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ChatGPTは駐車場シェアリングの夢を見るか

フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』は「人間とアンドロイドの境界はなにか?」「そもそも人間とはなにか?」について語られたSF小説です。
ChatGPTを中心にジェネレーティブAIがIT業界の話題をさらっていますが、この小説のテーマである「AIと人間の境界」や、さらには「AIができることが増えた今、人間はどうあるべきか」みたいな話も議論されています。

先日、PdMの役割について記事を書きましたが、その1つ目に上げたのがクリエイティビティでした。
駐車場シェアリングサービスakippaのPdMを名乗ってる私としては、この「クリエイティビティにAIがどこまで迫れるのか」ということに興味を持っており、クリエイティビティが最も必要とされる新規事業の立ち上げをケーススタディに考えてみたいと思います。
せっかくなので、駐車場シェアリングサービスakippaをAIが発案できるのか、またそのプランを実効性のある戦略まで落とし込めるのかを検証し、ChatGPTに何ができて人間はどういう役割を担うべきかを考えて行きたいと思います。

着想 - 困りごとの洗い出し -

akippaでは、「"なくてはならぬ"をつくる」というmissionを定め社員全員で今の生活上の困りごとを200個書き出したところから始まりました。
果たしてChatGPTは生活上の困りごとをakippaの過去をなぞるように出してくれるのでしょうか?(200個は多いので100個にしました)

ChatGPT4.0 の回答

宅配便の再配達問題
駐車場の不足
保育園・幼稚園の待機児童問題
介護施設の不足
食品の無駄を減らす方法
地域の医療機関へのアクセス改善
電子決済サービスの普及
災害時の情報伝達と支援
転職や就職活動のサポート
リモートワーク環境の最適化
持続可能なエネルギーの普及
地方創生や過疎地域の活性化
家庭用ソーラーパネルの普及
住宅の省エネリフォーム
高齢者向けの交通サービス
ペットのケアやシッティング
健康管理や運動サポート
低コストの旅行プラン提案
趣味やスキルをシェアするプラットフォーム
ライフイベントのサポート(結婚式、葬儀など)
学習サポートや塾の選択
消費者向けの情報提供サービス
インターネットの安全管理
家庭用品の修理やリサイクル
レシピや食材管理アプリ
メンタルヘルスのケア
緊急時の医療サポート
電子機器のトラブル対応
住宅の防犯対策
地域コミュニティの支援
グルメや観光情報の提供
学ぶ場所やイベントの情報提供
...

と、「あーたしかになー」と思えるものを100個ほど挙げてくれたのですが、なんと2つ目に「駐車場不足問題」を挙げてくれてます!
やりますね・・・というかこの記事を書きやすくするためにこの位置に出してくれたんちゃうかというくらいの精度で、もはや怖い。
意思芽生えてない?

akippaの場合、とある女性の社員が「試合観戦やコンサートに車でいって、現地に行ってから満車だったり駐車場ないのがわかるの不便ですよね?」という話だったようです(たしか)
もうちょっとリアリティのあるエピソードですよね。
このリアリティの有無がこの記事の後半に大事になってきたりします。

ちなみに、当たり前の話ですが、現時点のChatGPTには意思がなく「世の中の課題を解決していこう」というそもそも着想の動機づけがありません。
この「意思の有無」という点はそもそも人間とAIの大きな差にはなります。
まあAIに意思があったらターミネーター的な世界が訪れるので困りものですが。

着眼 - 駐車場問題へのフォーカス -

ChatGPTにリストアップした問題の中で、どれを解決すべきかを聞いてみました。

残念ながら駐車場は選ばれませんでした笑
課題を取り巻く外部環境・内部環境を説明しつつ、高齢者の移動問題というテーマをピックアップしています。
興味深いのは、ChatGPTなら同様の説明は他の課題にもできると思うのですが、どういう基準でこのテーマにしたのかです。
長くなるので省略しますが、ChatGPTに突っ込んで聞いたところ、社会的意義や市場拡大などを挙げてました。

さて、実際のakippaでは200個の中から駐車場問題に着眼したわけですが、なぜだったのでしょう。
当時、私は居合わせなかったのですが、ファウンダーの松井から昔聞いた話だと、その話が出たときに「それ確かにある!」とか「この間同じ体験した」とかそういう共感性の輪みたいなのが広がって課題の熱量が高まったと聞きました。

この状況を生んだのは先に話した「課題にリアリティがある」ということに尽きると思います。(akippaでは大衆感覚と言ったりする)
発案した人の日常の体験に根ざした課題で、それが一般的であればあるほど周りの共感を生んでいく。このリアリティや共感性は事業立ち上げにおいて重要で、CEOやPdMなど事業を推進する立場の人間自身でそれを強く課題として認識し、解決に向けた強い意思をどれだけ持っているかが事業の成否に大きく関わります。
よくシード期の投資は事業やプロダクトへの投資ではなく人への投資だと言われますが、課題のリアリティ・共感性と解決への意思というところに評価が置かれてるんだと思います。

