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あとからジワジワくる悲劇

渋滞、渋滞の往路

広告代理店社長、T氏に起きたある悲劇である。
朝、クライアントの本拠地に車で向かったT氏は大渋滞に巻き込まれた。
その日はコピーライターN氏との同行だった。
「もう、どうしたんすかぁ。こんなに遅れて」
待ち合わせにも遅れて、朝からN氏にブツブツ文句を言われるT氏。

おまけに、そこから先の道も大渋滞であった。
「こんな渋滞はめったにないのに、まったく今日に限ってどういうわけなんだよ……」
T氏のイライラは募るが、ひとまず、クライアントに到着の遅れを詫びて了承してもらった。

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30分以上も遅れて、目的地そばにある公園の敷地内に車を停める。
「こんなとこに停めてだいじょうぶなんですか?」
「野球場もあるような大きい公園だから、だいじょうぶだよ。ここは駐禁もないし」
たしかに駐車場もなく、通路兼駐車場になっているらしい。
道の両側に車が何台か停まっていたが、幅は広く、とくに通行にも支障はなさそうだった。

大破した愛車を見つめる男

その後、クライアントへの取材はスムーズに終わり、ふたりが公園にもどったときだ。
「うわっ!」
「なんだこりゃ!」
ふたりは思わず大声をあげた。
向かいに停車していた車の左側の車体が、ぐちゃぐちゃに大破している。
どうやら斜めから強い勢いで追突されたようだ。

60歳代に見える男がその場に突っ立っていた。こちらの気配に気づかず、腕組みしたまま、放心してその車を見つめている。
その様子から加害者ではなく、被害者だと見て取れた。

加害者や加害者らしい車はここにない。
愛車の持ち主はどうしたらいいのか、手がつけられないようだ。
意気消沈して怒る気力すらないのだ。
それを見ているこちらもかける言葉が見つからない。

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他人の悲劇を見るとき、それが命に関わるものなら厳粛な気持ちにもなる。だが、このような場合、そこまで良心のブレーキをかける必要もない。
そのうち、なんだか非現実の世界を見ている心境になってきた。
ご本人には気の毒だが、目の前の光景がコントのシチュエーションにも思えてくる。

まさしくT氏がそんな心境だったようだ。笑いをこらえながらN氏に車に早く乗れと促した。
車に乗ったとたんに、T氏はゲラゲラと笑い出した。
「ハハハ、あの人には悪いけど笑っちゃうよなぁ。あそこまでやられちゃうと、あんな気分だろうなぁ」
「それにしても、ひどくやられてますね」
「ほんとだよねぇ、あの車オシャカだよ。ハハハ」
無関係のT氏は笑いながらハンドルを握り、車をスタートさせた。

困惑するT氏にいったいなにが?

帰り道の車内。ラーメンはとんこつか、カツオのきいたダシか、ふたりは論争しながらのんきに帰り道をたどった。
その後、T氏が「寄りたいお得意さんがある」と言うので、N氏は途中の駅まで送ってもらいその日は別れた。
それから買い物などをして夜遅く自宅に戻ったN氏は、いつの間にかT氏から留守電が入っていたのに気づいた。
渋滞以外はなんの問題のない1日……の、はずだった。

続編はこちらです。


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