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娘は優しい絵を描く

先日、久しぶりに実家の2階に上がった。


実家とは不思議なところだ。
自分の育った家。
よく知っている気がするのだが、少しづつ知らない場所になっている。
そりゃ、そうだ。

一人暮らしを始めるため実家を出るとき自分の荷物は整理処分して出たが、姉の子が遊びに来たときに読めるよう、本や漫画は残してきた。

最近また「じゃりン子チエ」が読みたくなり、実家へ探しに帰ったのだった。



2階の物置に入って本棚を探したが、お目当てのチエちゃんは見当たらなかった。
(さすがに、もうないか…)

北杜夫さんの「さびしい姫君」があった。
(お、懐かし。ならば、船乗りクプクプもあるはず)
「船乗りクプクプの冒険」は残っていなかった。残念。一番好きな話だった。
向田邦子さんの「父の詫び状」も見つけた。
(これ、あったのか。買いなおしちゃったよ)

本探しを終えて物置の中を眺めていると、一番奥の半透明の衣装コンテナに目が留まった。
(おやおや?)
中に、子ども時代に描いた絵などが詰め込まれている。
見ると他にも、同じような箱や大きな紙袋が脇に置かれていた。
どうやら、私たちきょうだいが描いた子どものころの絵や作文、中学や高校時代の生徒手帳や文集、制服までもが全部まとめて置いてあるようだ。
(なんじゃ、これ。)

何年か前、姪がこの家に下宿するとのことで
「2階の部屋を片付けてたら、○○ちゃんの昔の制服とか出てきたんだけど、どうするー??」
と連絡がきたので
「申し訳ない。全部、捨てちゃって!!」
と返していた。てっきり、もう処分したと思っていた。

聞けば、まとめて捨てようとしていたのを母が阻止したようだ。
母心…。



そんな訳で、改めて自分の荷物を片付けに実家に向かった。
捨てるものが多くなりそうなので、運び出しの手伝いで娘にも付き合ってもらった。



着いてすぐさま片付け開始。
手始めに高校時代の箱を開いた。
娘が私と同じ高校に通っており、ちょっとばかし盛り上がった。

作品を全部みていたらどれだけ時間があっても終わらない。
その後は、超速で作業を進めた。
(作文は面白そうだ。家に持ち帰り読んでから捨てよう)

(絵はそんなに好きじゃなかったな)
まとめて丸めてあった画用紙を手に取り
「全捨てじゃ!」と私
「速っ。躊躇なし!」と娘

用意してきた袋に景気よく作品を放り込んでいると
「ちょい待ち。その風景画、見せて」と娘
「なん?」
「母上、絵、上手いね」
「えー?んなことないやろ」
「その校庭で描いた絵も、この絵日記の朝ごはんも、同一視点で描かれてる」
「そうなの?わー嬉し、褒められた!同一視点て何?」
「同一視点てのはね、云々」

改めて自分の絵を見てみたが、
どの絵もぼんやりとした日常の風景が描かれているだけだ。
わくわく感もない。
(学校で描きたくなくても描かされていたんだからなあ)

一枚だけ素敵な絵があった。小学生のときに飼っていた犬の絵だ。
(これ、持ち帰ろ)



私は絵を描かない。
夫が絵を描くのも見たことがない。
けど、娘は絵を描く。不思議だ。


娘の描く絵はとっても優しい。
デジタルや透明水彩絵の具を使って描く。
何時間でも描いている。根気がよい。描くのが好きなんだろう。
”推し”の絵を描くほかに、空の青や光を好んで描く。
どれも色味が優しく穏やかだ。

”学校では超クール、家ではお喋りな女の子”
”体が丈夫で食いしん坊、頼りになるしっかり者”

そんな娘の姿からは想像できない、繊細で優しい絵を描く。
(この子の内面の優しさは、こんな風景なのかな)




絵が完成するといつも、
「でけた~。見る?」と嬉しそうに言ってくる。

その優しすぎる絵を見て娘を愛おしく思い、
そして少し切なくなる母である。