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ヒトのジェネレーター性を数学の生成元(ジェネレーター)で解き明かす 

3月7日(月)に行ったジェネレーター研究講座は、数学者の荒木義明さんをゲストに迎えました。荒木さんは、高校生のときに名著『ゲーデル・エッシャー・バッハ』の世界に魅了され、以来、自然の生み出すカタチの数理の世界に引き込まれ、いまや「図形の敷き詰め模様(テセレーション)」の数理研究の日本における第一人者となりました。

数学に特に関心がない人でも、なんとなく「フラクタル」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。「フラクタル」とは、簡単に言えば、シダの葉っぱのように、全体のカタチを分解して部分になっても、そこに全体のカタチがそのまま再現されていることを言います。

荒木さんは、平面のフラクタルである華厳経の宝網(インドラの真珠)のカタチを立体でも表現できるのではないかと考え、CG(コンピューターグラフィックス)を使って、それをつくりだすことに成功しました。そのカタチは荒木さんの名前の入ったフラクタルとして知られています。

いきなり数学の話で、いったいこれがどう「ジェネレーター」につながるのかと思ったかもしれませんが、実は、数学用語にも「ジェネレーター」という言葉があります。数学では「ジェネレーター」は「生成元」と訳されます。この数学概念での「ジェネレーター」と、ヒトの「あり方」としての「ジェネレーター」概念が実は大いに深い関係性を持つと荒木さんは考えているのです。

私と荒木さんが出会ったのは、2017年に私が講師を務めた講座(こたえのない学校 Learning Creator's Labo)でのこと。教育に関する講義で、その聴講生で荒木さんがその場に参加していたのです。                              

この写真はそのときに撮ったもの。これを見れば、そのときに、お互いが考える「ジェネレーター」の発想がいかに本質的につながっているかを見出して感動したかがわかるでしょう。

それから5年。奇しくも今年、二人が、まさに「ジェネレーター」概念に通じる新著を出しました。通じる者どうしはシンクロニシティが起こってしまうものなのですね。

そして今回、満を持して、荒木さんをお迎えし、思いっきり「ジェネレーター」について語ってもらいました。

荒木さんの話は、なんと朝散歩の話から始まりました。あれ?それはもしかして Feel度Walk の話じゃないの? ちょっとジェネレーターについて知っている人ならそう思うお話です。

しかし、これは単なる趣味の話ではなく、数学的な意味での「ジェネレーター」の根本につながる話だったのです。

先ほど、「フラクタルはシダの葉っぱのように」と言いました。数学は自然の美に隠された秘密を明らかにすること。毎朝、家のまわりを散歩していて何気なく目にする光景の中に、数学の神秘があると荒木さんは言います。

シダの葉のカタチだけでなく、クモの巣の張り巡らし方にも、花びらの形状と枚数にも、枝の分かれ方にも、鳥の影にも、「あ!」と思う数学的不思議が潜んでいるのです。荒木さんは、朝、散歩していると、向こうからどんどん飛び込んでくるのを感じるそうです。

「みつけようとしているんじゃなくて、勝手にそう見えてしまうんですよ」

ヒトがなんとなく発見してしまう力を素直に「ジェネレート」することが、数学的発見の礎。その面白さにはまり、それをなんとかみんなに知らせようと作品をつくり続けた人こそ、荒木さんのあこがれの人であるエッシャーだったというわけです。

「M.C. エッシャーの M.C. は Master of Curiosity と言えるんじゃないかな」

エッシャーは、アルハンブラ宮殿を訪れて、その幾何学模様に魅せられました。抽象的な模様の中に彼は「動物のカタチ」を見出し、以来、彼は、動物のカタチでの敷き詰め模様をつくることに没頭します。

荒木さんは、エッシャー研究の第一人者として、エッシャーの発想の道筋を追体験するために、自分で敷き詰め模様をつくってみる実験を積み重ねています。下の写真は、エッシャーの秘密を解き明かそうと荒木さんがつくった敷き詰め模様です。

こういう絵を見て、エッシャーの絵を「騙し絵」と称する人が多いですが、エッシャーは騙そうと思って描いたのではありません。あるカタチから無限に「生成=ジェネレート」する不思議を明らかにしようとしたのです。その到達点が下の写真の作品でした。

こうした無限のカタチの基本となるパーツは単純なもの。しかし、そこに鏡のような「生成元=ジェネレーター」を置いて、反転させて増殖させると無限が生まれるのです。

荒木さんは今回の講義のテーマを「三元生成群の諸相」といういかにも数学っぽいものとしましたが、実は、鏡を3つ置いて「生成元=ジェネレーター」とすると無限にカタチが増殖することを解き明かそうとしてくれたのです。

数学的「生成元」はもともとある単純なカタチから無限のカタチをつくりだします。それはまさに「ジェネレーター」が、しょうもないと思えるような思いつきを転がしながら面白仮説を生み出すプロセスと同じなのです。

このあたりの数学的説明も今回のレクチャーのポイント。それはぜひとも動画アーカイブをじっくりご覧になって堪能してください。

荒木さんは単純な「生成元」とヒトの「ジェネレートする性質」とを結びつけて、私達が発見した事物に触発されていかにカタチをつくりだしてゆくかを体感するパズルを開発しました。

2色に色分けされただけの正三角形を組み合わせるだけのパズル=T3パズルと言います。

ジクソーパズルは、すべてのピースのカタチ・模様が異なり、正解も一つです。しかし、T3パズルは、同じカタチのピースを組み合わせて、どんなカタチでも生み出すことができます。さらに面白いのは、つくられるカタチが、見たそのままではなく、何かに見えてしまったという「見立て」の表現であるところです。カタチは同じでも人によって見える世界が異なる。異なるカタチでも同じカタチの表現に見えてしまうのです。

このパズルは、数学的な生成元となる正三角形ピースを組み合わせて遊ぶことで、図形感覚が自然に養われるだけでなく、私たちが発見をジェネレートできる感覚を呼び覚まします。決まったカタチのピースという「制約」がありながら、なんとなく手を動かし、つくってゆくうちに、自分の中に潜んでいた「表現」が自ずと浮かび上がるというわけです。

だからこそ、私と荒木さんはここまで共鳴するのです。

このT3パズルを用いた出張ワークショップを荒木さんは学校や博物館などで行っています。また、みつかる+わかるでは、Feel度WalkとT3パズルを組み合わせたワークショップならぬウォークショップ(Walkshop)を今後行いたいと思っています。

なんとなく気になった「雑」を発酵させてあまれてゆくジェネレーター性を明らかにした赤坂先生の回と、数学的生成についての今回の荒木先生のレクチャーとは、通底するものが同じというところが本当に興味深いなと感じました。

※ 実際に動画をみたい方はぜひ We are Generators の仲間になろう!!

 参加するには以下のサイトから ↓




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