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TAKRAM RADIO|Vol.178 メタファーは思考をあさってに跳躍させるか

Introduction

TAKRAM RADIOの谷川嘉浩さんのゲスト回、非常に面白かった。Podcastが公開されたタイミングで改めて聴き直し、ツイートに収まりきらない感想とともに、メモ書きをnoteに記載しました。

先週に続き京都市立芸術大学美術学部デザイン科講師の谷川嘉浩さんを迎えて『メタファーは思考をあさってに跳躍させるか』をテーマにトークセッションを行います。

00:35 メタファーで広がる連想と必要なプロセス
06:51 非専門家が拡張する分野の限界
14:12 制約から遠く離れるためのメタファー
17:06 人の体験が起こす思考の脱線
21:56 変化する感覚と変化しない個人の物語
25:38 固有の人生を感じるためのナイーブさ
30:28 エヴァンゲリオンとメタファー
35:01 よそ者によって開かれる偶然への扉
41:15 どうでもいいことやニュアンスの大切さ
44:52 個人に同居する「新聞記者」と「詩人」
49:20 リスナーへの「問い」

https://spinear.com/shows/takram-radio/episodes/2023-04-14/

感想

渡邉康太郎さんと谷川さんの間で、考えの共振する箇所が多い分、寄り道しながら発散が膨らんだことが何よりも面白かった。

その中で、谷川さんの挟む具体例やエピソードが、これまでに渡邉さんが挙げてきた範囲にはない角度からだったことが印象的。

まさに「どこに辿り着いたのかもわからない」「何の話をしているんだっけ」というコメントに現れる、散歩のような会話。タイトルの「思考をあさってに跳躍させるか」という問いには答えることなく、以下のいくつかの通底するキーワードをもとに、外堀を埋めたり、接線を重ねたりした感触。

  • ゲーム散歩

  • 体験の翻訳

  • 専門性

  • イベントとエピソード

  • 紋切型

  • メタファーの乗り物

  • 脱線

  • 新聞記者と詩人

ラジオではカットされていた、逡巡が見られる言葉からこそ、会話の安心感を感じられる。ともすると、公共電波のラジオでは新聞記者的な言葉を求められる一方、Podcastでは詩人的な言葉が多少は許容される感覚もあるのだろうか。

メモ書き

1週目の振り返り

  • 谷川:「翻訳」というキーワードは大事だと思っていたが、会話自体はノープランであった中で、「メタファー」にたどり着けたことはしっくりくる。「翻訳」について考えた結果を「翻訳」できたのでは。

メタファーで広がる連想と必要なプロセス

  • 渡邉:デザインプロジェクトを登山として考えると、どの山を目指すのか、何日目までに5合目に到達するのか、5合目の定義はそもそも何なのか、頂上に行くのではなくベースキャンプまで行けばいいのでは、どんなギアが必要なのか、という語彙が見えてくる。

    • 谷川:メタファーには、一連の共通認識やイメージが紐づくので、思考が進む。

    • 渡邉:他者が乗っかってくることが大事で、悪ノリ可能。メタファーという乗り物があり、席が空いていて周りの人が乗っかれるイメージ。という話自体もメタファー。

    • 谷川:ただし、急に思いつくものではない。哲学者の鶴見俊輔は、『文章心得帖』の中で、「メタファーが大事である」ではなく、「紋切型を突き崩すことが言語にとって大事だ」という。

    • 谷川:紋切型の「おはよう」は捨てられないが、突き崩し方は紋切型を深堀した先にある。気の利いた言い回しをしようとすると、却ってそれっぽい紋切型の言い回しに自分が引っ張られてしまう。できるだけ素朴な言葉遣いをする中で、うまくいかない状況と格闘する。

    • 谷川:メタファーを急に出そうとしない。急に手を伸ばすと、手近にある紋切型のメタファーとなる。うまく表現できないという躊躇いのある状態で格闘することが大事。

  • 渡邉:下手なメタファーを繰り返すことも大事なのでは?

    • 谷川:一度出したメタファーを正解だと思わないことなのでは。

    • 谷川:鶴見俊輔は、フランスの哲学者のアランを例に出す。従軍中、塹壕の中でスケッチをしていた。不安定な状態でも表現することが、自分の言葉のスタイルを作る、という。

  • 渡邉:鶴見俊輔の『限界芸術論』において、作る人も享受する人も非専門家であるときに、それを「限界芸術」と呼ぶ。これは、まさに体験の翻訳が行われる場面なのでは。

    • 渡邉:アートマガジンでは専門家の文章を受け取る。一方で、「限界芸術」は、限界の際(きわ)を広げるために体験の翻訳が行われるのでは。

    • 渡邉:あらゆる非専門家は、他のジャンルでの専門家である可能性がある。越境する際のマージナルな世界でこそ、初めて異世界の言葉を使うのでは。

    • 谷川:庭の研究者である友人に対して、専門性について聞いた際に、学問分野ごとに現場がある、という話をした。庭園にいることは、留学生向けに話をするときには現場の人である。専門性は、誰を相手にするかによって変わる。領域からの距離に応じて、専門性は相対的に決定する。

      • 渡邉:ということは、どういうこと? コミュニティを跨ぐとどうなる?

