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【特別寄稿】天秤とダイヤモンド

とある配信者に呼応した特別原稿でございます。ちょうど良いので、LA-MULANAというゲームでの謎解きのあり方についても説明できるのではないでしょうか!
事の発端はこちらの配信

自分で地図を全て書き起こし、LA-MULANA文字を自力で解読するという想定外の攻略で進んでいたこの実況は、明らかに普通に遊んで進めている配信者と比べて持ちうる情報が多いので進める速度も違うであろうと予測できました。もちろん当の本人たちはしっかりと「難しい」「わからない事だらけ」とは言ってますが、難関と呼ばれる迷いの門や産声の碑の突破スピードや、多くの人が見逃して長時間悶絶しかねない見つけづらいヒントもしっかりと回収しておる。しかし本来読まれるわけがないであろうと仕込んでいる先の展開の情報を得ているがために起きた悲劇、ダイヤモンドとサファイアの識別を間違えるという、「天秤とダイヤモンド事件」に関しての私なりの釈明をしたいと思います。

そもそも心の天秤とは

釈明の前に解説を。LA-MULANAの心の天秤とLA-MULANA2のブラフマーの試練は同じ類の謎解きです。俺の中では決して「難しい謎解き」ではありません。単なる言葉の差し替えです。心の天秤でいえば各種宝石があり、それに対応する言葉があり、言葉ごとに数値が定めらている。つまり情報を全部集めればやることは明確にわかる事なので(そのあとの足し算と割り算は個人能力なので知らない)、情報を集める手間は大変だけれども、やる事自体は難しくない。作った側からすれば「めんどくさい」謎解きという認識です。
では心の天秤を裸にするために、オリジナル版の天秤から見ていきましょう。

オリジナル版心の天秤

この天秤の発案者はプログラマであるduplexさんです。あの迷いの門の原案者です。恐ろしいですね。
オリジナル版はMSX風という特徴というか、作る上での制約がありました。グラフィックでいえば「使える色は15色、横8ドット内に2色しか使えない」というレトロハード再現のための制約です。この制約の中で、7種類の宝石の違いを表現しなければなりません。
デザインをする上で制約があるとはどういうことか。本来ならば違いを表現するために使える要素は山ほどあります。色、形、質感、大きさなどなど。この中のどれかが制限される場合、それ以外の要素を大きくする事で誤認識させないようにします。オリジナル版の場合は大きさ固定、色制限という制約があります。

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7種類の宝石の中で違いを表現しやすいのはルビー、エメラルド、サファイアです。ポケモンの識別にも使われるくらい一般常識として知れ渡っているからです。宝石で赤といったらルビー!という具合に、こちらが苦労しなくても見る人ほとんどが識別してくれるというもの。

他にこの3つのメジャー感に並びうるものといえばダイヤモンドがあります。名前はメジャーですが色としては「透明」としか言いようがない。ここからが問題です。7つの宝石の違いを制限された中で表現しなければならない。さらにいえば、認識御三家の例のように一般的なものを選んだ方が表現不足を遊ぶ人の認識でカバーできるというもの。さらにさらに、石碑に描きやすいように宝石言葉が簡潔なものでなければならない。

そしてメジャー4宝石に並ぶ残りの3つはオパール、オニキス、アメジストに決めました。アメジストは微妙なところですが、紫色という大きな特徴がありました。赤青緑の三原色以外でコンピューターが、レトロコンピューターでも比較的色の差が出しやすい紫です。そしてオニキスも黒という事で、本体の色ではなく枠だけ描いて背景の黒を利用するやり方で表現が楽です。問題はオパールです。色は乳白というコレをなぜ選んだか?

MSXというレトロパソコンでグラフィックをやる人には有名な、「何に使うんだこんな中途半端な色!」な、ほぼほぼ灰色に近い薄黄色というものがあります。水色、青、濃い青と何故か青に関しては無敵の豊富さを持っていたMSXでは白から水色、青のグラデーションでテカリものを表現するのは定番。つまりMSXの色味で赤、青、緑、紫、黒、白以外で違いを表現できそうな色が黄色しか残っていないのです。黄色の宝石って何がある?と調べてもシトリンとか知らん!コハクだとちょっと値段的に他の宝石に劣る、他にはイエローアンドラダイト、イエローサファイアだの、使えねーよ。
という事で黄色主体ではなく薄黄色を主体とする事でオパールをチョイス。乳白と白で似てしまいそうなダイヤモンドとは形で違いを出せる。

では問題のリメイクでは?

