又吉正直

那覇市首里生まれ。獣医学博士。映画、落語、ボクシング、将棋、創作料理に埋没して、半世紀…

又吉正直

那覇市首里生まれ。獣医学博士。映画、落語、ボクシング、将棋、創作料理に埋没して、半世紀をゆるゆると経過中。映画や文芸に登場する人と動物たちの「業」と「妄想」を観察、探求する日々。著書に『お苦しみはこれからだ』ボーダーインク社。創作落語は「元牛」、「異邦人たちの秋」など18編。

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あなたに似ない人へ

 えェ、久方ぶりのお運びでありがたく、おめくりを頂き御礼申し上げます。どうぞしとつ相変わらずのご愛顧を願いたいと思っております。  日本人というものは、たいへんにこのブームに乗りやすい国民と申しますか。近頃はいろんな○○活というのが流行っております。以前からよく知られているのが就職活動の就活。すこし前から流行りだしたのが結婚活動を略した婚活。社会学者の山田昌弘氏が考案、提唱したものらしいんですが。造語の名人で「パラサイト・シングル」なんてェのもこの人が広めた言葉ということらし

    • 君知るや名肴ゲテモノ

       日本獣医師会の学術・教育・研究委員(12名)が6月上旬、東京の青山で開催された。前日本大学総長の酒井健夫氏が委員長で、筆者は九州ブロックの代表委員を務めている。  折角なので前泊して、独自のテーマを設定し、スタディを開始した。題して「野生鳥獣肉の安全性確保に関する研究」である。なお、本研究は日本獣医師会への政治資金は転用されておらず、すべてが私財を投じての「うぁーばぐとぅ」であることを申し添えておく。  初日は神田の「罠」に捕らえられた。店のコンセプトは“北海道から九州まで

      • 犬には向かない職業

         人間の脳下垂体と精巣を移植された犬が、名声と女性を欲し、人権を求めて労働者階級と共闘しながらブルジョアを震撼させる『犬の心臓』というSFがある。  モスクワで独裁者スターリンの弾圧に怯えながら、ミハイル・ブルガーコフが書いたこの体制批判の小説は国家政治保安部に押収され発禁となり、活字になるまで死後28年を要した。  実はこの隠喩には『タイム・マシン』や『透明人間』を書いたH・Gウェルズという先駆者がいる。『モロー博士の島』は他の生物を人間のように改造するという設定が話題を呼

        • A・ヒッチコック、都知事ヲ叱責ス

           深夜、アマチュアの霊媒師でもある私の元へ、アルフレッド・ヒッチコックが『裏窓』を叩いた。  以下はロンドンの鶏肉商の息子として出生し、『鳥』で世界を驚嘆させたサスペンスの神様との交信録である。  M 奇しくも『引き裂かれたカーテン』越しで巨匠と遭遇するとは。『サイコ』を観て以来、崇敬の念を抱いておりました。  H 『レベッカ』(おべっか)はいい。早速本題に入ろう。  M 日本では桝添都知事が『断崖』絶壁です。公用車での別荘通いは高額海外出張を皮切りに、私的な飲食費や美術品購

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          霊長目ヒト科の同胞

           この世で2番目に助平な動物を解剖したことがある。1992年、沖縄こどもの国で病死した11歳のオランウータン(雌)である。  発症する訳1年前に飼育員の交代を契機に情緒不安定になり、削痩、四肢の運動障害、黄疸、血便などを呈した。体重は発症前の約半分の31.5Kgだった。  わたしが務めていた家畜衛生試験場の病性鑑定で、病理組織検査からヘルペスウイルス感染が示唆され、細菌検査では各臓器から大腸菌が分離された。  ヘルペスウイルスグループで最も危険なのは4類感染症のBウイルス感染

