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江戸東京博物館(東京都墨田区・両国駅)

以前に両国を中心としたミュージアム巡りを画策していたときにそのコースでもあった江戸東京博物館。当時は2時間くらいの時間配分だったのが見事に失敗して見きれなかった。それくらいの情報量がある。
今回はリベンジとしてフルに見てしまう心持ちで朝イチから突入。修学旅行なのか学生団体がちらほら。お侍ちゃんの江戸江戸というフレーズがひっそりと脳内を駆け巡る中、日本橋の模型を渡ればそこは江戸。
多くのジオラマが展示されていて飽きさせない。

展示コーナーには江戸開府となった徳川家康公の木像などがある。
徳川15代の将軍の系図もある(宗家は現在も続いている)。御三家とか御三卿とか血縁者の養子縁組で続いた徳川将軍家。
各将軍の肖像画もある。
家康や家光の時代は絵画で、慶喜の時代になると写真になる。基本ほとんど名前に「家」が付く。どれも格式のある肖像画のはずだが、中でも家継の絵画がゆるくて印象的である。一筆書きレベル。将軍なのに。

江戸時代の役職などもある。江戸検定一級を持っている知人がいて、めちゃ分厚い参考書を持っていた。
役職や俸禄なんかも網羅しているのだろう。
いざ自分が役職に就くとしたら何がいいだろう。老中とか大変そうだし町奉行に至っては広大な町をたった二人で差配しなくてはならない。きっとストレスでお腹いたくなっちゃう。
そんな中で見つけたのは旗奉行という高給取り。平和な江戸時代に戦争で使う旗持ちなんてほとんど閑職みたいなものだろう。なのに高給取りなのである。もう働くなら旗奉行の一択です。みなさんにもオススメ。
戦時で使われていた太刀や鎧、陣羽織なども展示されている。
基本的にすべての展示には英訳もされているのだけれど、陣羽織はarmy jacketである。間違ってはいないけれど。

ここまでが6Fで次が5Fになる。ちょうどからくり展示が企画展として催されており、実際のからくり人形を見学できた。
東洋のエジソンこと田中久重(からくり儀右衛門)の作った文字書き人形のほか、ゼンマイと歯車で英知の結晶たるからくり人形が実演されていた。
5Fは江戸の町並み。すでに生活排水用の下水道があったというのは驚く。
大工や寺子屋、洗濯屋(結びをほどいて洗うという重作業!)。汲み取り式トイレも。糞尿は商売になってましたからね。
文化の発展に伴い、出版なども江戸中期あたりから発展する。版木と呼ばれる型に刷ることで大量生産が可能になったのはこの頃。
一つ一つに巨大で精巧なジオラマが展開されていて、まさに江戸文化がここだけで味わえる試みとなっている。庶民の娯楽であった見世物小屋や歌舞伎などの巨大ジオラマなどを堪能する。
特別展では江戸時代の関取の錦絵の特集が組まれている。

江戸エリアを回っただけで3時間ちかく経過している。さすがにここまで立ちっぱなしで集中力が途切れるので一息いれ、次は東京エリアへ。

明治維新の江戸城無血開城を経て、日本の首都は東京へと名を変えた。
西洋文化と交わりあう形で東京は文明開化し、次々にモダンな建築を生み出して行く。
鹿鳴館(当然いまの目黒鹿鳴館ではない)、ニコライ堂、銀座煉瓦街。これらの模型は時間によって実際に動いたりする。
ニコライ堂とかパッカリ割れて中の様子が見られるのは壮観。
ちなみに今も明治大学のそばに残るニコライ堂は再興されたもの。コロナ禍がおさまったら見学に行きたいものです。
一方で衣食住や教育の文化も発展を遂げる。
ラジオ体操が始まるまえは亜鈴体操なる謎の体操を行っていたらしい。木製の亜鈴を両手に持ってなんか腕を伸ばしたりする。亜鈴を持つ意味があるのかはよくわからない。

教科書でうっすら習った気がする富国強兵・殖産興業の政策によって産業も大きく花開き、やがて文化は浅草十二階(凌雲閣)を生み出す。
浅草六区にかつて存在した十二階建ての塔。エレベータもあったという。関東大震災で惜しくも倒壊してしまった。
凌雲閣や電気館(映画館)ができるなど、明治〜大正時代には浅草が文化の中心となったそうで。
今は浅草っていうと古き良き、という感じがあるけれど、当時は流行の最先端だったのですね。

やがて鉄道架線を経て大正〜昭和初期の労働者住宅の展示が。この頃のトイレは少し離れた場所にある和式。そらそうですわな。
一方でモダンな和洋折衷住宅の模型もあり、ブルジョワジーまでは行かなくとも資産家の家であることが想起される。山小屋風の建築で、この家もまた住んでみたくなる家である。
そうこうしているうちに時代はやがて昏い時代へと突入する。戦時下の都民の住まい。
ガラス散乱を防ぐために紙が貼られ、電灯には光が漏れないようにカバー、そして目を引くのは鉄兜。なんとも心昏い気持ちになる。
抗えない戦争の波は東京大空襲という形で都民の上に降り注ぎ、10万人を超える死者を出した。
一方で日本軍はアメリカ本土を攻撃するために風船爆弾という和紙とこんにゃく糊で作った気球を飛ばした。その縮小模型が展示されている。
戦争を経て東京はGHQに接収されながらも徐々に復興を遂げ、ヤミ市など市民の底力によってやがて高度経済成長期を迎える。
団地の模型もある。幼い頃は団地住まいだったのでなんとなく雰囲気がわかって楽しい気分に。戦後は洋裁文化、メディアなども発展している。
最後は戦後の文化、生活様式の展示。当時のファッション、雑誌などが展示されている。流行歌も聴く事ができる。明らかに誰か個人の趣味である選曲が混じっていて面白い。
振り返ってみれば5時間である。なんというヴォリューム。しかも雑な箇所がない。
ほとんどが精巧に作られており、どれだけの資本と労力がかかったことだろう。
その間も頭の中ではお侍ちゃんの江戸江戸というフレーズが鳴りやまなかった。

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