今日も運転しなかった 第1回

 3年前の秋、私は横浜市に住んでいた。

 駅から徒歩30秒。始発のチャイムとお隣のパン屋の匂い。オートロックで開くドアの音。そして何より道行く人の足音が絶えない部屋に、息を潜めて生活していた。

 大倉山駅は各停なので次の綱島で急行に乗り換える必要がある。そのため、決して広いとは言えない商店街に人の流れが続いた。朝の散歩途中、ほぼ表情のない人の群れに合流し、駅から出てすぐの坂道を歩いて行った。マンションは目と鼻の先だ。

 片田舎で育った私は、カーテンを閉めて生活する癖がない。ある時は課外授業らしき小学生たちに筒抜け状態だったこともある。一人の女の子が手を振ったのだ。大人がいるぞ、とキラキラした目で私を見ていた。

 PASMOにチャージする。コンビニやスーパーで使う。さて、財布に残った小銭を何に使えばいいのか。一応、頭で考える程度の生活はできていたようだ。私は歩いてツタヤに向かった。旧作コーナーへ直行したのは言うまでもない。お腹がすいていた。ひどくすいていた。だからといって指紋がついたDVDを食べるわけにいかない。右手はかつてヒットした作品に伸びた。

(つづく)