          霊長目ヒト科の同胞

          『山羊たちの沈黙』

           山羊たちは自信を喪失し、黙り込んでいたらしい。東海林さだおの丸かじりシリーズでは「あまりの臭さに鼻が曲がり、目が曲がり、耳が曲がって顔全体が曲がった」とあり、さとなお著『沖縄やぎ地獄』では、山羊汁は天王寺動物園の畜舎を彷彿させるという。あまつさえ同胞は高血圧の一因を山羊肉に転嫁した。  無辜な彼らを救済すべく、「山羊博士」こと平川宗隆県獣医師会長を旗頭とする山羊凶(フリーク)の三銃士(又吉栄忠・松川善昌・筆者)と県立博物館友の会辺境サークル一行は2月下旬、3泊4日のリベンジ

          『山羊たちの沈黙』

          『ニーチェの馬』の飼い主

           「1989年1月3日。哲学者ニーチェはトリノの広場で鞭打たれる馬に出会うと、駆け寄り、その首を抱いて涙した。そのまま精神は崩壊し、彼は最期の10年間を看取られながら没したという。馬のその後は誰も知らない」。ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受けたハンガリー映画『ニーチェの馬』(タル・ベーラ監督)は、この逸話にインスパイアされて生まれたという。  映画の冒頭のシーンでは、走る馬を自由自在にカメラが動いて移動撮影されており、モノクロの農耕馬のクロースアップが圧巻である。ちなみに競走馬

          『ニーチェの馬』の飼い主

          「蛇含草」そして創薬

           上方落語に「蛇含草」というシュールでいわゆる見せる噺がある。この江戸版が同工異曲の「そば清」  山中で蟒蛇が人を呑む。鶏や兎と違い、人ともなると苦しくて七転八倒する。やがて谷底の赤い草をなめるとペソッと腹がへこむ。蟒蛇の消化剤だ。それを見ていた旅の者、草を持ち帰り、大食いの賭に挑戦する。もうこれ以上は食えないというところで廊下に隠れて蛇含草をなめると、それは「人間」を溶かす妙薬であった。サゲは不審に思った賭の相手がそっと襖を開けると、巨大な餅(蕎麦)だけが甚兵衛(浴衣)を着

          「蛇含草」そして創薬

          李小龍と暮らせば

           「一九六五年以前に生まれた男子で、ブルース・リーの真似をしたことのない人はいるのだろうか」。敬愛する映画評論家、芝山幹郎著『映画一日一本 DVDで楽しむ見逃し映画365』(朝日文庫)の「燃えよドラゴン」の冒頭記述。  わたしは無類の「格闘技オタク」であり、小学校の頃から「プロレス&ボクシング」、「ゴング」の両誌を定期購読していた。格闘技の見巧者を自認していた高校生もあの李小龍(ブルース・リー)のアクションには心底度肝を抜かれたし、「Don't think. Feel!」(考

          李小龍と暮らせば

          トラケパケのコネホ

           1999年秋、JICAの個別専門家派遣事業でメキシコ、ハリスコ州・グアダラハラにひと月滞在した。メキシコシティに次ぐ大都市ながら旧宗主国スペインの植民地だった面影を残す古都であり、有名なマリアッチの発祥地と言われている。  派遣先はトラケパケのラボで、病原性細菌の診断技術の指導が目的であった。当初は炭疽菌や気腫疽菌の同定法も構想にあったが、日本からの菌株の持ち出しに制限があり、断念した。  わたしは過去にボリビアの研修生を指導する機会があり、スペイン語は簡単な日常会話は話せ

          トラケパケのコネホ

          トラと相伴した1時間

           商売柄、干支の動物は神獣である龍を除いて病理解剖や採血、はたまたペットにした経験があるが、トラだけは縁がなかった。  しかし、図らずとも実現することになった。  ある2月の昼下がり、わたしは久茂地の蕎麦屋・美濃作のカウンターで会津若松の銘酒「名倉山」を飲りながら、海老天を頬張りつつ嵐山光三郎の『文人暴食』を読んでいた。  しばらくすると、関西弁の巨軀の男が隣端に座った。舎弟とおぼしき連れは小上がりに鎮座する。どすの利いたしわがれ声が睥睨するかのように店内鈍く響いた。  どう

