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シュークリームと私の傲慢

2か月の自宅待機と、さらに2か月半の徒歩通勤生活を経て(会社近くにあったAirbnbの部屋に長期宿泊していた)
実に約5ヶ月ぶりの電車通勤であった。

昨夜は見事に睡眠に失敗した。遅く起きた日曜日あるあるである。

ろくに睡眠もとれぬまま己の身体を車両にドラッグアンドドロップ、乗換1回、締めて50分の電車旅。

駅から会社まで、既にジリジリと照り始めている道を歩くこと15分。

会社に着いた時点で既にひと仕事終えたような気分だ。帰りは、ジリジリがピークに達して飽和状態になっている14時。

恨みがましくつらつらと何だと言いたいところだが、疲れたのだ。
14時退社の時点でしれっと時短勤務じゃないかと思うだろうけど、この身体は疲れたと言っている。

以前記事にも書いた気がするが、私はシュークリームが好きだ。それも、カスタードクリームが満タンに入ったやつ。

最近甘いものがあまり食べられないのだが、今日は疲れもあり無性に食べたくなった。

バス停から家までの帰り道、スーパーに立ち寄る。
目指すは冷蔵のスイーツコーナー。
途中で茎わかめ、森永ラムネをテンポよくカゴに放り込む。

ついに最終目的地へ辿り着いた。眼前には3種類のシュークリーム。
生クリーム仕立て、オレオ、最後はどんな味かも忘れるぐらい邪道な一品。

怪しい。どれも、怪しい。
王道のカスタードシューが欲しいだけなのに、どうして。

悲しいが私には消去法しか残されていなかった。まず、オレオとどんな味かも忘れるぐらい邪道なやつは、無い。となると、残るは生クリーム仕立てのみ。

でも、名前はすごく美味しそうだ。「生クリーム仕立てのシュークリーム」と書いてある。こだわりの生クリームとカスタードが、半々ぐらいで良い具合に入っているのだろう。

なかなかツウな買い物をしたなと、機嫌よく帰宅。

帰宅の銅鑼を鳴らし、流れるような動きでコップに水を汲む。梅風味の茎わかめを次々と口に放り込む。酸っぱさで潤った口内に追い打ちをかけるように水を流し込む。

酸っぱさから逃げるように、徐々に甘みが欲しくなってくる。今だ。空いたコップにすかさずコーヒーを入れ、シュークリームをセット。

優雅なスイーツの時間の幕開けである。
まずはシュークリームをひとくち。

ベージュに覆われたドームが切り取られ、一気に視界が開ける。
あたり一面の雪景色かと見紛うような、純白の景色ですわよ!

よく、あまりのショックを受けた様子を「頭が真っ白になる」と言うが、私の場合、物理的に視界が真っ白になったし、精神的にも真っ白になった。

カスタードが見当たらない。

もしかしたら私の認識が間違っていたのかもしれない。不安をかきけすように、必死にベージュのドームを探った。

たまたま生クリーム側から切り込んでしまっただけだよな。そうだろう。カスタード、居るんだろう!?頼むから返事をしてくれ。

しかし、残酷にも返答は無かった。呆然とする私の眼前には、カスタードを探してぼろぼろに崩されたベージュと、流出した白が広がっていた。そう、このシュークリームは、生地とホイップクリームだけで出来ていたのだ。

「シュークリームはいかに手を汚さずに食べるか」という流儀も失っていた。これ以上私にできることと言えば、脳が"今日のおやつのチョイスに失敗した"と認識しきる前に、全てを消し去ることだった。

人生初のシュークリーム一気食べ。終わった。全部、終わったよ。刹那、一口も飲んでいないコーヒーが目に入る。

飲むか…。まずは一口。水を飲んだのと同じコップを使ったので、ほんのり茎わかめの風味が残っている。

酸っぱい。しょっぱい。いや、苦い。なんか、苦いわ…。

全ては私の傲慢だったのだ。シュークリームは、カスタードを基本装備しているものだという思い込みが起こした悲劇だった。

包装には一言もカスタードなんて書いていなかった。ただ純粋に、生クリームがフィーチャーされていた。主役になれて嬉しかったかな。生クリームには酷いことをしてしまい申し訳ない。

そもそも王道も邪道も無いのだ。シュー生地にクリームが入っていれば、みんなシュークリームだろう。明日からはもっと謙虚に生きよう。驕らず、春の夜の夢のように。

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