical school「RUN and RUN」

N:その流れで、lyrical school(リリカルスクール、以下リリスク)の「RUN and RUN」に行きましょう。PVがミュージシャンやアイドルの主戦場になってる時に、スマホに特化して話題を総取りしたのがリリスクですよね。

S:頭ひとつ飛び抜けちゃいましたよね。

N:さっき「サイレントマジョリティー」の映像を100年後に見たら「当時の東京はこうだったんだ」って思い出すって話をしていたじゃないですか。このPVは今後、これを見る度に「2016年ってこれだったよね」って思い出すと思うんですよ。

 このPV自体が優れたメディアアートと言うか、それくらい革命的な映像だと思います。実際、カンヌのライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルのサイバー部門で銅賞を受賞しているわけだし、今後もいろんな賞をとるんじゃないかな。

 縦の映像をどう使うかってやっぱり、まだみんな答えを出してないんですよね。画角って映画からテレビにいっても、「16:9」が基本じゃないすか。昔のアナログテレビなら「4:3」でしたけど基本的には正方形か横長ですよね。
 多分、絵画の延長線上にあるんだと思うんですけど、それがスマホが出てきたことで縦長のインターフェイスが広まったわけですよね。

 ざっくりいうと「16:9」が「9:16」になったんだと思うんですけど、こうなった時どういう映像表現ができるかっていうのは、結構みんな模索はしていた筈なんですよ。

 例えば大森靖子さんの「愛してる.com」のPVでは縦の映像になっていて。こういうのは、映画的な画角の発想からは絶対に出てこない映像ですよね。

S:あ、かわいい~(「愛してる.com」の動画みながら)。やっぱこの画角で見てると、縦映像出てきた時に嬉しいですね!顔が大きくなるから、単純に嬉しい(笑)

N:「ここぞ」って時に出ますよね(笑)

S:その子が送ってくれたみたいに見えますよね。

N:女の子の自撮りが直接メールで届いたみたいな感じで。

S:フェイスタイムできたーみたいな感じがしますね(笑)

あの(リリスクの)PVも、フェイスタイムが使われて。

N:そう考えるとやっぱ、欅坂46とは真逆ですよね。

S:真逆真逆ー!

N:平手(友梨奈)ちゃんは絶対送ってこないっすよ。いや、実際は送ってるかもしれないけど、あのPVの平手ちゃんは絶対送って来ない。

S:(まだPVみながら)やー、いいなぁ。なんか、スマホでみたことなかったから……。

N:実は今までスマホでは見なかったんですけど、昨日、機種変更したから見てるんですけど、感覚が全然違うなとと思いますね。

S:新鮮ですね!

N:それではここで改めて「RUN and RUN」のPVを見てみましょう。

https://vimeo.com/161487817

S:一回、これ(松村のiPhone)で、見ましたよね。

N:前に一度見せてもらいましたけど凄かったですね。時計の位置が同じだったんで、一瞬何が起きたのかって思った。「RUN and RUN」の場合は、「愛してる.com」と違って、インターフェイスの領域に映像が介入してるのがやばいなと思う。変なたとえだけど、映画『リング』の貞子がテレビから出てくるシーンを彷彿とさせますよね。今後、このイメージをパクって、スマホの中に幽霊が憑りついて中身をいじりだすみたいなホラー映画がガンガン作られそう。細かいところでは、バックが白いのがうまくいってますよね。あれで遠近感を出してる。

 ただ、すごく言いにくいことですけど、PVの印象があまりにも強烈すぎて、曲とかメンバーの印象が霞んでますよね。これって忘れがちですけど、リリスクのメジャー第1弾シングルなんですよね。

S:いやいや、忘れてないです! だからこそこんなに、気合い入れてるんじゃないですか!?

N:PVの衝撃が強すぎて、他のことが頭に入らないんですよ。批判してるみたいに聞こえたら嫌だけど、大絶賛が前提の上で言うと、動画のアイデアが圧倒的すぎてPVの意味が壊れているというか。

 仮に、違うアイドルグループやミュージシャンが同じことやっていたら、やっぱ注目されてただろうし、このPVがリリスクじゃないといけない必然性を見つけることが今はちょっとできない。リリスクがスマホアイドルとかで、スマホを使うことが彼女たちの表現と強く結びついてるなら別ですけど、そういうわけでもないですし。

