【豆太郎日記①】ホワイトデーにブラックキャットを保護しました。
3年前、「芙子(ふうこ)」という19年間一緒に生きた猫を看取り、もう猫は飼えないと思っていた。ふうこ以上に猫を愛することはできない、いや、愛したくない、と思っていた。
でも、そもそも猫という生き物に心底魅了されているので、今まで通り、SNSの猫さん画像や動画に癒され、道端で猫さんを見かけると声を掛けたり、ある距離感で猫を愛でていた。
そして、運命の日が来た。
先日のホワイトデー。家を出て3分ほど歩いたところで、視界の隅の黒い塊に気づいた。視線を落とすと、真横の木の根もとに「豆太郎」が香箱座りしていた。豆太郎は、近所でよく見かける野良猫さんで、6年前、まだ子猫の時に出会い、勝手に命名して見守っていた。ふうこの生前、まだ2歳くらいだった豆太郎が、うちの庭までふうこに求愛に来たこともあった。
とは言え、豆太郎は警戒心の強い野良猫さんだったので、2mより距離を縮められることはなかった。その豆太郎が、真横の木の根もとにいた。
「あれ〜、豆太郎、久しぶりだねぇ。」
と覗き込むと、頭のてっぺんが抉れ、白い地肌と直径2cmほどの大きな傷口が見えた。傷口には小さな砂利がこびりついていた。さらに、口からは血の混ざった涎が筋になって流れていた。
本当ならば、こんな近距離に人間がいたら逃げたい。でも逃げられない。
豆太郎は、痛みとショックからか動けず、香箱座りして震えていた。
用事に向かう途中だったけれど、このままにしていたら死んでしまう。家に戻り、ふうこが使っていたバギーを物置から引きずり出し、ホコリと蜘蛛の巣を払って、また豆太郎のもとに急いだ。戻るまでにいなくなっているかも知れない、と心が逸った。
少し体勢は変わっていたけれど、豆太郎は同じ場所にいた。
時刻は午前8時50分。ふうこのかかりつけだったクリニックは10時開診。電話をしても留守電になってしまった。近所の動物病院を検索したら、15分ほどの所に、9時開診の病院が見つかった。
電話を受けた女性は、事情を聞いてすぐ医師に代わってくれた。
「野良猫ですよね?引き取ってもらえないなら、受け入れられません。」
「引き取ります。」
即答していた。
次回に続く。