というわけで問題のリメイク版の話になるわけですが、オリジナル版には1つ問題がありました。数値の設定ミスで回答が2つあったんですね。プログラム側は数値を見て判断しているので想定した答えとは違っていても数値があっていれば解けてしまうという。まずコレを封じるために数値を見直します。やはり手間のかかる謎解きである以上、解法は1つに絞るべきと考えます。

問題といえばオリジナル版でも指摘されていたのが、「情報は先に出揃うけども絵として見るのはやってみなければわからない」という問題。この辺はLA-MULANA2では事前に絵も識別できるように工夫しましたが、リメイクだと変えられる範囲も絞られる。ここはなんとか、「出てきた瞬間にそれとわかる」宝石にしなければならない。

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大きさが同一という縛りはあるけども、そんなものは些細な事。色の制限がなくなったのは大きい。表現力もぐっとあげられる。オニキス、アメジスト、エメラルド、ルビー、サファイアは問題なし。ここで問題になるのが、オリジナル版で選別に苦労したオパールです。MSX風の色事情を考慮しなくて良い、というか一般向けに作るのだからそういう要素を出してはいけない。となると、オパールは薄黄色ではなく本来の乳白色として表現すべき。ダイヤモンドは青グラデーションで表現ではなく、純白で透明感を出さなければならない。

……困った。真っ当に表現すると似てしまうな。しかもLA-MULANAリメイクは一番最初はWiiだ。家庭用ブラウン管で遊ぶことが前提だ。つまり細部がにじむんだ。別に遺跡の中だから綺麗にカットされた宝石が出るのはおかしいなんて考えてない。ただ、一般的に知られているダイヤモンドの円形に近いカットを採用するとにじみとぼやけでオパールとの差がわからない。じゃあ横から見て下がとんがった形にするか?いやあれは指輪に適したカットであって、流石に主人公と同じ大きさの宝石であの形はおかしい。ユーザーの誤認識を避けるためにプライドなんて曲げろよと言われても、変だと思うものは変だ。
そして至った結論が、「ダイヤモンドは原石としての形を採用する」というものだ。

釈明の結論

さて。ここまで書いてきたのは「宝石の色と形による認識のさせ方」でしかない。巷で言われている、「実は古文書に書かれた順番通りに落ちてきている」とか「丸いものとそうでないものを分ければ回答になる」ことについては触れてきていない。なるほど、色や形だけでは誤認識をゼロにはできないだろうから、違うアプローチでのフォローが用意されていると。

残念ながら、そんなことは考えていません。頭が回っていなかったはずだ。
「古文書の順番通り」については考えていたかもしれない。コレはオリジナル版でもそうだったか?昔すぎて覚えてねぇ。「丸いかどうか」なんて完全な言いがかりだ。俺はそんなこと考えてねぇ!

では俺の表現力不足が原因か?
いや、ここまで書いてきた通り最大限に配慮しておる。しかしながら情報不足の段階で挑んだとはいえ古文書を自力で読むまでしたプレーヤーのことを考えれば頭を下げるべきか?

いやしかし。そもそもこの配信者2人は鉄球ムチの前に鎖ムチの取得も「初見で失敗したから」という理由で見送っておる。先日、シューティングゲームはワンコインクリアしてこそ本当のクリアと主張する人と、「俺はコンティニューし続けてクリアして満足です」と主張した俺だ。初見挑戦に失敗した後にリセットしてやり直す事ぐらい許容範囲どころかむしろオススメだ。製作者からの挑戦?真剣勝負?なんだそれわ。みんな一体誰と戦っているんだ。

いやいやしかししかし。今の時代、製作者は遊んでくれている人に対して常に低姿勢であるべきでは?
むぅ、そうかもしれん。
インディーだから尖ってなきゃいけないとか関係なくな。
しかししかししかし、俺には忘れられないことがある。ダイヤモンドとサファイアを誤認識した情報担当にプレイ担当が言った一言。
「いやアレはダイヤモンドやったで。」

そうだ。アレはダイヤモンドだ。ちょっと水色の影をつけてはいるが、サファイアの青かと言われればダイヤモンドの白だ。
だからアレはダイヤモンドだ。
ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。ダイヤモンドだ。
わーーーーーーーーーーー。

盛り上がるのであれば、もっともっと掘り返してみようと思います。