発電

ハイブリッドの熱効率はすごいことになってます

【ネットの声への返信】
※記事を書くと色んなコメントが付きますが、個別に返信して議論していると本業の原稿を書く時間がなくなるので、めぼしいご意見を勝手に拾い上げて勝手にお返事するのがこの【ネットの声への返信】です。

■テスラModel 3をどう評価すべきか?
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1906/03/news012.html

6月3日の記事へのコメントを見て回っていたらこんな書き込みがあった。

まずは自分の記事の当該部分を抜き出そう。

 自社の優れた点をアピールするのは一向に構わないが、その度に既存の自動車産業をおとしめること、そしてその批判がフェアでないこと、そのやり方のはしたなさについて筆者は指摘してきたに過ぎない。考え方が違うのは構わないが、事実認識の解釈が自社に都合良すぎる。テスラには、そんな言動が目立っている。
 例えばModel Xの発表会で、テスラの日本法人社長は、「内燃機関による大気汚染は呼吸器疾患を引き起こして毎年何万人もの人を死においやってきた。テスラはゼロエミッションだ」と発言した。
 これには猛烈に腹が立った。まずテスラのゼロエミッションはあくまでも走行時に限った話であって、全体をみると、発電には大量の化石燃料が使われている事実を無視している。その意味において、内燃機関の排気管から出ていた汚染物質がEVでは発電所に付け替えられているに過ぎない。

これに対して

「燃料によるとは思うが、大規模な発電所の方が熱効率や排気浄化で有利だろ?」

という声があった。多分記事引用の最後の部分に対するご意見だと思う。

まあもちろん発電と言っても色んな方法と技術の新旧があって、一括りにはできない。そんなわけで資源エネルギー庁あたりのデータを見ても、具体的な数値はなかなかはっきり出てこない。最新鋭の数値の良いヤツだけ誇らしげに書かれている。

例えば超高温ガスタービン複合発電(GTCC)は57%で技術確立は20年頃。GTCCに燃料電池を組み合わせたガスタービン燃料電池複合発電(GTFC)で63%で技術確立は25年頃。いずれも近未来技術である(まあGTCCは来年だけど)。

けれども超高温のGTCCには1700℃耐久のタービンブレードが必要でこれがべらぼうに高い。1700℃耐久じゃ無いGTCCはすでにある。火力発電の効率向上を握るキーテクノロジーは、高温・高回転を与えても大丈夫なタービンを投入できるかどうかだ。

当たり前の話だが古い発電所は効率が悪い。1970年くらいに設計された火力発電所の熱効率は27%程度。2015年の資源エネルギー庁の資料で設定された発電事業者に求める火力発電の目標効率が以下の通りである。行政が指導するということは現状はこれ以下なはずだ。

・石炭火力 42%(37%)
・天然ガス 50.5%(45%)

これをトータルにした時の目標値が44.3%。という目標数値を見ると、GTCCやGTFCが高らかにうたう目標効率と現実は大きく乖離していることがよくわかる。加えて、送電でのロスは実績値で約10%ある。出来上がった電気が送電中に10%減衰するので9掛けになってカッコ内の効率になる。

ではエンジンはどうかというと、最新のガソリンエンジンの単体効率は、トヨタのダイナミックフォースが41%。マツダのSKYACTIV-Xが42%(秋に発売)、日産のVCターボが45%(20年発売)となっている。SKYACTIV-Xはマイルドハイブリッドを装備している。数字を見る限りよもやハイブリッド込みの効率ということは無いと思うが、そこの詳細はもうちょっと待つと明確になるはずだ。

これにストロングハイブリッドを組み合わせると概ね15%ほど効率が上がる。もちろんエンジン単体効率もハイブリッドの効率もピーク値で、常時その効率で運転できるわけではない。運転の仕方によって変わってしまうけれど、それでも、単純な足し算では56%〜60%が理論上可能になる。理論値でピーク値だが、比較対象となる発電所の効率も指導目標値なのでなんとなく相殺できるレベルだと考えている。というより正直それ以上の確実なデータはわからない。

ということで、限られた発表数値で見る限りはハイブリッドの熱効率は発電所より高いことになる。仮にざっくり10%割り引いて見ても50%を超える。石炭火力よりは確実に上で、天然ガスと同等以上。これまで出てきた数値を昇順に並べるとこういうことだ。

古い石炭火力<石炭火力平均値<天然ガス平均値<GTCC<ガソリンハイブリッド≦超高温GTCC<GTFC<原子力=太陽光=風力=地熱=水力

であれば、ハイブリッドを前提にする限り、クルマの化石燃料を目の敵にする前に、とっとと熱効率30%ちょいの古い火力発電所を廃炉にするべきで、特に旧式の石炭火力は早急に止め無いとダメだろう。

つまり再生可能エネルギーによる発電が増えたなら、そこで作られた電気で置き換えるべきは劣等生である古い石炭火力発電であって、むしろ現状ではエネルギー効率の平均値を引き上げる側にあるハイブリッドをEV化している場合ではないと思う。

いや本当の目的がCO2の削減ではなく、とにかく内燃機関を滅亡させたいという話なら別だけど。


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