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締め作業と通行人

カフェで働き始めてもうすぐ1年半。

大学時代、アルバイトをするならカフェはないだろうな。つまらなそうだから。と選択肢にも入っていなかったことを思い出すと、カフェで働いていることがとても不思議。

同じような日々でも、自分の心もちと、その時に来てくれるお客さんによって毎日違う気持ちにさせてもらえるので、案外カフェの仕事は面白いなと思います。

お客さんとは、深く話せるわけではないけれど、眺めているといろんな物語が見えてきたりします。(勝手に想像しているとも言えますが笑)

12時オープン18時クローズ
18時半になると、お店のシャッターを半分ほど閉めて、締め作業を始めます。お店の入り口は全面がガラス張り、夜になると明るい店内はとても目立ちます。締め作業をしてるのをみられるのは少し恥ずかしいので、店内が見えないように人の目線の下くらいまでシャッターを閉めます。

締め作業の時は自分の好きな音楽や好きなラジオを聴きます。お客さんと話すのも、スタッフと一緒に作業するのも、もちろん大好きなのだけど、自分のその時の気分で流す音楽の中、自分の好きな順番で作業をするのが心地よくて。やる事はたくさんあるけれど、毎回やるべき作業は同じなので、作業しながら今日あったことをのんびりと味わえる贅沢な時間だなと感じます。

その日もいつもと同じように、締め作業をしていました。いつもと同じように音楽を流して、ふとお店の外を眺めると、シャッターの下から店内を覗いて、笑顔で手招きをするおじいさん。

作業を止めて音楽を止めて、おじいさんのもとに向かう。
「ここ何度も通ってるんだが、初めてみた。なんのお店だい?」とおじいさん。「カフェをやってるんです」と私。

よく通るのに、カフェの存在に気づかなかったようで。
カフェの目の前の美容院が、昔は本格的な和菓子屋さんだったこと。コロナの期間で3キロ太ったことをきっかけに、毎日18時ごろになると1時間散歩をしていること。それで3キロ痩せたこと。楽しそうに話す姿にほっこりする。

「いつやってるの?」とおじいさん。
「12時から18時でやってます、水曜木曜が定休日です」と私。
「それは嘘つきだ」とおじいさん。
おじいさんが指さす方を見ると、店の窓ガラスに貼ってある店の営業時間は、営業時間11:30-21:00、定休日水曜日。確かに大嘘つきだ(笑)
開店当時に窓ガラスに印字してある営業時間。数ヶ月前に店の営業時間と定休日が変更になったものの、変更していなかった。

「これじゃあ、分からないじゃないか」とおじいさん。
「わ〜すみません」と私。
違うところにもう少し大きく看板つくったりしたらいいんじゃないの?と提案してくれる。
働いていると、お店にくる人の気持ちやお店の見え方が意外と分からないことが多いから有難い。

そんなこんなでお話しをしていると
「君の名前はなんでいうんだい?」と聞かれた。
「〇〇です」と答える私。
「〇〇さんはお店には毎日いるのかい?」とおじいさん。「週に2日くらいいます」と私。

「オーナーじゃないんだね、じゃあ3日に一回はここを通らないとだね」とおじいさん。
「君の笑顔はいい、お店にきたくなった」と嬉しい言葉をくれる。「次会った時は、電話番号を聞こう」と冗談をいいながら楽しそう。「慣れてますね〜」と返す私。

「君は笑顔がいい。知らない通りすがりの人にそんな笑顔を向けられるのは素敵だよ。この歳になると、そんな笑顔には沢山は触れられなくなった。でもね、その笑顔はご両親に感謝した方がいい。その笑顔は、小さい頃から愛情いっぱいに育ててもらったことが伝わってくる、たくさん愛されてそれが肌に染み込んでる。感謝するんだよ」

そう続けて伝えてくれた言葉に、なんだかちょっとうるうるしてしまった私がいた。言葉がうまいおじいさん。もともと褒め上手なのかもそれないけど、純粋にとても嬉しかった。
最近は実家に戻って、両親とも一緒に過ごす時間が増える中で、素直に感謝できなかったり、親に否定的に感じてしまうこともあるから、何よりも両親を褒めてくれたことが嬉しかった。

「それじゃあ」とおじいさん。
嬉しい気持ちを抱えて、「ぜひ、お店にいらしてください」と私。

その場をあとにするおじいさんに、名前聞くの忘れた!と思い出し「あの〜お名前は?」と呼びかける。
「〇〇です」とおじいさん。
「〇〇さん、ありがとうございました、おやすみなさい!」と言ってお別れをした。

その日の締め作業には、いつもの作業に加えて、店頭の営業時間と定休日の表示を書き換える作業をした。おじいさんがお店にこなかったとしても、店の前を通って、あ、直ってる!と思ってくれたら嬉しいな。嬉しい言葉をくれたお返しになればなと想像しながら。

その次の日の朝、キッチンに立つ両親にこの話をした。
2人とも、照れくさそうにしつつも嬉しそうだった。

たかが、通りすがりの人。でもお話ししてみれば、ただの通りすがりの人でもなくて。
こうやって、日常の中、小さな出会いの中で生まれる、ほっこりする瞬間がとても好きです。
大きく心動く体験に、経験に、変化に出会いたいと思う自分もいるけれど、私の大きな喜びや心動く瞬間は、日常の中の、小さな出会いと、小さな幸せに沢山つまってることを忘れたくないなと思った時間でした。

オープン作業、締め作業
好きな音楽とおきまりの作業と一緒に、少しお店の外を眺める時間をつくろうかな、なんて思った日でした。

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