アウトレイジが激震するスーパーで10:15
※この話は前回から続いています。
孤軍奮闘の女性、ボサッとする仲間たち
坊主はすばやくうどん売り場に引き返し、棚の前から大声で叫ぶ。
「おい!ここだ!ここからとったんじゃねえか!150円じゃねぇだろ?!」
レジの女性は仕事に慣れているようだが、こんなことは珍しいのだろう。両方の掌を自分の胸に当てて、動悸をなだめているようだ。
なんとかしなければ。N氏はまわりを見た。
向こう側のレジにいるもうひとりの女性は、並んだ客とともに目を見開いてこちらを見ている。知らせてやれ!こっそり目で合図をするが、突然の出来事に動転したままだ。
うしろを振り返ると、なんと総菜売り場で働くバイト君が白衣のまま、自分が買う弁当をもって、列の後ろで見ているではないか。
おいバイト!ボサッと突っ立っていないで、入口の警備員のおじさんを呼んでやれ!しかし、これも口をポカンと開けたまま、蝋人形のごとし。
150円のうどんで因縁をつける男
もう少しもめたら、あのバイトに「責任者か警察を呼べ」と耳打ちしに行こう。そんなことを考えながらN氏が見ていると、坊主が帰ってきた。
ところが、彼はそれからレジの女性と小さな声でなにかをやりとりをし始めた。ん?どういうこと?
結局、坊主はぶつぶつ言いながら、150円のうどんを認めた気配である。
となりにあった「3玉入り150円」と「1玉100円」のうどんの値札を勘違いしてたことを自覚したのか。自分の非は小声で謝ったのかもしれない。
坊主は照れ笑いさえ浮かべたものの、ここで急展開が起きた。
「でも、ほんとに150円だったらどうすんだよ?」
この因縁、やはりカタギではないようだ。レジの女性の災難はさらに続くのか。しかし、女性は気丈にも笑顔で精一杯とりつくろった。
「いえ、まちがいございませんので。申し訳ありません……」
「なんだ、そうかよ、へへっ」
男の悲鳴が響く急展開
坊主はあっけなく屈服。こうして、すべてが無事に終わりかけたときだった。
「お会計2,400円です」
ここでまた男は大声をあげたのだ。
「えっ、2,400円?!そんなにいくのかー?!おかしいじゃねえかよ!」
どこまで貧乏なんだ、この男は。
「いえ、でもほんとうなんです」
レシートを広げて見せる女性。おっと形勢逆転で助っ人いらずの雰囲気。
「これが1,850円なので……」
彼女が示した商品は4リットル入りの焼酎ボトル。取っ手のついたお徳用の安焼酎だ。
「これが1,850円?!」
血走った目で悔しそうに歯ぎしりする坊主。女性がダメ押しをする。
「すみません……」
「わかったよ!」
枯葉舞い散る10:15
観念したらしく、坊主はなけなしの小銭をポケットから全部出し、ジャラジャラとレジの皿に広げた。10円玉から5円玉まである。
「2320、2325、2340、2350、2360、2370、2380、2390、2400!これで全部だな!あるな?! たしかに?!」
「はい!たしかに!」
女性は緊張で身体を固くしながらも、頭を下げて言った。
「ありがとうございました!‥あの、レシートは?」
「いらねえ!」
完敗した男は肩をいからせて大股でそとへ出ていった。どこぞの街のバックストリートでのお勤めを終えて、寝酒を楽しもうとしていたのに。
10円でも節約したかったのに、なけなしの金を使ってしまった。安ジャージに身を包んだ男の背中に、曲線を描きながら枯葉が落ちてきた。
完
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