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高田馬場駅戸山口

 渋谷駅の地下。田園都市線を出て、階段を登り改札を出る。地上に出る手前の柱しかない空間に女は座っていた。女が壁の方を向いて座っていた。金髪の女は壁に向かって座っていた。理由はもちろんわかるわけがない。女の方も解られたくないだろう。しかし、女は誰かに察して欲しそうにも見えた。まるで誰かに見つけて欲しいとでも思っているように、その場所から動かず、じっと壁を見ていた。
 女を後にして、山手線に乗り、高田馬場駅へ向かう。
 JR山手線高田馬場駅戸山口、電車を降りると、薄暗いホーム、階段を降り、改札を出るとコンクリートの壁が駅を形作っているのがわかる。
 高田馬場駅前というとBIG BOX、ロータリーが思い浮かぶだろうが、戸山口は薄暗い。
 山手線を横に、歩き出すと、山手線池袋方面行きが走り出した。薄暗い路地の中に光る車内。ぼんやりと眺めてみると車内にはこちらを凝視している中年の男の姿。明らかにこちらを見ている。目がこちらを向いていて、電車の動きに合わせて体の向きを変えてこちらに向いている。まるで「お前のことを見つけ出したぞ」と言っているかのように。
 コンビニの灯りが薄暗い路地を照らす。空はどんよりと雲がかかったような夜空。月が出ていないため、余計にコンビニの灯りが路地を強く照らすように思える。風が強かった。枯れ切った木がゆさゆさと揺れる音がする。雲から一瞬月がのぞいた。その瞬間、建物の間からネズミが走り出てきた。
 ネズミは月明かりの差し込む道を走り抜けた。
 やがて月はまた雲に隠れた。山手線は行ってしまった。

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