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綺麗でなくていい。ただ、笑ってほしい

7月某日、意気揚々と運転免許の更新へと出向いた。

免許を取ってから5年、前回の更新から3年。
ついにゴールド免許の仲間入り。無事故、無運転の成果である。

免許証更新の楽しみは何と言っても写真撮影である。

前回の写真には満足していなかった。

ちょっと笑ってみようかなという冒険心を抱いたばっかりに、口角を左右非対称に上げてしまい、ニヒルな笑みを浮かべている風になってしまった。

(↓イメージ)

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しかしあのニヒルな笑みからは3年が経った。社会に出て働いた。大人になったのである。

今度こそスマートに写ってやるぞという意気込みを胸に、写真撮影を待つ列に並んだ。

写真撮影の列に並ぶ人たちの気持ちは大体一緒だろう。いかに犯罪者風にならず、綺麗に写るかに心を砕く。かといって、そわそわと鏡でチェックし続けるのも何だか照れ臭くて気が引ける。

鏡を見るとしても、あまり目立たぬようなタイミングの1回きりに留めたい。ここぞというタイミングで、素早く仕留めるのがセオリーである。

撮影の順番が近づき、緊張が高まってきた時、前のお兄さんが動いた。ピンク色の髪に、Backstreet boysの2006年ワールドツアーのTシャツを着ている。Japanese NINJAを代表するかのような素早い動きで、壁に掛けられていた鏡をチェック。

私もその隙を逃すわけにはいかなかった。お兄さんが鏡でチェックする影で、持参していた手鏡で顔をチェック。大丈夫だ。問題はない。これであとは、笑おうなんて冒険心を出さなければうまくいくはず。

程なくして写真撮影は終了。少しあごの引きが甘かったような気がしたが、まずまずの手ごたえを感じた。これは期待できると感じ、わくわくしつつ優良運転者講習を視聴。

そして、ついに運命の瞬間がやってきた。新しい免許証との対面である。

写真うつりなんて気にしてませんけどね…という素振りで横目で写真をチェック。

その瞬間、全身が灰と化すような衝撃が走った。

Tシャツの、首回りが、ヨレている。

いやヨレなんて可愛いもんじゃない。ヒダだ。強いメッセージ性を感じるほどの見事なWだ。エリザベス1世もびっくりである。

(↓実際の映像)

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そこからどうやって最寄り駅に辿り着いたかはよく覚えていない。

駅につき、実は私の見間違いで、そこまでヨレてはなかったのではないかと思い直した。再度確認したところ、ヨレていた。まごうこと無き立派なヒダが鎮座していた。

そこから家に着くまでは、視界に入る人全員の襟を片っ端からチェックした。誰もヨレていない。綺麗な一筋の曲線を描いている。この瞬間、日本国内首回りヨレランキングのTOP10に入賞できる気がした。

何故この服をチョイスしてしまったのか。首回りが緩くなっていることは知っていた。何故いけると思ったのか。封印したと思っていた冒険心は、影を潜めて機会を伺っていただけだったのだ。見事に刺されてしまった。

後悔の念でいっぱいだった。Twitterの検索履歴は「免許証 写真」「免許 写真 後悔」「免許 写真 変更」「免許 首回り」といったワードで埋め尽くされた。

家に着き、母親に免許証の写真を添えてLINEを送った。私の母親は、いかなる状況でもポジティブな言葉をくれるのである。それを見越して自虐風な文章を綴った。

案の定、ポジティブな言葉が返ってきた。「顔は綺麗に写ってるし上出来だよ!」と言ってくれた。

そう、まさに、今回の肝はそこなのである。
首から下の情けなさに対し、顔はあまりにも真っ当な表情を作ることに成功していた。写真1枚で、お笑いの基本である緩急を見事に体現してしまっていたのだ。

写真との初対面から少し時間が経ち、ショックが和らいで来た頃、免許証を友人に見せた。

期待以上の盛り上がりがあった。

おや?と思った。実は、なかなか便利な武器を手に入れたのではないか。

それ以降も数人に見せたが、上々の反応が返ってくる。その反応を見て、私の心は跳ねていた。

最初に感じたショックが嘘のようである。完全に、お笑いの武器として新しい免許証を気に入っていた。

今となっては、いつかこの写真を変える時が来ることがとても悲しい。免許更新まであと5年、できるだけ有効に活用していきたいものである。

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