ある日。
ある日、私は自宅の家の壁に針金で縛りつけられていた。
そこから毎日、家の前で遊ぶ子供の姿、買い物へ出かける妻の姿、そして、何の用があるのか、朝だったり夕方だったり、家を出入りしている自分の姿を眺めていた。
こういうことがあった。
子供がチョークで地面に絵を描いているとき、近所の少年たちがやってきて何を描いているのかと尋ねた。
「父ちゃん」
そう答えた子供は、立ち上がると、地面に描いた横たわる白い棒人間の絵を少年たちに見せた。私もそれを見た。
少年たちが、お前の父ちゃんは寝てるのかと聞いた。
「そう。僕が起きているときに寝ているし、僕が寝ているときには起きているの」
私は自分の生活を振り返りながら、子供の言葉に羞恥心を感じ、俯いた。
といっても、俯いたかどうかは傍目にはわからないのだが......
少年たちはふーん、と言ってしばらく子供と一緒にチョークで落書きをしていったが、しばらくすると走り出した一人に従って公園へと走っていった。
私の子供はまた一人、地面に絵を描き続けていた。
別のある日、町中が眠りについた夜の深い時間のことであった。
私の前に、どこからともなく三人の白づくめの人間がやってきた。
背の低いのが二人、高いのが一人、全身真っ白のベールをまとって顔を隠している。
私の前に横並びになると、真ん中の背の高い人物がろうそくを灯し、私の前に白い布をぶら下げ、三人がそれぞれ、別の言葉を呟いてまるで祈るようにした。
20分くらいの時間が経って、彼らは私の前から去っていった。
木となった私は心なしか、自分が木であることへの違和感が次第に薄れていることに気がついていた。
木ではなかった頃の自分がどのような暮らしをし、どのようなことを考えて生きていたのか、それを思い出すことは無くなっていたし、そのことを何とも思わなくなっていた。
その晩も、三人の白づくめの人間がやってきた。いつものように、私の前にろうそくを灯し、何かをぶらさげ、それぞれの言葉を呟いている。
私は、彼らにこちらからメッセージを送ってみようと試みた。
これまで試したことがなかったが、大きく深呼吸するイメージを木の体で再現してみた。
ゆらゆらと燃えていたろうそくの火が、ふっと消えた。
三人はそれからもう二度と、私の前に現れることはなかった。
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