          トラと相伴した1時間

          ハラボジ…そして黄牛

           沖縄本島で観測史上初のみぞれが降った。こういう日こそ寒さが売りの映像に限ると独りうそぶいた。 『牛の鈴音』(イ・チュンニョル監督)は、慶尚北海の奉化郡を舞台に、「大地を耕し、子を養ったすべての牛と父親に捧ぐ」とある。しかし冒頭からハルモニ(イ婆さん)がハラボジ(チェ爺さん)に対し、悪態罵倒、罵詈雑言を浴びせるシーンが延々と続く。 「何の因果でこんな男に嫁いだのか。16歳で100キロの道をやってきたのに」 「あの牛は幸せだ。牛には毎日餌をやるのに、私はほったらかし、。死ぬまで

          ハラボジ…そして黄牛

          牛肉より旨いらしい……

           松の内にミケランジェロ・アントニオーニ監督の『さすらい』を観た。「愛の不毛」にさまよう中年男が題材のこの作品は世の該当者連の自己憐憫(ウチアタイ)が半端ない。名称の故郷、北イタリアのポー河流域で展開するあるシーンが意表を突く。主人公の雇い主は南米で一旗あげた成金だが、従業員が捕まえた獲物を食べながら、ひとくさり珍味談義が始まる。 「ハリネズミは堅いな。カバはまるでバターのように柔らかかったが。あとイグアナも旨かった」  わたしはこれを横目に昔、琉大の動物解剖学の教授がささや

          牛肉より旨いらしい……

          ⑪『落語放浪記』

           えェ、人には自分ではない何かになってみたいという気持ちがあります。いわゆる変身願望というやつですネ。まあそうは問屋が卸さないから、毎日悶々とする。その点、落語の世界は現身を忘れさせ、時空を超えた異境に誘ってくれます。  ソフトバンク「ホワイト家族」の父親の北海道犬がオモロイですね。ひょっとすると古今亭志ん生の名演もある「元犬」を換骨奪胎したのではないでしょうか.江戸時代の心学から出た落語で、当時白い犬は珍しく、それだけ人間に近い存在と思われたのでしょう。  わたしも触発され

          ⑪『落語放浪記』

          ⑩ わが××は緑なりき

           数年前に「ちょいワルオヤジ」という言葉が流行った。一瞬、オキナワ中のオヤジがすべてそれに該当するような感もする。が、創案者の『LEON』初代編集長の岸田一郎氏によれば、年代は三十代後半から五十歳を少し上回り、年収は千五百万円から三千万円程度で、高額商品を抵抗なく消費する贅沢趣味を持つ。さらに二、三カ国語に堪能で淑女と熟女らと洒脱な会話を縦横に応接できる付帯条件などもあり、本県においては皆無であることが判る。  細菌の世界で「ちょいワルバクテリア」というのがあったらわたしなら

          ⑩ わが××は緑なりき

          ⑨ 君よ憤怒の皮を剥け

           S子の白魚のような右指がYの自身に優しくあてがわれた。黒く光沢を帯びた皮膚には何層もの隆起した筋肉が全裸の外側からくっきりとわかる。あぁ、やがてあの獣さながらの屹立したものが出現れてくると想うとS子は微かな震顫と眩い渇望を隠せなかった。 「カット!駄目、もう一度」  ディレクターズチェアから立ち上がり、『細雪』(1983年)の四女古手川祐子に演技指導する市川崑監督よろしく、わたしはニューフェイスの大橋聡子技師に指導した。  今、最もデンジャラスな季節を迎えている。八重山の牧

          ⑨ 君よ憤怒の皮を剥け