今日も運転しなかった 第7回

20歳になる前、シナリオセンターの門をたたいた。

東京に部屋がなく、その日決めた安宿に泊まり歩いていた。新幹線が着いた上野界隈でポケット地図を見ながらのプチ放浪だった。

当時はもちろんスマートフォンなどない。ようやく携帯電話が一般化した頃である。街にはネットカフェもなく、ミレニアムにしては活気がないようにも見えた。

〈オリエンタル〉と書いたビルに入ると、フロントまでエレベーターに乗った。ある日はカプセルに、またある日はロビー前のリクライニングチェアで寝た。

明け方、ふと目を覚ますと、知らないおっさんの足が投げ出されていた。別のおっさんが脱衣麻雀に興じる横顔を薄目でとらえたこともある。360度、どこを見渡しても自分より年上ばかりの場所だった。

田舎で貯めたバイト代など高が知れている。カンゴールの鞄にあれこれ詰め込み、カプセルから週1回の授業に休むことなく通い続けた。

奇妙なことに、解放感からは程遠かった。田舎が狭いとは思いこみだったようだ。地下鉄を乗り継ぎ、風俗の呼び込みをかわし、お腹を空かせて表参道に向かう。自分に名前があるのかすら疑わず、ひたすら歩いては時間をつぶす。一人でいると一日が長い。そしていろんな大人が話しかけてくる。

8週間の基礎講座を終えていた。本科へ進む意思があるかどうか、最前列にいた私に、講師が聞いた。

私「行かないです」

講師「行かなくてどうやって学ぶの?」

そのあとクラスに笑い声が起こった。本科へ行かない理由は、ただお金が足りなかったのである。

ぜひ完成した映画脚本を読ませてあげたい。私は本科に進まず、書き上げることができたのだから。

(つづく)