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"ダークなレミーのおいしいレストラン" 『ピッグ』の感想

映画『PIG / ピッグ』

点数 : 5点 (5点満点)

ストーリー : オレゴンの森の奥深くでひとり孤独に暮らす男ロブ。彼にとって唯一の友だちは忠実なトリュフ・ハンターのブタで、収穫した貴重なトリュフを取引相手の青年アミールに売った金で生計を立てていた。そんなある日、ロブはライバルのハンターから襲撃を受けて負傷し、ブタを連れ去られてしまう。愛するブタを奪い返すため犯人の行方を追うロブだったが…

監督 : マイケル・サルノスキ
出演 : ニコラス・ケイジ、アレックス・ウルフ、アダム・アーキン

感想

近年は低予算映画への出演が多いニコラス・ケイジ。『ヒューマン・ハンター』や『ザ・ビースト』みたいな目も当てられない酷いB級作品にも出演していますが、たまに『グランド・ジョー』や、『ドッグ・イート・ドッグ』、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』、『カラー・アウト・オブ・スペース』、『ウィリーズ・ワンダーランド』など全盛期のニコラス・ケイジには出せない今だからこそのニコケイ節がギラッギラに輝いている傑作や怪作もいくつもあります。そして本作『ピッグ』はその中に加わること間違いなし。

トリュフハンターが盗まれた豚の奪還に向かうというあらすじを聞いてだけだと、『96時間』とか『ジョン・ウィック』みたいなリベンジアクションを想像する人もいると思います。僕も観る前の印象は"ブタ版ジョン・ウィック"でした。

しかし本作はそんな物騒な映画ではございません。なにせ劇中の死者は0人。ブタを盗まれたニコケイがブタ泥棒たちを血祭りに!というアクションはないので、アクションを期待して観に行ったり人の多くがガッカリしているようですが…… 仕方がない。そういう映画ではございません。

なら本作は何映画なのか、
本作『ピッグ』は"グルメ映画"です。

本作は第1章、第2章、第3章と3つのチャプターに分かれています。それぞれ料理の名前でチャプター分けされており第1章と第2章まではクライム・ノワールさながらのダークな雰囲気でとてもカッコいいのですが、ブタ泥棒を特定してからの第3章。この対決方法がとても斬新。こういうダークな映画ではあまりない方法の対決で、僕が今観ている映画は『レミーのおいしいレストラン』なのか?と思わず困惑しました。

ある意味、このフレッシュな対決は『96時間』や『ジョン・ウィック』みたいに暴力で解決するアクション映画へのちょっとしたアンチと感じられる。

観ている時はたしかに"なにこれ??"というのが素直な感想。しかし観終わってから不思議と広がる独特な味わいは本作ならでは。

主演ニコラス・ケイジもめちゃくちゃ良かったです。最近は『マンディ』や『マッド・ダディ』、『ウィリーズ・ワンダーランド』など"ブチギレニコケイ映画"が続いていますが、本作のニコケイはそういう怪演は封印。感情をかなり抑えた演技を貫いています。しかし寡黙な分、一度怒るとめちゃくちゃ怖い!

ニコラス・ケイジ本人が、『リーピング・ラスベガス』、『救命士』、そして本作『ピッグ』を後世に残したい映画であると公言する通り、本作のニコラス・ケイジの演技はここ最近の映画でもダントツで素晴らしいと思います。

また監督のマイケル・サルノスキ。
余計なことはベラベラと台詞で語らずに主人公の背景なども最低限にしか描かない。しかし彼の確かな演出力もあり、主人公が抱える悲しい過去の後悔など、しっかりと伝わってくる。91分というタイトな尺できっちり描き、無駄のない見事な語り口でした。ジェフ・ニコルズ監督が降板した『クワイエット・プレイス』のスピンオフ作品の監督に大抜擢されたそうなので、そちらも期待大です。

パンフレットが作られなかったのがとても残念。ニコラス・ケイジ出演作の中でも屈指の傑作だと思います。

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