【緊急】紅麹と機能性表示食品(1)
この記事でわかること【一般消費者・食品事業者・機能性食品研究者向け】
1.同じ紅麹であっても食品原料(サプリ)と食品添加物(色素)は異なる
2.原因物質について
2.1. 発がん物質シトリニン
2.2. 機能成分モナコリンK
2.3. 謎の物質X
1. 同じ紅麹であっても食品原料(サプリ)と食品添加物(色素)は異なる
現在紅麹サプリの健康被害が社会問題化し、紅麹を使用した食品全体の回収が進んでいます。紅麹(Monascus purpureus)は真菌類(カビ類)の一種であり、食品添加物*であるモナスカス色素として広範に使用されてきました。例えば何十年もの長きにわたって、タコ、魚肉ソーセージ、米菓、魚卵といった加工食品に0.2-1.0%使用されてきました。
-食品添加物:厚生労働省が定める食品衛生法内に定めた食品添加物公定書に試験法・成分規格・使用基準が定められている。
一方、サプリに用いられている紅麹は食品原料です。食品原料は食品添加物と異なり、国による規格基準は特にありません。サプリメントの場合、紅麹抽出物の塊を飲んでいるわけです。
従って、色素として使用される場合にはその含有量も低く、摂取頻度も少ないことから、問題は少ないのではないかと思われます。
2.原因物質について
2.1. 発がん物質シトリニン
紅麹(Monascus purpureus)は真菌類(カビ類)の一種です。カビが産生する毒素としては、強力な発がん物質であるアフラトキシンなどが知られており、今回の被害についても、紅麹が産生する発がん物質であるシトリニンとの因果関係が指摘されています。一方、製造元である小林製薬㈱の報告(BMC Genomics, impact factor 3.73、まあまあの雑誌です)によると、次世代シーケンサー解析を用いた解析によって製造に使用されていた紅麹菌M. purpureusでは、シトリニン産生遺伝子が欠損していることが確認されています。また、小林製薬(以下当該メーカー)の発表では、紅麹原料を分析したところシトリニンは検出されなかったとされます。
一方、紅麹従来菌として “豆腐よう”などに用いられているM. purpureusはシトリニン産生能を有します。そのためスイスでは2014年に紅麹を含む食品の売買は違法であるとされました。加えて、EU紅麹調製物中のシトリニンの摂取基準値が体重1Kg当たり2mg以下と設定されました。これらついては、内閣府・食品安全委員会が収集した食品安全関係情報データベースにおいて、注意喚起がなされてきました。
当該メーカーもシトリニンに対しては、注意を払っていたのではないかと思われます。
2.2. 機能成分 モナコリンK
紅麹サプリの機能成分とされるモナコリンKは、アメリカで承認されている医薬品であるコレステロール低下薬ロバスタチンと同一の物質です。FDA(
米国食品医薬品庁)は、重篤な副作用として肝障害、横紋筋融解症(骨格筋が壊死すること)などの理由から、2008年1月25日付でドイツにある健康食品(サプリメント)メーカーNature’s Way roducts, Inc.に警告文書を発出しています。
https://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu02340260105
特に腎機能障害患者に対しての投与は、横紋筋融解症を合併すること、また横紋筋融解症に伴って急激な腎機能の悪化があらわれるとの注意喚起がなされています。
腎障害患者では血中に尿毒素(カチオン系物質)が蓄積することで、肝臓にスタチンを運ぶ役割を持つタンパク質(トランスポーター)が阻害されてしまい、血中にスタチンがあふれてしまいます。あふれたスタチンは、骨格筋を融解させ、骨格筋タンパクが血中にあふれ、血中のタンパク質が腎機能に障害を与えるという図式です。
今回被害にあわれた方の腎機能については、どうだったのでしょうか?
追跡調査が待たれるところです。
2.3. 謎の物質X
報道では、紅麹原料にロット間差があり、被害者が飲用していたロットには未知の成分Xのピーク(LC-MS, 液体クロマトグラフィー-質量分析におけるピークのことでしょうかね)が検出され、この成分と被害の因果関係について多くの憶測と共に伝わっています。
当該メーカーの発表では、原料の製造工程はHACCPに基づいた衛生管理がされているとのことですので、外部からの持ち込みとか、他の菌の混入などといった可能性は低いと考えられます。
また当該食品の製造法として、蒸気滅菌した蒸米にMonascus pilosu菌を接種し、固体培養(初期4日間:温度30℃、4日目以降22℃、初期水分率42%)を43日間を行った際の成分量の経時的変化が報告されています。その際、分析にはODS系C18カラムを使ったLC-MS分析を用いているようです。報道では、ここで通常認められないピークが検出されたことを問題としているようです。
一方、食品の分析に携わった方はお分かりになるかと思いますが、発酵食品を含む食品の成分組成は大変複雑です。上述したODS系C18カラムを使ったLC-MS分析で検出可能な成分というのは、本当にごくごく一部です。
もちろんその未知の成分Xを分析して(LC-MS/MS分析をすればほぼ同定できるので難しいことではないと思われますが)、因果関係を調べることも必要ですが、その他の原因物質についても調べる必要があると思います(すべては不可能ですが)。
現在までのところ(2024年3月27日現在)“紅麹“サプリメント摂取後に106人に腎障害が見られ、そのうち2名がなくなったことが報道されています(現時点での紅麹との因果関係は調査中)。
本健康被害は、機能性表示食品制度施行以降、最大の事件となってしまいそうです。次回はその背景と対策について、述べていきたいと思います。
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