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「あたしは柴犬のアキ」2

お庭は木の塀で囲まれていて、あたしはその中を自由に走り回れる。芝生の感触も気持ち良い。パパとママが日よけテントをプレゼントしてくれたので、雨の日や暑い夏も安心。ママは毎朝お花に水をあげるとき、銀色のボールに新鮮なお水を入れてくれる。
 朝の登校時間はあたしの大好きな時間。あたしはアイドルになるの。木の塀は等間隔に隙間があって、そこから前の道が見える。道を通る人もこっちを見てくる。そろそろ部活の朝練に行く中学生たちが通る頃だ。準備しなくちゃ。塀の隙間に鼻を差し込みスタンバイオッケー。
「アキちゃんおはよう」「アキちゃん元気?」「アキちゃん可愛いね」中学生たちはあたしに話しかけてくる。「アキちゃん可愛いね、アキちゃん可愛いね、アキちゃん可愛いね」ずっとそれだけを話しかける子もいる。あっ、お姉ちゃんの友達のみっちゃんだ。お姉ちゃんが行っちゃう。急いで家の中に戻り、お姉ちゃんにナゼナゼしてもらうとまた庭に戻ってお姉ちゃんとみっちゃんを見送る。「くぅーん」寂しいなぁ。
 道を通る人が段々と増えてきた。小学生も増えてきた。みんな「アキちゃーん」と呼んでくれる。そろそろ低学年が通る頃だ。「来た来た」低学年の子供は手が小さいので木の塀の隙間にギリギリ手が入る。みんな手を差し込んであたしを撫でる。「きもちいー」あたしは指をペロペロする。その時に朝ご飯のメニューがわかる。この子はメロンパンね。この子はおにぎりね。この子はバナナね。羨ましい。いつも何も味がしなくて元気のない女の子がいる。朝ご飯を食べてないのかな。少し心配になるけど、あたしをナデナデするときはとびっきりの笑顔だから心配しないでおこう。塀の向こう側にお兄ちゃんが来た。お兄ちゃんはここで友達と待ち合わせだ。「いい子にしてるんだよ。ちゃんと留守番しててね」いつもと同じことを話す。お兄ちゃんの友達の小太郎君がきた。小太郎君があたしに「夕方いっしょに遊ぼうね。行ってきまーす」と言ってお兄ちゃんと二人で学校に向かった。少し時間がたって、遅刻ギリギリの子供たちが走りながら大きな声で「アキちゃーん」と叫びながら通り過ぎるのを「ワンワン」とお返事した。町のアイドルは忙しい。やっと一息つける。芝生にゴロンと寝転がって空を見上げた。とっても幸せ。

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