過去エントリー「経験主義マウント」についたコメントへの返信

過去エントリー「経験主義マウント」についたコメントへの返信

mlodin
2022年3月28日 17:55
製薬企業で開発系の仕事をしていました。
池田さんのお話しの趣旨がちゃんと理解できていないのですが、珍しく、本当に珍しく、違和感を覚えました。
研究開発は,、なんでもそうですが、本当に当たるか当たらないかは予測できない物が多いです。そうそう。これは当たるわけないよな!と思うような筋の悪い物もありますが。
これは、製薬企業でなくても同じでしょう。トヨタが全方位で開発をしているのも、そういうことだと思います。
ということで、「筋の良さそうなものにだけ補助金を出す」という考え方は、あまり、適当ではないと思います。
ノーベル賞に輝いている「iPS細胞」の研究も、最初は、研究補助金から始まったと記憶しています。審査担当の方に「自信はありますか?」と訊ねられて「体力には自信があります」と答えられたというような話を聞いたことがあります。
池田さんのメッセージの趣旨を誤解していたらごめんなさい。

池田直渡
2022年3月28日 18:27
基本ここにはコメントしないのですが、あらためて項目を立てるほどではないので。論旨の最も重要な部分を太字にしました。

mlodin
2022年3月29日 20:25
有り難うございました。論旨で最も重要と仰ってる箇所を確認して、当方の違和感の原因がはっきりしました。二つの論旨のうち、一方はそのとおりだと考えます。
もう一方の方が、違和感の原因で、twitterでコメントした方も、そこに焦点を当てたのだと思います。
上の方にも書きましたが、研究開発というのは、100%うまく行くということはありません。ハズレの方が圧倒的に多いでしょう。それを前提にした上で、「横やりを入れたり、レポートで監視しなければならないほど、成功確率の低い案件だと思っているなら、政府はそもそもその案件に投資するな」というのは、いかがなものでしょうか。
企業で考えて見ましょう。「成功確率の低い案件」は山ほどあります。それでも、どこもが、研究開発を進めるのです。前に進んでみなければ、できるかどうか判らないからです。
理系・文系ということではなく、研究開発への参加意識を持たれたことがないと、成功確率の低いものに取り組むことの意義が体感できないのではないでしょうか。
長くなってシステムに叱られたので、ここで切ります。

mlodin
2022年3月29日 20:33
ノーベル賞級の研究でも、あるいは、クルマの技術でも、優れた技術はすぐにできるような感覚をお持ちではないですか。
多くの企業、研究者が研究開発を進めて行って、勝者が一人、一社だけということは、たくさんあります。敗者は、成功確率が低いことに挑戦したということにりますが、無謀なことをやったとお考えですか。
企業は、自社の利益を考えなければいけないので、研究開発の範囲が必然的に限定的になります。成功確率が高そうなものを目指します。基礎研究は避けます。
国は、したがって、成功確率が低いかも知れないが、チャレンジングな研究に、スポンサーとして、資金を出すのが、「科学立国」を唱えるのであれば、あるべき姿であろうというのが、ぼくの感覚です。
小泉政権のころからでしょうか。国が研究に対して成果主義的な接し方をして来たという感覚があります。基礎研究を軽視し、実用研究を重視するというようなところです。そのため、日本の研究者のレベルが低下しているというのが、ぼくの認識です。

正直こういう面倒臭いことになるからコメントに返事はしたくないのです。エラそうに言いたいわけではなくボクは一応プロの原稿書きなので、読者に向けて原稿を書いているわけであって、個人個人に向けた手紙を書いているわけではないのです。こういう返信を全読者に分け隔てなくやってたらもう一本たりとも新作の原稿は書けなくなるのです。いや怒っているわけではないですが、それはホントにたまらんので勘弁してください。

さて、まあボヤキを書いても始まらないので、極めて重要なポイントをひとつ。

研究開発というのは、100%うまく行くということはありません。

ここに「100%」と言う文言を挿入してそれを前提に議論を始めるのはストローマン手法です。ボクはそんなことを書いてはいません。

本質的な論旨は、ひとたび補助金を出す決定をしたのなら、口を出さずに自由にやらせろと。補助金を出したからと言って、役員や理事長を役所からねじ込んだり、パートナーと称するわけわからん会社を半ば強引に紹介したり、研究の邪魔になるほどの膨大な報告書を日々書かせたりするなと。そういう話です。そういう干渉をお望みですか?