 だから、これを見て誰かを好きになるみたいな方向に行きづらいというか。結局、メンバーに気持ちがいかないんですよね。

S:元々好きだった人は、注目できるけど。初めて知った人は、「わ、なんかすげー」って思ってるうちに終わっちゃう。すごすぎてもう一回でいいですって気持ちになったと言っていた人もいますね……。何回も繰り返しみるのが難しい。

N:例えば、ももいろクローバーの「行くぜっ!怪盗少女」のPVは、見終わったあとに、青の子が好きと緑の子がよかったとか、やいやい言えるじゃないですか。

S:逆にあれは、映像的には何の革命もないですよ。

N:でも、アイドルのPVとしては100%正しいじゃないですか。あれを見たことによってももクロのメンバーについて、この子どういう子なんだろうって考える導線になるわけで。

S:ももクロのPVは初めから最近までずっと、奇抜な衣装とか設定とかは置いといて、映像表現としては、アイドルPVのスタンダードな形しかとってないと思う。その映像の中でどんなことをやっていても「各メンバーの顔やキャラクターがわかる」ということが常に守られているから、そういう印象です。

N:欅坂46の「サイレントマジョリティー」も、平手ちゃんに目が行くじゃないですか。それがあるからアイドルPVとして成功してると思うんですよ。誰を見ればいいかがちゃんとわかる。結構、「PVって何?」って話になってくると思うんですよ。曲を売るのか、そのアイドルグループのキャラクターを認知させるためのものなのか、とりあえず目立てばいいのか?

S:それは、別に一個だけじゃなくて、その時々で目標は違うと思うんですよ。とにかく曲を売るとか、曲の世界観を丁寧に伝えるとか、あとはアイドルだったら、メンバーそれぞれ一人一人の魅力を伝えるとか色々あると思うんですけど、リリスクの場合はほんとにPV先行で、PVが主役みたいになっちゃってますよね。

N:だからこそ一般層に届いたとも言えるんだよね。その意味でメジャーシングル第1弾としては圧倒的に正しい。

S:うーん、ただそれでポッと話題になっても、局地的なもので終わってしまわないかと……。

N:アンディ・ウォーホルの、ポップアートみたいな世界ですよね。「誰でも15分だけ有名になれる」みたいな。アート作品としてはほんとすげえっていう。

S:ねー。それは本人たちはすごい……辛いだろうなあって。辛いって言ったらなんだけど、複雑なんじゃないでしょうか。

N:ただまぁ、PVが大注目されたからこそ出てきた「贅沢な悩み」だとも言えますよね。グループアイドルの多くは、その段階にすら行けないことがほとんどだから、勝負できる舞台に躍り出ただけでも、実は快挙なんですよね。ある意味、第一段階はクリアしたとも言える。

『サイレントマジョリティー』も『RUN and RUN』もそうだけど、やっぱりPV出して注目されることの方が、シングルを出してオリコンチャートのトップを取ることよりも大きなことになってきてるのかなぁと思います。ファンの複数買いや特典商法が当たり前になっているCDの売り上げよりも、動画サイトの再生回数の方が、説得力を持ってるんだと思うんですよね。PVがめざましテレビとかいろんな所で放送されることが宣伝になるわけだし、知名度を上げる一番の方法になってるのかなぁと思います。

S:徐々にそういう感じにはなってきてはいたんですけど、リリスクのPVがバーンと抜きん出てしまいましたよね。呼び名に世相が現れてますが、今PVって言わないんですよね。雑誌やポータルサイトでは「MV」って表記で統一されてるんです。元々、PVって言葉には販促用ツールっていう意味合いがあったわけじゃないですか。でも、これだけ映像が前面化してきたら、もう「ミュージックビデオ」というジャンルですね。

N:アイドルファンに向けて作ったものと、それ以外のYouTube世代に向けて作ったものって実は方向性が違いますよね。アイドルファンってやっぱり“人”につくと思うんですよね。ももクロだったら百田夏菜子が好きとか、そういうレベルでファンが付いていく。一方、YouTubeのファンは「その瞬間、面白いもの」に付くと思う。

 いい意味でも悪い意味でも“人”につかない。だからこそすぐにシェアされて、爆発的に広まったりもする。

 逆にアイドルに限らず“人”の方だけ向いてたら、どこかで絶対、頭打ちになるんですよね。よっぽどの天才でもない限り人間単体の魅力って意外と弱いっていうか、幅が限られている。だからこそ、AKBみたいに多人数揃えてるところが強いんだけど。

