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「あたしは柴犬のアキ」35

 今日もジョンの捜索ね。頑張ればすぐに見つかると思っていたけどなかなか見つからない。あたしから言い出したから、モモちゃんに弱気なことは言えない。よし気を取り直してモモちゃんを誘いに行こう。

「モモちゃん、ジョンを探しに行こう」
「オッケー。アキちゃん毎日ありがとうね。とても感謝しているわ。」
「モモちゃん、今日も頑張ろうね」

 あたし達はいつも様に歩いた。ジョンがいないと分かった道はもう行かないので段々遠くまで探しに行くようになった。

「モモちゃん、今日も遠くまで来ちゃったね。時間がないからもう帰ろうか?」
「そうねアキちゃん。帰ろうか」

 あたし達は少ししょんぼりしてお家に帰った。モモちゃんにバイバイを言ってお庭に戻った。芝生の上でゴロゴロしていると誰かが塀の向こうから覗いているのが分かった。塀のところまで行くと赤ちゃんを抱っこした女の人が立っていた。あたしには誰かすぐに分かった。のんちゃんだ。あたしは嬉しくて嬉しくて大声で吠えた。すぐに赤ちゃんが泣きだしたので吠えるのをやめた。
「サクラ元気だった?ごめんねさくらを手放して。サクラは今幸せ?家族の人は優しい?」塀越しにのんちゃんはたくさん話しかけてきた。あたしはたまらなくなって外へ出てのんちゃんのところに走って行った。
「のんちゃん、のんちゃん。抱っこしてよ。抱っこ抱っこ」あたしはのんちゃんの足にしがみつきながら吠えた。赤ちゃんが泣いても吠えた。
「サクラどうやって出てきたの?放し飼い?」
そんなの今は関係ないよ。のんちゃん、赤ちゃんが産まれたのね。おめでとう。でも少し寂しいわ。あたしを連れて帰るの?なんでここにいるの?あたしの頭は混乱して訳が分からなくなった。
「サクラお座り」
のんちゃんにそう言われたのであたしはお座りした。のんちゃんもしゃがんであたしをいっぱい撫でてくれた。
「ごめんねサクラ。赤ちゃんを産みに日本に帰って来たの。またアメリカに戻らないといけないの。サクラは連れていけないの。サクラがどうしているか気になってこっそり見てみようと思ったの」
のんちゃんはそう言うと大声で泣き出した。赤ちゃんも泣いていた。

のんちゃんもう良いよ。あたしは十分幸せだから。赤ちゃんを可愛がってあげてね。のんちゃんと暮らしている時より一人ぼっちの時間も少ないし。でものんちゃん大好きよ。

 それからのんちゃんはバス停の方に歩き始めた。あたしはお座りしたまま見送った。のんちゃんは振り返らなかった。

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