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ユースピッチャーの傷害リスクの要因について

今回も「ACSM Essentials of youth fitness」を読んで気になった部分を書いていきたいと思います。
今回はユースピッチャーの傷害リスクについて記されている箇所があったので、そこを少し調べてみました。

ユースピッチャーにおける傷害リスク

Risk of serious injury for young baseball pithcers: 10-year prospective study
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21098816/
以下、Abstractです。

研究背景
ユースの野球ピッチャーの肘および肩の傷害リスクは明らかではない(2010年時点)

研究目的
本研究の目的は、野球の若手投手を10年間追跡調査し、投球傷害の累積発生率を定量化することである。傷害リスクに関して、3つの仮説が検証された:投球量の増加、若年時のカーブボールの投球、キャッチャーも兼務してプレーすること。

方法
合計で481名の投手(9歳-14歳の男の子)が10年間の追跡調査の対象者とした。対象者は毎年インタビューを受けた。傷害の定義は、肘の手術、肩の手術、投球時の怪我による引退とした。フィッシャー正確確率検定で、研究期間中にピッチャーとして4年以上プレーした対象者と、ピッチャーとして4年未満しかプレーしなかった対象者の間で、傷害のリスクを比較した。フィッシャー正確確率検定は、少なくとも1暦年で100イニング以上投球した場合、13歳以前にカーブを投げ始めた場合、キャッチャー兼務でのプレーを3年以上した場合の傷害のリスクを調べた。

結果
傷害の累積発生率は5.0%であった。年間の投球回数が100イニング以上のピッチャーは、傷害の確率が3.5倍であった。キャッチャーを兼務している投手は、していないピッチャよりも傷害率は高かったが(11%vs4%)、この傾向は本研究のサンプルサイズでは有意ではなかった。

結論
年間100イニング以上の投球は、傷害リスクを有意に増加させる。捕手としてプレーすることは、投手の傷害のリスクを高めるように見えるが、この傾向は有意ではない。本研究では、13歳以前のカーブボールが傷害のリスクを高めることを示すことはできなかった。

個人的雑感


✓傷害を負った対象者が24名なのか25名のどっちなのか不明瞭(自分の勘違い?)。24名ならば、24/481で4.98%である。ちなみに25名ならば25/481で5.19%。まぁどちらにせよ、おおよそ5%の対象者が傷害を負ったということです。

✓13歳以前にカーブを投げてたvs投げていない場合の傷害リスクの比較は有意差なし(p=0.41)。そもそも13歳以前にカーブを習得させる習慣があるのかどうかは分かりません。もし、この実験に参加していた子ども達の指導者が13歳以前にカーブを習得させない方針があるのであれば、サンプルサイズが小さくなってしまうのは必然かなと思います。実際に、13歳以前にカーブを投げていた群のn数は103、カーブを投げていなかった群のn数は187と大きな差が見られます...(というか、103+187=290で481名じゃないぞ?残りの191名どこいった?191名はカーブを投げていないのかな?うーん、わからん。)

✓年間100イニング以上という投球量もだが、登板間隔も気になるところです。

✓有意差は認められなかったものの(p=0.88)、キャッチャー兼務で傷害リスクが上昇する可能性があるのは面白い。キャッチャーは投げる頻度は多いので、まぁあり得るかなと思います。

✓サンプルサイズを大きくすれば、カーブとキャッチャー兼務というリスク要因も有意差は出るでしょう。実際にこの研究は、アラバマ州のみで行われたようですので、他州を加えていたら違った結果になったかと思います。

✓年間100イニングというのは、あくまで試合での投球数です。試合前のウォームアップや普段の練習での投球数や投球頻度も気になるところですね。

傷害リスクを下げるには?

✓投球イニングを減らす。投球頻度を減らす。投球回数を減らす。減らすことで健康(傷害リスク減少)を獲得できるかもしれません(Adding by subtraction)。

✓様々なポジションを経験させる(ただしキャッチャーをさせるかは要検討)。

✓左右両投げに挑戦
 理想が過ぎますし、かなり難しいことかもしれませんが、一つの有益な策となるかもしれません。ごく稀に両投げの選手いるしね。

✓カーブなどの変化球の習得時期は指導者がしっかり見定める。
 いつ頃が良いんだろう?暦年齢ではなく、PHV後から習得が良いというような指標ってあるのかな?

まとめ

5%という数字をどう思いますか? 正直少ないかなと最初は思いましたが、その5%という傷害は、肩や肘の手術を経験もしくは未手術でも肩・肘の故障による競技からのリタイアと定義されています。つまり、かなり重症な傷害です。それを踏まえると、多いなと感じます。。
また、この研究のサンプルサイズはアメリカの1つの州のみです。2020年3月時点の日本リトルリーグ野球協会に所属するチーム数は、全国で674チームだそうです。(https://jllba.com/about/association/national-federation/
このチーム数から推測すると、かなりの数のピッチャーが日本全国にいるんだなと思います。日本での傷害発生率も気になるところです。
正直、私は野球界についてはよく分かりませんが、昨今の球数制限などのムーブメントを見ると、選手の健康を守るための課題というものが多いんだなと感じます。おそらく、ユースの傷害もその一つでしょう。傷害リスクを減らすための取り組みが何か起きれば良いな~と思います。


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