S:このMVはアイドルファン以外の層に届くように作ってますよね。

N:今までとは違うインパクトを残そうとした勝負作なのは誰の目にも明らかですよね。繰り返しになりますが、それは大成功なんですよ。

 ただ、このPV……じゃなくてMVか……。今後、このMVの影響で、「RUN and RUN」のシングルがめっちゃくちゃ売れたりとか、リリスクがミュージックステーションに出るような流れにつながるのかなぁと言うと、影響力がどのくらいあるのかは、まだわからない。さっき言ったことと反対の意見になるかもしれないけど、何百万って再生回数を獲得しても、それは無料だからで、お金を払うのは別の人って構造は、まだまだ続くと思う。

S:ミュージックステーションありえますよ! ある意味、敷居下がってきてるから。

N:ただ仮に出演できたとしても、MVの再現はできないじゃないですか。

S:一番怖いのはそこですよね。MVを見て気になった人が、実際にライブとかテレビでやってるのを見て、MVは面白いけど実物はそんなに……みたいな感じになることがすごい怖い。でも、それが本人たちのモチベーションにもなるだろうし、実際に見て楽しいって思わせる力、アタシ達あるわよ!!!  っていう気合に繋がるんじゃないかな。

N:たぶん、今回は話題をかっさらったから、次はメンバーと楽曲の良さをアピールすると言う方向に行くんでしょうね。その意味でも今後の展開に注目してます。

少し話がズレますけど、これと同時期に岡崎体育というミュージシャンが、MVあるあるを集めたパロディMVを出したんですよね。

S:知らなかったー! 初めて見ます。

N:横から人が出てくるとか、振り返って何かするとか、そういうのを片っぱしから詰め込んだMVあるあるみたいな。それとリリスクの「RUN and RUN」と、欅坂46の「サイレントマジョリティー」が同時期に登場したのが、すごく象徴的だと思うんですよね。

S:(iPadで見ながら)ほんとだ! 「MUSIC VIDEO」ってタイトルそのまんま!

N:こういうものが出てくるくらいにMVってジャンルが成熟してきてるのかなぁと思いました。Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) の「みんなちがって、みんないい。」もそうですが、そういう音楽業界の構造自体を歌うものって最近増えてるじゃないですか。

 各音楽のジャンルや作り手の状況自体がパロディにできるくらいにお約束が共有されているという状況が出来上がってるっていうのが今の現状で、でもそうなるとみんな似た感じになって埋没してしまう。そうなると結局、一番強いのは、金かけまくった欅坂46のMVか、誰も見たことのないものを打ちだしたリリスクのMVかってことになる。

S:(岡崎体育のMVみながら)あ~なんかこういう、商店街を歩いたりね~。へー、おもしろい。

N:水曜日のカンパネラも、MVを主戦場とすることで知名度を上げましたよね。表現の主戦場はYouTubeにあるってのがいよいよ当たり前になってきたというか。

もちろん動画サイト以外にも、ビデオカメラや編集ソフトが安価になってきてるって背景もあるんですけど。ただ全体のクオリティが上がったことと引き換えに、MV自体は均質化している。

S:岡崎さんのMVは、そういう安直に作られているMVに対して警鐘を鳴らしてるわけですよね? 

N:そういう意識はあんまりないんじゃないかな。Twitterでよくみるヒップホップのパロディ漫画と近いですよね。

S:あー! あれ好きです! 「日ペンの美子ちゃん」のパロディ「日ポン語ラップの美ー子ちゃん」

参照記事 日ポン語ラップの美ー子ちゃんが同人誌に! 更新されるラップのイメージ

N:あれは、日本語ラップからの引用で出来上がっていて、そういうのが共有出来る人たちがいることを前提に書かれているわけですよね。そういうのってアニメのパロディとか、お笑いの楽屋ネタに近いというか。

S:昔からMVに限らずそういう「お約束を表現する」ってことはずっと行われてきたけど、それをMVそのものでやったのが、この岡崎さんのMVなんだなーと思います。ただ、宇多田ヒカルの「Goodbye Happiness」とか、椎名林檎の「りんごのうた」みたいに自分で自分のパロディを行うことは結構MVの歴史の中でありましたよね。

N:それが今ではネットの動画サイトで誰でも瞬時に共有できますよね。昔はテレビやビデオだったけど、その変化が一番大きいのかなぁと思います。

S:(「MUSIC VIDEO」のなかに)YouTubeのシーンも出てくるけど、本当まさにYouTube世代の人が作った映像!って感じ。

N:わかりやすく言うと、MTVはPVの時代だったけど、YouTubeはMVの時代ってことですかね。ここ(MV)に才能ある人が全部来てるっていう感じがします。乃木坂46のMVが凄いっていうのは、去年ぐらいからずっと思ってたんですよね。

