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【3.11】あの日、日本にいなかったわたしの記憶

その日は、多分ハワイ島に着いた日で、友達とぐっすり寝ていた。深夜にサイレンのような音がずっとしていて騒がしく、人のざわめきやコテージのドアをノックする音が何回かあった。
わたしたちはこんな深夜に人が来るわけないし、何か事件でもあったのか、怖いから出たくない、とそのまま寝た。

翌朝、パンケーキ屋に行こうと外に出ると、向こうにレスキュー車が停まっていて、中からお兄さんが出てきて言った。君たちは何してるんだ?日本の地震で、ここ一帯は避難エリアなんだ、誰もいないよ、高台に避難しないといけないからレスキュー車に乗れ、と。
日本で地震と聞いても、よくある地震だなと思ったし寝ぼけてるからわたしたちが日本人だと思って日本で地震があったって言ったのかと思っていた。
一瞬、もう戻ってこれなかったら困ると何故か思って、荷物持って行った方がいい?と聞いたら、あと2〜3時間で解除されると思うからそのまま出る、と言われた。
実際、高台のwalmartに避難して、中をぶらぶらしている間に避難命令は解除された。

コテージに戻ってすぐ裏の道に出てみると、波が被った痕があった。島の反対側のコナでは、建物一棟が津波に飲み込まれていた。
共用のテレビを見にいくと、CNNがNHKの映像をずっと流していた。衝撃だった。津波のはずなのに、燃え盛る建物が大量に流れる映像だけが繰り返し流れていて、ようやく事態を把握した。

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当時、携帯はガラケーで、海外用に借りる習慣もなかった。iPhoneはまだソフトバンクだけで電波がクソすぎて、持っている友達もだいたいガラケーとの二台持ちだったため海外旅行に行く時はほとんど誰も海外では使っていなかった。
連絡手段としてミニノートPCを持って行った時もあったのだけれど、この1ヶ月前に行ったベルギーで友達が飛行機乗る2時間前に貴重品を全部盗られ飛行機にも乗れず空港完徹24時対応をしたので、貴重品は最小限にすべしとそれも持ってきていなかった。
どうしたのか覚えていない。多分SMSか、宿のPCでメールか、家族の無事を確認した。
大阪に本社のある内定先の人事からも安否確認の電話とメールが来ていた。とりあえず事情と無事をメールで連絡したと思う。

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友達もわたしも家族や知り合いの無事を確認し、とりあえずその旅行を楽しんだ。写真のような海沿いの景色やマウナケアのツアーも満喫した(ツアーのお兄さんはそのちょい前に長澤まさみと水川あさみがハワイ島を旅するNHKの番組でマウナケアを案内したその人で、自慢された)。
ハワイ島の人は皆、わたしたちが日本人だと知ると「家族は大丈夫?」と本当に心配そうに聞いてくれた。「大丈夫だった、家族も友人も。でも飛行機が飛んでないみたい」と答えると「Welcome to Hawaii!! 住んじゃいなよ!」とおどけてくれた(何箇所かで色んな人とこのくだりをやった)。

調べるとヒロにはtsunami museum があった。避難警報が解除されたその日、色々な店が休みだったので友達と見に行くと、ヒロには約60年前(今なら70年前)に大津波が来て、たくさんの人が亡くなっており、その時に飲み込まれたエリアには建物を建てない街づくりになっていることを知った。たしかに、海沿いの綺麗な町なのに沿岸からはかなり距離を取って道路と建物があった。あとあと、そのヒロを飲み込んだかつての津波は、東日本大震災より前は最大の津波だった三陸沖地震と連動していたものだと知った。

地震はハワイ島に着いて比較的早い日程で起こったので、帰る頃には飛行機の遅延も解消されていた。
幸い、成田からの電車も復旧していた。

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帰ってから、非常事態はまだまだ続いていた。無事だった横浜の家周辺もしばらく計画停電(輪番停電)があって、信号のついていない街のなかは不気味だった。
卒業式が近づいていたけど、多くの大学が中止だった。わたしの大学は簡素化して行われた。東北出身の友人達はわたしの知る範囲では無事だったものの、卒業前に地元に戻っていた子は交通の足がなく会えなかったし、原発事故の影響で実家が引越しを余儀なくされた子もいた。それでも無事を確認できたのは幸せなことだった。
今から思い出すとこう思うけど、当時ただの実家暮らしの大学生だったわたしは、停電寒いなと思いながら普通に暮らしていただけだった。

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あの時日本にいなかったから、関東にいなかったから共感できないことも多いと思う。でも、今は「東日本大震災」で統一されている呼称が当時はメディアによって「東日本大震災」か「東北・関東大震災」かバラバラだったりしたことや、駅や商業施設の電気が半分以下しか点けられていなかったことを思うと、「非常事態」の中にいたんだなと思う。

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思い出さないと忘れる。覚えていると思っていることも忘れていく。だから今日、ここに書いておく。

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