東京農業大学食と農の博物館(東京都世田谷区・千歳船橋駅)
前回の東京オリンピックの会場にもなった馬事公苑。現在は大規模な改修工事に入っており中に入ることはできない。その馬事公苑に隣接する形であるのが東京農業大学の食と農の博物館である。博物館機能と進化生物研究所バイオリウムという二つの施設で構成されていて隣接しているそれぞれは自由に行き来ができる。
まず入口は食と農の博物館から。その名の通り農業を基幹とした食文化の発展のための研究をおこなっている大学で、1階ではその歴史、2階では研究成果を紹介している。入口でお目見えするのが巨大なトラクター。農家で使用されているようなものが実際に稼働しているのも農業大学らしい。
企画展として今回は学祖群像ということで、学校を構成するに至った三人の人物にスポットを当てて紹介している。
まずは母体となる育英黌農業科を設立した榎本武揚。幕末に土方歳三たちと函館五稜郭で明治政府に抵抗した幕臣として名が知られている。降伏後に明治政府に仕え北海道開拓に携わったことから、日本の農業発展のために農民の教育が必要と考えて農業科を設立し、のちの東京農学校となるのである。さすがは幕臣といったところで、彼の所有していた「流星刀」などが展示されている。
次は近代農学の祖と呼ばれる横井時敬。経営難により廃校の危機に陥った東京農学校を東京農業大学へと昇格させた育ての親である。もともと熊本藩の出身で幕末の動乱の中で過ごした彼は塩水選種法という稲の種を選別する方法を発表し、近代農学の発展に寄与している。農政ジャーナリストとして活動、また足尾鉱毒事件の問題を取り上げたことをきっかけに榎本武揚と知り合うなど情熱と反骨精神が彼と東京農業大学を結びつけたといってもいいかもしれない。
もう一人は日本の博物館の父と呼ばれる田中芳男。博物館界では知られた人物だそうで、日本初の博覧会開催をはじめ、博物館や動物園などの創設に関わった最重要人物で、彼が就任した東京高等農学校初代校長という肩書きよりもその功績で知られているという。現在「博物館」という名が一般的なのも田中が普及させたことによる。本草学にも詳しく、植物学の父こと牧野富太郎にも多くの助言をおこなっているなど、実はすごい人物。知らなくてすいません。
1階の隅にひっそりと展示されているのが「Kaguya」である。世界初の卵子の遺伝子のみから発生したマウスである。実はこれに会いたかった。こんなに端にひっそりと置かれているとは。もったいない。もっと前面に出してもいいくらい。
2階はさらにボリュームのある展示になっている。鶏の剥製標本コレクション117体(全て異なる種類に圧巻)をはじめとして、鳥類やワニの卵などに圧倒される中、東京農業大学卒業生の蔵元が造った銘酒がずらりと並んだコレクション。2階の半分以上がこの酒に関わるコレクションで揃えられている。国内、海外の酒器や酒造りの道具といったものが揃えられ、その質と量は有料の博物館に匹敵すると言っても過言ではない。
隣接するバイオリウムは温室になっていて、熱帯植物をはじめとした様々な珍しい植物が栽培・展示されている。その上、動物も飼育されている様子が檻の外から見られるというミニ動物園要素も含まれている。こちらも一般的な温室植物園に匹敵する量なのでぜひ訪れたいところ。
博物館とバイオリウムの両方をめぐってたっぷりと時間を過ごせる。これが大学博物館ならではの無料という。数ある大学博物館の中でもかなり高いランクにある。トイレはウォシュレット式。