S:山戸結希監督が、西野七瀬ちゃんの個人MV(「ごめんね、ずっと…」シングル「命は美しい」収録)とか「ハルジオンが咲く頃」のMV撮ってましたね。

N:今は、4分くらいの映像に音楽が乗っているものが、万人が求める表現として一番しっくり来るんじゃないかなぁ。それこそ、かつてシングルCDを違和感なく買ってた感覚で映像を見てる。お金は払ってないけど。

S:それも本当、YouTube世代の感覚って感じですね。逆に言うと「4分しか耐えられない!」という……。そこでいかに勝負を賭けるかの時代になってるってことなんですかね。

N:だから、今後どうするのか気になりますよね。リリスクがあのMV以上のアイデアを使って、次のMVでまた変なことをやるっていうのを延々と繰り返してったら、水曜日のカンパネラみたいな注目のされ方はされるだろうけど、今回みたいな画期的なアイディアがそんなに何度も出てくるものじゃないだろうし。

それに、もしもそれをやったとしたら、グループ本体の意味って何だろうってのが、ますますわからなくなっちゃう。

S:そうなったら、才能のあるクリエイターの実験場という立ち位置にリリスク自体がなるかもしれないですよね。例えば、でんぱ組inc.は戦略的にどんどん若いクリエイターと組んでいっていると思うけど、それは個々のメンバーの個性を広めるって事は、SNSを駆使したりして本人達がやれる事だから、そういう通常のプロモーションじゃない方法、クリエイターの発表の場みたいにすることっていうのが可能だったんだろうなと思います。

N:アイドルとしてのリリスクにとって、このMVは成功だったのか? っていうことが今後問われるんだろうなっていう感じはします。それこそめざましテレビとかで紹介されて、アイドルにもアイドルラップにも興味なかったような人も名前を覚えるきっかけにはなったと思うんですよね。

 これは、メジャーで行く以上、圧倒的に正しい選択ですよね。だからこそ、課題も見えてきたとも言える。

S:そうですね……。今までのちっちゃい指標じゃなくて、もっとデカい所に飛び出していこうっていう意志は明確に感じられる、MVですよね。

N:最後に話したいのは、himeちゃんの加入(※)って、結局何か大きな影響を与えたのかってことなんですけど。

(※)hime(持田妃華)はアイドルラップユニット・ライムベリーの元メンバー(当時はHIMEと表記)。2015年の2月に突然卒業となり、その後は芸能活動を休止していたが、12月13日にリリスクの新メンバーとして加入した。アイドルラップにおいて、いい意味でのライバル関係にあったリリスクに加入するということに、双方のファンは衝撃を受けた。

S:プラスになるかならないかって事ですか?

N:それ以前に、彼女が加入したことでリリスクって何か大きく変わったんですか? 

S:思ったより、バーンって大きな変化はなかったと思います。加入発表がされた時のインパクトというか「ヤベェことになる……!」というざわざわした感じほど、違和感はなく自然に馴染んでる感じです。himeちゃんがそういう子だからだと思うんですが。

N:あの時のざわつきを考えると、極端な話「hime with lyrical school」でもよかったんじゃないかなぁと思うんですよ。

S:いやいやいや、それは絶対無い!!

N:それぐらいやった方が、みんなびっくりしたんじゃないかな。

S:びっくりっていうか(笑)別にそれで、いいものにならないと思う。それじゃリリスクの表そうとしてる感じとはかけ離れちゃうと、外野ながら思いますよ。

N:平手ちゃんの方式でいくべきなんですよ(笑)

S:うーん、勝手に思ってることだけど、himeちゃんはそういう「周りに合わせる」ことができる人だし、しかも元々好きだったグループに加入したんだから、それこそ“人”につくタイプのファンの人は、自分の好きな人が幸せそうだったら嬉しい事じゃないですか(笑)

N:E TIKET PRODUCTIONプロデュース時代のライムベリーの時の印象が強烈だったんで、あのキャラクターのままリリスクに入ると思ってたけど、あれはあくまでライムベリーにおける役割だったんだなぁって、今のhimeちゃんを見てると思いますよね。

 

S:himeちゃんは確固たる自分があってそれを表現するというよりは、他者から求められたことに全力で返していく、他人が求める姿になりきるっていう人なんじゃないかと思います。本当に私の勝手な見解ですが……。だから、さっき言ってたみたいなhime with lyrical schoolは成り立たないって思うんですよ。プロデューサーの人もそういうことは全然求めてないんじゃないかと。

