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大人の歯列矯正備忘録~14.高度な手技が生み出したハンニバル

ワイヤー生活にめどがついたと思ってから、数か月。
ひと月ごとの調整で、まだまだ新しい展開が待っていた。

新しいワイヤーをつけたら、小さな小さな輪ゴムで歯とブラケット器具とワイヤーとを固定するのに、その日は初めての感触が訪れた。

ほっそい針金がきゅいーっと私の鼻先に向かって伸びている。
一瞬だけ見えた針金と、唇に触れる感触でそう感じているだけで、実際にどうなっているのかは見えていない。
でも、きゅいきゅいしている……なんだろう、これ。

処置が終わって手鏡を見ながら説明をうける。
ゴムとは違う留め方で、歯の向きを変えるための針金でワイヤーを固定した、と。
さらに別の歯には、上の歯と下の歯をつなげた輪ゴムもかかっている。

……え?
人として、この輪ゴムはつけたら生活できないのでは?
と、ほんの0.2秒くらいとかで考えたけれど、すぐに先生からの説明があった。

食事や歯みがきのとき以外は、こうして歯に輪ゴムをひっかけてね。
この袋に100個くらいゴムはいっているから、自分で付け替えてね。
最初は慣れなくて大変だと思うけど、ここ、見える?
この突起にゴムをひっかけてね。
もし口の中で気になるようなら、こうして爪で少し出したり押し込めたりできますからね。

自分で付け替える、小指の直径よりも小さな輪ゴム。
その輪ゴムをひっかけるための突起を、ワイヤーで先生がこしらえてくれていた。

鏡で見ても、ほんの1ミリくらいしかなくて、どういう手技を使ってこれをあんな短時間に作り出していたのか。
あなどれない、歯科矯正の世界。

その後、早速食事の前に輪ゴムをはずしてみた。
下の歯の突起は鏡で見えるけれど、上の歯は何となくでしかわからない。
洗面台で鏡に接近しても、見えそうで見えないし、指ではブラケットの突起なのかワイヤーなのかも判断ができないくらい小さい。

だけど、なんとか食後にもまた輪ゴムをつけることができた。
しゃべるときも、見た目ほどは気にならずにしゃべることができるし、マスク生活のおかげで人からも違和感は感じられずに済んでいる。
「ゴムかけ」と呼ばれたりもしているようなのだけど、比較対象もわからないし、どこにどう作用していくのか、あまりピンときていない。

ただ、調整後に食事がしづらい日がほとんどなくなっていたところに、また噛むのがしんどい状況が出てきたのは、ちょっぴりしんどい。
でも、それだけ動きがあるということなのかもしれない。

ゴムかけから数日、付け忘れてしまうことが多い。
歯みがきをして、その勢いでつければいいのに、つい仕事中は昼休憩からバタついて忘れてそのままになりやすい。
せっかくのお金と時間、しっかりと続けなければなあ。

先はまだまだ、長い。


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