ボクは実際に自動車メーカーから「補助金なんてうっかりもらうと仕事が進まないからもらいたくない。ただ断ると角が立つから自前・自費で研究開発したいのにやむなく、税金を突っ込まれて、下らない役所向けのレポートで忙殺されている。足を引っ張られている。あれなら減税してもらった方がよっぽどマシだ」という幹部の声を聞いて言っているのです。

それと企業活動と税を一緒に考えるのはダメです。私企業のお金は投資であり、結果が出れば、ステークホルダーにはリターンが戻る。投資アセット全体のバランスの中で予定した打率がでればそれで良く、何も全勝しなくても、ちゃんと利益が出て、欲とリスクがちゃんと表裏一体になっています。そのバランスを最適に取るのは経営陣の仕事であり、だからものにならない研究があっても良いのです。

しかし、税による補助金は、納税者にリターンとしては全く帰って来ません。リスクテイクに対して、バランスを取るリターンがない。払った側はリスクオンリーという構造を理解しなければならないのです。

例えば、あなたの会社が補助金を受けて、ビジネスに成功した場合に、元本以上に納税者にリターンを払いますか? 元本返済に金利付きの奨学金みたいな制度でよいのですかね?

普通そんなことはしないし、そういう制度設計にもなっていません。勝った場合、利益は全部自分のモノで、負けた場合はリスクを税に転嫁する方法であることはキチンと構造的に理解しておく必要があります。そこで私企業のケースと同一視するということは自分が受け取る補助金がどういう性質のものかを全く理解していないことの証明です。

その上で社会全体のインフラや国際競争力という納税者個人にとっては限り無く無形の成果のためにやるかどうかという判断であって、そのメカニズムは私企業のものとは根底から違います。

本質的に税は所得の移転であって、法人や個人の中で今利益を上げている人に負担をしてもらう形で、税を取って、それを未来のために使うということ。払った人は広い意味では順送りに、恩を受けて返すという形ではあるでしょうが、投資とリターンという一対の見返り構造ではありません。

ど田舎に立派な公民館を作るのも本質はこれで、地方の文化振興も大事だよね。 という観点があるから、現実にそういう箱物は作られているわけです。利益が上がる可能性なんて最初からないのです。

つまり、負担者の支払いに対してリターンのあるものと無いものは同一に扱えない。ただし、その上で、世の中には長い目で見ればリターンが無くてもやらなければならないものはあって、そこは民間ではどうやったってやれないから税でやるという話です。

ノーベル賞級の研究でも、あるいは、クルマの技術でも、優れた技術はすぐにできるような感覚をお持ちではないですか。

そんなことは欠片も思っておりません。

成功するか失敗するかは分からないというのは本質ですよ。けれども、技術判定もなしに「先着順つかみ取りで血税10兆円を山分けしましょう。成功するか失敗するかは一切問いません」なんて予算の使い方はあり得ない。それはわかると思います。だから当然、補助金の交付に際して、技術は振るいに掛けられるし、しかるべき判定は成されるべきでしょう。だって原資は税金なのです。払った人はそれで儲かることは絶対にないのだから。

そこは私企業の投資とは意味が違うし、言い換えればストレートにリターンが返って来ない公民館みたいなものにも「意義さえちゃんとしていれば」税は使えるのです。

で、詰まるところ、交付時の振るいは極めて大事だし、公平性を求められるのは当然だけれど、もちろん判定をしたからと言って100%の成功はあり得ないし、現実の打率は遙かに低いでしょう。それは最初からわかっているのだから、政府も役所も、それを振るいに掛けて判定した以上、失敗は甘受せよとボクは言っているのです。そこからさも努力したかのような振りをするために、研究者の邪魔をして役人が仕事をした振りをするなと。

振りじゃなくて、本当に専門家でもないど素人の役人がそこまで口出しして管理しなきゃ成功しないようなクソ案件だったら、最初から補助金を交付するのがおかしいんじゃないかとそういう論旨なんですがねぇ。


お気持ちの投げ銭場所です。払っても良いなという人だけ、ご無理のない範囲でお使いください。