      • 谷川:コンテクストに応じて、専門家の範囲が変わる。

    • 渡邉:体験を翻訳するとき、相手に応じて語彙や翻訳の対象が変わってくる。色んな解像度で語るとき、見える世界自体が変わるために、決して情報が劣化しているわけではない。何かの気づきに開かれている。

      • 谷川:解像度を粗くするときほど、メタファーが必要になる。手短に、相手にテーブルについてもらうときに有用である。

  • 渡邉:デザインプロジェクトにおける事業開発や組織変革などには、2つの思考モードがある。

    • ①連続的な思考:現実に立脚する。今日をもとに明日を考える。

    • ②非連続的な思考:制約や実現性を保留しておいて、理想を考える。

      • 渡邉:非連続的な世界を共有するときにメタファーを使う。SF作家とともに未来を考えるときなど。

      • 谷川:時間軸や制約や専門分野のジャンプが必要なときほど、メタファーが役立つのでは。

      • 渡邉:今日の制約を手放す術を持っている人は多くない。メタファーという乗り物に乗ると、いつもより遠くに行ける可能性が高まる。

  • 渡邉:我々は同じ話をしているのだろうか?

    • 谷川:紋切型の考えを手放したいときのジャンプの仕方として、メタファーがあるのでは。

人の体験が起こす思考の脱線

  • 谷川:本人の体験や語彙に左右される。

  • 谷川:ハンナ・アーレントは、アメリカ亡命後にドイツ語を失う。ただし、「私の記憶の背後には、これまで暗唱できる無数のドイツ語の詩が存在している」という。自分の記憶に蓄積された体験が豊かであるほど、メタファーは提示されうるのでは。

    • 渡邉:クレセーレ的な土壌の中に、ドイツ語も英語も混じっているはず。両者をより分けることは大事ではなく、どのように星を結びつけて星座を浮かび上がらせるのかが大事。

  • 谷川:ドミニク・チェンさんの『未来をつくる言葉』にて、「脱線」という言葉が印象に残った。インストールされた言葉に応じて、脱線の度合いも変わる。

    • 渡邉:外部からの稀人を待たずに、自分の中で脱線が起きると面白いのでは。吃音自体も、別の自己なのかもしれない。異なる帽子をかぶり、違う自分を召喚することに意識的になれるか。

  • 谷川:大学生が会社に入るとき、不安があった人でも誰しもが仕事ができるようになる、という、ぬるっとした変化がある。新しいコミュニティで新しい言語を身につけたときに、それに気づくのは難しいのでは。業界に染まると、学生時代の感覚を忘れてしまうのでは。

    • 渡邉:ゆでガエル的に変わる部分と、どうしても譲れない部分の両者があるのでは。

    • 渡邉:穂村弘さんは、歌で詠まれるテーマは、ビジネスと異なるという。ビジネスは、再現可能性や交換可能性を考える。一方、歌に詠まれるのは儚さである。「生きる」と「生きのびる」の相容れなさがあり、境目でヒリヒリすることこそが生活なのでは。

    • 渡邉:交換不可能な個人の物語にこそ、眼差しを向け続けたい。

固有の人生を感じるためのナイーブさ

  • 谷川:短歌の視点を持ち、自分固有の人生を生きている、と感じることを難しいと感じる。トレンドに関心がジャックされたり、自己啓発本に感化される。

    • 谷川:短歌は、「それがどうした」と思われるような水道の蛇口の輝きを詠む。一方、世の中のトレンドは、役に立つ「生きのびる」性を求める。

  • 渡邉:コンテクストデザインの講義では、役立たないものにデザインを全振りしたときに何が見えるかを考える。「生きのびる」の浸食に抗うために、いろいろな思想を集めているように感じる。

  • 谷川:伊藤亜紗さんは、講義で学生に「感じさせる」ことから始めるという。空気やトレンドを読むなど。映画を観たときに、口コミをみて自分の感想を変えることはもったいない。

  • 渡邉:ガンジーのものと言われる、デザイナーに向けられたと感じる言葉。「あなたが作るものは世界を変えられないかもしれないが、作り続ける。なぜならば、あなたが世界を変えるためではなく、あなたが世界に変えられないために必要だからだ。」の精神。

    • 谷川:他者にとっての、変えられないとっかかりになるといいのか?