明らかにリリスクは、誰か一人のスターがいて、あとその他大勢みたいな形態を志してないじゃないですか。みんなでワイワイ楽しくやる、みたいな……って言い方は適当すぎるけど。あとそれだと、グループ感が出ないから。で、himeちゃんってそもそもなんかその、一人だけバーンってなんかこう、「あたし、ソロでいくわよ!」みたいな感じのタイプじゃないじゃないですか。

N:リリスクって「RUN and RUN」で突然変わったんじゃなくて、昔から、みんな仲良くて楽しそうな感じを打ちだしてたんですか。

 僕がちゃんと見てたのは、tofubeatsが参加した「プチャヘンザ!」「そりゃ夏だ!」「リボンをきゅっと」の頃で、その後はあまりちゃんと見てないんですよ。tengal6(※)の頃からしばらくは、キャンギャル的なゆるい空気(※)があって好きだったんですよ。アイドルとして好きってよりは、この子たちと海に遊びに行きたいなぁ。飲みに行きたいなぁ、みたいな距離感で楽しんでました。

(※)tengal6 リリスクの初期グループ名。協賛企業がアダルトグッズの株式会社TENGAだったため、tengal6となった。2012年にT-Palette Recordsに移籍する際にlyrical schoolにグループ名を変更した。
(※)キャンギャル的 キャンペーンガールっぽいという意味。イベント会場でコスプレっぽい衣装を着て試供品を配るバイトをしている女子大生のイメージ。昔、イベント系のバイトをしてる時にキャンギャルを見たバイト仲間が「モーニング娘。みたいだなぁ」って言ったのを凄く覚えてて、その時の感覚で話している。


S:初期はキャンギャル感、ありましたね~!衣装とかも。今の方がストリート感あると思う。オシャレだし。それがtofubeatsが関わるようになった時期からなのか、ターニングポイントがいつなのかは正確にはわからないですが、とにかく初期とは本当に全然イメージが違いますね。

N:あの頃って、素人っぽい女の子たちが「きゃっきゃ」やってるキャンギャル感が魅力的だったんですよね。数年経ったらメンバー全員辞めててもおかしくないというか、いい意味で素人感があった。だから、ラップが上手くなるべきとも思わなかったし、ゆるくて拙いラップが心地良かった。

 でも、リリスクは、ある時期から、アイドルラップを背負うとまでは言わないけど、自分たちのスキルを上げていくプロフェッショナルな志向になったと思うんですよ。何回か行ったライブも熱くてファンも盛り上がってて、楽曲の印象と全然違うなぁと思って、好みは別として本気度は伝わってきた。ただ、それって、突き詰めると結局、一人一人がフィメールラッパー的な方向に行けるように表現者としての個性を伸ばしていくことに繋がると思って見ていたんですが、今のリリスクの表現として出てきているものは、一人一人のキャラが立っているというよりは、みんなが均等に並んでるっていう感じですよね。

 そのことに違和感があって、もしも、一人一人がラッパーとして力を付けてく方向で考えでいるのなら、この横並び感っててどうなのかなと。

S:うーん、そもそもそういう所を目指してないんじゃないですかね? さっき初期と全然違うって言っちゃったけど(笑)それは表面的イメージとか手法を変えてるだけで、目指してるものは変わってない気がする。それぞれいろんな可愛さの女の子達がワイワイいて、誰かが頭一つ飛び抜けるようなことはないっていう雰囲気はずっと同じじゃないでしょうか。

N:だから、MVがあんな凄いわりに、曲や本人達の印象がどうしても薄く見えてしまう。

S:でもそれこそが、コンセプトなんじゃないですかね?一人一人が個性を出すんじゃなく、全体の雰囲気を見せるという。

N:lyrical schoolというグループのブランドイメージが中心にあって、女の子たちは後ろに下がってるって感じがするんですけど。

S:それがまさにやりたい事なのかなと思ってました。グッズとかも顔のない女の子たちがいて、メンバーカラーの色は分かれてるけど、ペンライトが売ってるとかじゃないし。lyrical schoolというブランドを全員で作り上げている感じがする。

N:本人たちの写真じゃなくて江口寿史のイラストをアルバムのジャケットに使ったりしてましたよねぇ。そう考えるとMVの方向性も一貫してるのかもしれないですね。

(3)「3776 etc」に続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?