消費者庁から法律案が公開されました

3月5日に消費者庁から国会提出法案が公開されました。この中には「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案」が含まれています。

1.法律案の概要


詳しくは法案の概要をご覧いただければと思います。概要は以下(1)から(4)のとおりです。
※取引DPF=取引デジタルプラットフォーム

(1)取引DPF提供者の努力義務(第3条)
・取引DPFを利用して行われる通信販売取引(BtoC取引)の適正化及び紛争の解決の促進に資するため、以下の①~③の措置の実施及びその概要等の開示についての努力義務(具体的内容については指針を策定)
①販売業者と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置
② 販売条件等の表示に関し苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施
③ 販売業者に対し必要に応じ身元確認のための情報提供を求める

(2)商品等の出品の停止(第4条)
・内閣総理大臣は、危険商品等(重要事項(商品の安全性の判断に資する事項等)の表示に著しい虚偽・誤認表示がある商品等)が出品され、かつ、販売業者が特定不能など個別法の執行が困難な場合(販売業者が特定可能等の場合は特商法等により対応)、取引DPF提供者に出品削除等を要請
⇒要請に応じたことにより販売業者に生じた損害について取引DPF提供者を免責

(3)販売業者に係る情報の開示請求権(第5条)
・消費者が損害賠償請求等を行う場合に必要な範囲で販売業者の情報の開示を請求できる権利を創設

(4)官民協議会(第6条~第9条)・申出制度(第10条)
・国の行政機関、取引DPF提供者からなる団体、消費者団体等により構成される官民協議会を組織し、悪質な販売業者等への対応など各主体が取り組むべき事項等を協議
・消費者等が内閣総理大臣(消費者庁)に対し消費者被害のおそれを申し出て適当な措置の実施を求める申出制度を創設

2.個人的な感想

 まだ法律案を詳細には読み込めていませんが、商品等の出品停止(第4条)と販売業者にかかる情報の開示請求権(第5条)が盛り込まれたことは非常に心強いなと感じました。

 商品等の出品停止(第4条)は、事業者に対する抑止効果があるでしょうから、事業者側も商品の出品にあたって慎重に情報を精査するでしょうし、取引DPF側も要請に該当するような商品の取扱について慎重になることが予想されます。慎重になることは勿論、取引上のコストになってしまいますが、消費者としては安心感を持って取引を行うことが出来るようになりますので、積極的な対応を行う取引DPFほど、消費者の信頼を得ていくのではないでしょうか。
 私の事例の場合でも、メーカーやAmazonに該当する商品の削除や同様のリスクのありそうな商品の削除、事故に関する情報の発信を依頼しましたが対応してもらえませんでした。2次被害拡大を防ぐという意味では非常に重要な点だと思います。
 一方で、「内閣総理大臣は、・・・出品削除等を要請」となっていることから、どの程度の期間で事態の把握から要請までを行えるのかは検討すべき内容かと思います。24時間以内に行えるのか、1週間なのか、1ヶ月なのか、それとも1年以上かかってしまうのか。この場合、暫定的な対応を含めて、対応のためのフローを整理していく必要があるのではないでしょうか。また、私の事例のようなモバイルバッテリーの場合に、該当する製品だけが対象となるのか、同様の部品を使っているものが対象となるのか(この場合、他のメーカーで同様の部品を使っている可能性もある)、についてもどのように取り扱われるのか興味深い点です。

 販売業者にかかる情報の開示請求権(第5条)は私も個人的に非常に苦労した点ですので、開示請求権が設けられるだけで、被害者は取り得る選択肢が大きく増えると考えられます。
 一方で、開示請求権の対象となるような情報、特に相手方にリーチすべき情報(法人登記や相手方担当者の連絡先、及びこの連絡先がアクティブであるかの確認)や相手方の口座情報等を、取引DPFは事前に把握しておく必要があります。この点、どの程度担保できるのか、悪質な事業者は偽の情報を登録するのではないか、等の実際上の問題はまだあると言えます。また、事業者が取引DPF上で売上金等が有る場合はどのように取り扱えるのかも興味深いです。

 他方で、第3条で努力義務とされてしまった点については、特に第4条、第5条を担保する上でも不安が残ります。円滑な連絡が行えないことは第4条の前提を欠くように思われます。身元確認が行えないことは第5条を担保できないのではないでしょうか。
 また、実際に起こってしまった被害の救済を埋め合わせるためにも、補償のための仕組み、例えばPL保険のようなものを事業者に加入させることを義務づけることは加えてもらいたかったなという感想です。取引DPFにおいてはこのような仕組みを導入しているところもあります。
 勿論、これらの事柄を丁寧にやっていく取引DPFが消費者の信頼を勝ち得て成長するから、市場の原理に任せておけば良いのだという意見もあるかと思いますが、市場の原理によって淘汰が起こる間に取りこぼされる消費者は必ず発生します。また、そもそも、この種の事柄は競争領域で議論される問題ではなく、協調領域で議論されるべき点ではないでしょうか。協調領域での議論が速やかに行われないのであれば立法でこれを解決するのは自然な流れではないでしょうか。

3.今後への期待

 以上のように、個人的な期待も多く述べましたが、これまでこのような法律がなかったところに新しい法律を作っていただけたことは非常に有り難いことだと感じています。今後の議論の進展を待つ間の取りこぼしは憂慮すべき問題だと思いますが、まずは議論のスタート地点に立てたことは歓迎すべきだと考えています。


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