  • 渡邉:社会の外れ値を集めるほど、自分自身の外れ方に意識的になれ、外れ方のすすめが分かる。

  • 谷川:『Dark Horse(ダークホース) 「好きなことだけで生きる人」が成功する時代』トッド・ローズ

エヴァンゲリオンとメタファー

  • 谷川:命がかかっている場面で、スイカを育てるシーンがある。彼が世界に流されないために必要な作業だったのでは。世界の支配的な言葉遣いや単純な自己理解から逃れるために、必要な場所であったのでは。

    • 渡邉:衝動ですらない、切迫感のあるもの。自分が自分であるための唯一の場所だったのかもしれない。自分探しとも異なる。

    • 谷川:自分探しは、心のどこかで安定した紋切型を探している。紋切型を探さないことはメタファーに通じるのでは。どうつながるのか分からないが。

    • 渡邉:短歌の世界だけでは満足できないことも多い。それによって、社会に認めてもらうことも欲する、という人間のもどかしい欲望がある。

  • 渡邉:人間は、仕事の言葉や役に立つ領域の言葉づかいだけでは生きられない。心のどこかで、取り乱す自分を押し殺しながら生きるのでは。

    • 谷川:就活で押し殺した自分を解放するタイミングが、スイカ畑なのでは。

    • 渡邉:ただし、理想の会社に入れなくても、その会社の語彙を身につけた先に、良い意味でのアップデートや、予期せぬ脱線もある。

    • 谷川:今役に立つことと今楽しいことの、どちらにベットするかの違いでは。絵本作家が手品に出会って感動すると、方向転換するかもしれない。何の話をしているんですかね。

    • 渡邉:近くにある異世界と遠くにある異世界のことを思った。間違えたな、こういうことじゃない。偶然は、いつやってくるか分からない。メタファーで架橋しなくてもよく、乗り換えてもよい。

  • 谷川:モデルがあったからこそ、異世界に連れていかれることがある。

    • 谷川:保護猫を飼っている。大人になってから引き取ったので、トラウマのせいで警戒心が強いためか、人前でご飯やトイレができなかった。ご飯やトイレができるようになったときに感動し、異世界を感じた。

    • 谷川:椅子を作る学生の、人が見ないかもしれない箇所へのこだわりにも感動した。

    • 渡邉:稀人・観光客・異邦人によって気づきをもらう一方、自分自身がその存在にもなりたい。偶然に心を開くためには両者が大事である。

どうでもいいことやニュアンスの大切さ

  • 谷川:コミュニティを広げるときに、対面で人に会うことが大事。

    • 谷川:イベントとエピソード。ネットでは、キラキラしているイベントが注目される。

    • 谷川:エピソードは、キラキラしていない。しかし、我々の人生に転がっているのは、ネットにシェアするほどでもない、どうでもいいエピソードである。スイカ、鴨川を見つめる、水道の蛇口の輝きなど。

    • 谷川:対面で誰かと話すことのほうが、どうでもいいニュアンスが零れ落ちる。

    • 渡邉:場の強制力を感じながら、最初は早く帰りたいときに、大事に感じるようになることがある。

    • 谷川:ムダな印象を抱くことが大事。意外と背が大きい、やたらコーヒーを飲む、こんな服を着てくるのか、など。

  • 谷川:鶴見俊輔は、友人の安田猛がご飯を食べる席では悪口を言わない、という話をする。他人からするとどうでもいいエピソードこそが、鶴見俊輔の哲学を作る。戦時中の簡単に心を開かないという習わしを続けた立派な人である、という教訓につなげるために言及する。

    • 渡邉:誰しもが、どうでもいいことと大事なことの両輪を持つ。誰しもが詩人でもあり新聞記者でもある。どちらかに重心を載せることはあるが、数字と物語はきれいに分けることはできず、行き来するのでは。個人の中の様式としても同居しており、振り子のように振られ、または重なるときに、自分の中の脱線や架橋が起きるのでは。

    • 谷川:新聞記者的な考えが溢れることへの懸念がある。

    • 渡邉:自分は界面にいる。この言語をこっちで言ったらどうなるのか、を双方で試してみたい。

    • 谷川:哲学者は、比較的詩人の側と思われる。詩人としての自分を生活の中で取り戻したい。

    • 渡邉:岡潔の「スミレはただスミレのように咲けばよい」の世界観。

  • 渡邉:大事なテーマの周囲をまわりながら、外堀を埋めな方話すイメージであった。

    • 谷川:次回はぜひ対面で話したい。京都で学生時代を過ごした専門家と、たまに京都に行く専門家として。

    • 渡邉:まさに、散歩のような雑談であった。

リスナーへの「問い」

  • 「あなたが出会った意外な言葉」

    • 谷川:穂村弘さんの新聞記者と詩人、など。驚きや面白ポイントを知りたい。メタファーでなくてもOK。

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