同じ駐車場問題をAIと人間がリストアップしたわけですが、AIは社会的意義・市場成長性・実現可能性のような合理的尺度で別のアイデアに着眼し、人間は日常生活の視点で課題にリアリティがあるかどうかという点で着眼したという差が生まれました。
もしakippa立ち上げ当時にChatGPTがあって、課題のリストアップと解決すべき課題の選定までChatGPTにやってもらってたら、おそらく駐車場シェアリングの道にはたどり着かなかったでしょうし成功もしてなかったでしょう。

解決策の立案

ここからはChatGPTに以下のように指示して駐車場問題の課題の解像度を高めてもらいました。

もうちょっと整理したかったので表形式で課題パターン/ユーザーイメージ/エリア/駐車場タイプ/具体的な課題をChatGPTに整理してもらいました。
多かったので一部を抜粋します。

これらは一部ですが、このあたりの整理はChatGPTのお家芸ですよね。
一次リサーチとして広く浅く洗い出すとしたら、多分私がやっても似たような形になると思います。
こういったリサーチ業務・整理業務についてAIでできること、人間でできることの境界線はなくなってきているんじゃないでしょうか。

ではそれらのどこにフォーカスを当てるかを聞いてみました。

またそれっぽいことを言ってる。

実際のakippaは、先程の課題の議論のときの文脈のままに「イベント会場周辺」をメインターゲットにして初期の駐車場を増やしていきました。
なぜそこをターゲットにしたかというと、発案自体がそこでの課題にありましたし、シンプルにそれを解決したいという意思があったからです。
課題にリアリティがありペインの度合いも強いイベント会場周辺の駐車場問題を解決することで、マーケットプレイスにつきもののコールドスタート問題を(結果論的にではありますが)突破して、その後ChatGPTが選んだような都市部等の大きなマーケットに広がっていき現在は300万人、3.5万件以上の駐車場をネットワークする規模まで広がってきました。

ターゲティングなどの具体的な戦略レベルの判断においてもakippaの場合はリアリティを重視し、ChatGPTは合理的に説明可能な情報を重視するという差が生まれました。

どっちが正しいのかはわかりません。
もしかしたらakippaも初期のターゲットで大きなマーケットである都市部を選定したほうがもっと早く今の規模まで成長できてたかもしれません。
ただ、これは感覚的な話なんですが、消えていくサービス・失敗するサービスってChatGPT的に発案・企画されたものが多いと思います。
なんというか、お利口なアプローチでプロセスや資料はきれいだけどいざやってみるとカスリもしないみたいな。
逆に成功するものは最初はニッチかもしれないけど、的確な課題を捉えていてそこからどんどんスケールしていくようなプロセスを経るものが多いような気がします。

整理

ここまでのプロセスを以下のように乱暴に整理してみます。

  • 人間にしかできないこと

    • 意思を持った行動

    • リアリティのある課題抽出

    • リアリティのある判断

  • AIにもできるけど人間が得意なこと

    • ??

  • 人間にもできるけどAIが得意なこと

    • 客観性・合理性のある課題抽出

    • ハイスピードなリサーチ

    • 情報整理

  • AIにしかできないこと

    • ??

PdMの必須スキルであるクリエイティビティにAIがいかに迫れるかが本記事のテーマですが、クリエイティビティに関わる要素として、意思/リアリティみたいなところがポイントになると思います。
「なくてはならないものを作るんだ」という意思、「自分の課題に根ざした問題を解決する」というリアリティ。
こういったところを核として新規事業が生まれ推進されていくと思いますので、当然のことながらこのあたりはまだまだAIにはできないですね。
当分職を失わないで済んだ。

逆にリサーチツール、整理ツールとしてのAIは有用&有能で、PdMとしてのこのあたりの業務を代替してもらいながら、よりクリエイティビティの高い仕事にフォーカスさせていくという補完関係をPdMとAIは作っていけそうです。
GPT、引き続きよろしくな。

最後に ChatGPTとは何なのか

ビル・ゲイツが「ChatGPTはGUIの発明以来の技術革新だ」というようなことを言っていましたが、GUIとなぞらえてるところがChatGPTの本質的な存在価値が見えてくると思います。
というのも、少なくとも現時点のChatGPTはインターネットに転がってる情報やプログラミング等の知識を持った人間ライクなインターフェースという存在でしかないのかなと。

GUIができてコマンドラインを叩かなくても済むようになり、広くPCが大衆層に普及して生産性革命が起こったように、ChatGPTがもたらすものは「検索してちまちま調べてたことが一瞬で整理される」とか「本を読んで必死にinputしてからoutputしてたプロセスを代替してくれる」みたいなレベルのことなのかと思います。(あくまで現時点では)

それはそれでシンプルにすごいところで、ChatGPTが進化することで仕事を奪われる職業や消えていくサービスなどはGUIの発明の比ではないと思います。
ChatGPTに代替されていく仕事に従事している人は単に奪われるわけではなく、よりその仕事の中で人間的な意思・リアリティ・判断・責任が必要な部分にフォーカスをあてながら仕事を続けていくことになると思います。

AIの進化スピードが凄まじいので来年には違う状況になってるかもしれませんが、ひとまず現時点でakippaをベースに思うところを書いてみました。

ちなみに最後にChatGPTにシンプルに存在価値について聞いてみた結果がこれ。

この通り今は「質問に答え会話形式で情報提供する」というそれだけの存在でしかないんでしょうね。

おわり。

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