過去エントリー「経験主義マウント」についたコメントへの返信
過去エントリー「経験主義マウント」についたコメントへの返信
正直こういう面倒臭いことになるからコメントに返事はしたくないのです。エラそうに言いたいわけではなくボクは一応プロの原稿書きなので、読者に向けて原稿を書いているわけであって、個人個人に向けた手紙を書いているわけではないのです。こういう返信を全読者に分け隔てなくやってたらもう一本たりとも新作の原稿は書けなくなるのです。いや怒っているわけではないですが、それはホントにたまらんので勘弁してください。
さて、まあボヤキを書いても始まらないので、極めて重要なポイントをひとつ。
ここに「100%」と言う文言を挿入してそれを前提に議論を始めるのはストローマン手法です。ボクはそんなことを書いてはいません。
本質的な論旨は、ひとたび補助金を出す決定をしたのなら、口を出さずに自由にやらせろと。補助金を出したからと言って、役員や理事長を役所からねじ込んだり、パートナーと称するわけわからん会社を半ば強引に紹介したり、研究の邪魔になるほどの膨大な報告書を日々書かせたりするなと。そういう話です。そういう干渉をお望みですか?
ボクは実際に自動車メーカーから「補助金なんてうっかりもらうと仕事が進まないからもらいたくない。ただ断ると角が立つから自前・自費で研究開発したいのにやむなく、税金を突っ込まれて、下らない役所向けのレポートで忙殺されている。足を引っ張られている。あれなら減税してもらった方がよっぽどマシだ」という幹部の声を聞いて言っているのです。
それと企業活動と税を一緒に考えるのはダメです。私企業のお金は投資であり、結果が出れば、ステークホルダーにはリターンが戻る。投資アセット全体のバランスの中で予定した打率がでればそれで良く、何も全勝しなくても、ちゃんと利益が出て、欲とリスクがちゃんと表裏一体になっています。そのバランスを最適に取るのは経営陣の仕事であり、だからものにならない研究があっても良いのです。
しかし、税による補助金は、納税者にリターンとしては全く帰って来ません。リスクテイクに対して、バランスを取るリターンがない。払った側はリスクオンリーという構造を理解しなければならないのです。
例えば、あなたの会社が補助金を受けて、ビジネスに成功した場合に、元本以上に納税者にリターンを払いますか? 元本返済に金利付きの奨学金みたいな制度でよいのですかね?
普通そんなことはしないし、そういう制度設計にもなっていません。勝った場合、利益は全部自分のモノで、負けた場合はリスクを税に転嫁する方法であることはキチンと構造的に理解しておく必要があります。そこで私企業のケースと同一視するということは自分が受け取る補助金がどういう性質のものかを全く理解していないことの証明です。
その上で社会全体のインフラや国際競争力という納税者個人にとっては限り無く無形の成果のためにやるかどうかという判断であって、そのメカニズムは私企業のものとは根底から違います。
本質的に税は所得の移転であって、法人や個人の中で今利益を上げている人に負担をしてもらう形で、税を取って、それを未来のために使うということ。払った人は広い意味では順送りに、恩を受けて返すという形ではあるでしょうが、投資とリターンという一対の見返り構造ではありません。
ど田舎に立派な公民館を作るのも本質はこれで、地方の文化振興も大事だよね。 という観点があるから、現実にそういう箱物は作られているわけです。利益が上がる可能性なんて最初からないのです。
つまり、負担者の支払いに対してリターンのあるものと無いものは同一に扱えない。ただし、その上で、世の中には長い目で見ればリターンが無くてもやらなければならないものはあって、そこは民間ではどうやったってやれないから税でやるという話です。
そんなことは欠片も思っておりません。
成功するか失敗するかは分からないというのは本質ですよ。けれども、技術判定もなしに「先着順つかみ取りで血税10兆円を山分けしましょう。成功するか失敗するかは一切問いません」なんて予算の使い方はあり得ない。それはわかると思います。だから当然、補助金の交付に際して、技術は振るいに掛けられるし、しかるべき判定は成されるべきでしょう。だって原資は税金なのです。払った人はそれで儲かることは絶対にないのだから。
そこは私企業の投資とは意味が違うし、言い換えればストレートにリターンが返って来ない公民館みたいなものにも「意義さえちゃんとしていれば」税は使えるのです。
で、詰まるところ、交付時の振るいは極めて大事だし、公平性を求められるのは当然だけれど、もちろん判定をしたからと言って100%の成功はあり得ないし、現実の打率は遙かに低いでしょう。それは最初からわかっているのだから、政府も役所も、それを振るいに掛けて判定した以上、失敗は甘受せよとボクは言っているのです。そこからさも努力したかのような振りをするために、研究者の邪魔をして役人が仕事をした振りをするなと。
振りじゃなくて、本当に専門家でもないど素人の役人がそこまで口出しして管理しなきゃ成功しないようなクソ案件だったら、最初から補助金を交付するのがおかしいんじゃないかとそういう論旨なんですがねぇ。
お気持ちの投げ銭場所です。払っても良いなという人だけ、ご無理のない範囲でお使いください。