あとからジワジワ思い出す予感
※この話は前回から続いています。
泣きべそをかくオヤジ
N氏はT氏からの留守電を聞いてみた。
「まいちゃったよ……折り返し連絡もらえるかなあ?」
さっそくT氏の携帯に電話をかけてみる。
「どうしたんですか?」
「あのさぁ……今、オレ、警察から出てきたとこなんだよぉ」
「えっ!?」
すでに泣きべそをかいているオヤジ。
「実はさあ、あの公園から車出したとき、気づかなかったんだけど、オレの車も後ろをぶつけられてたんだよ」
「車の後ろ!?」
ふたりとも、前のほうから座席に乗ったのでまったく気づかなかったのだ。
T氏は最初の取材のあとにもう1軒、お得意さんまわりをしたのだが、車を駐車場に止めて、何気なく歩き出してから破損に気がついてぎょっとしたらしい。
幸い、テールライトの破損だけで済んだようだが、T氏は2軒目の得意先から、数十キロも離れた事故現場を管轄する警察署に引き返す羽目になった。
それから、長々と事情を説明することに。さらに、加害者を待ち、現れた本人とも賠償の話をつけた。
事故の概要
不可解なのは、どうやってそんな事故が起きたのかという点だった。以下はT氏の報告である。
「ぶつけたのが、60後半くらいのおじさんでさぁ、あのスペースでUターンしようとしたらしいんだよ。無理があるよなあ、あそこでやるか!?」
たしかにUターンするには無理がありそうだった。
「それだけでも強引なのにさあ、ブレーキとアクセルを間違えて踏んじゃったらしいんだ。で、そこらじゅうの車に放射状にぶつけまくったんだって。
オレの車はかすってテールライトだけで済んだけど、強い勢いでそこらへんの車全部にぶつけたらしいぜ。事故にあったのは、オレたちが見たあの1台だけじゃなかったんだよ!」
N氏はなぜか、フライパンの中でゴーヤチャンプルーの豆腐同士がぶつかりあって、角から崩れていく様子を想像してしまった。
「でも、まさか、オレの車までやられるとはなあ……まだ手続きが残ってて、このあとも警察行かなくちゃならないんだよぉ……もう、めんどうくせえなあ……あんな遠くだぜ!行って帰ってくるだけで一日終わっちゃうよぉ……」
イヤな予感がしたと言い張る男
それからT氏は不意にへんなことを言い始める。
「そう言えばあそこに停めるとき、なんかイヤな予感がしたんだよなあ。どうしようかなあ、ここでいいかなあ、なんかヤバイかもしれないなあ、なんてさあ……」
え、そうだっけ?イヤな予感とか、ひと言も言ってなかったけど?躊躇なく止めてたけど?むしろイキイキと。
「あの予感に従ってりゃよかったんだよ」
予感とか霊感とか、いちばんないタイプじゃん。
「まったく今日は朝から渋滞ばっかだし、お客さんのとこは遅れるし、踏んだり蹴ったりの1日だよ!」
そう言うけど、仕事はうまくいったんだし、テールライトだけで済んだし、もういいんじゃないの?あ、もはや聞く耳もたずって感じ?
「このあいだ、競馬で当てたのが悪いのかなあ」
あ、そうだったの?競馬当てたの?そういえば、あんた、株でもうけたなんて噂も聞いてるけどほんと?
「まったく、ツイてねえなあ」
まだ嘆くT氏。これで運命のバランスがチャラになったのなら、むしろ喜ぶべきなのかもしれない。
完
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