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最悪の飛行機墜落事故、Netflix映画『雪山の絆』感想〜

点数 : 5点(5点満点)


ストーリー : 1972年、ラグビー選手団を乗せてチリへ向かっていたチャーター機のウルグアイ空軍機571便が、アンデス山脈中心部の氷河に墜落した。乗客45名のうち生存者は29名。想像を絶する過酷な環境のなかに取り残された彼らは、救助を待つものの食料がなく、状況が厳しさを増す中、彼らは生き延びるためにあることを決意する。

監督 : J・A・バヨナ
出演 : エンゾ・ヴォグリンシク、アグスティン・パルデッラ、マティアス・レカルト


"ウルグアイ空軍機571便遭難事故"
この飛行機墜落事故を題材にした映画は本作が初めてではなく、1993年にはフランク・マーシャル監督×イーサン・ホーク主演で『生きてこそ』が製作されたり、その前にも1976年製作のメキシコ映画『アンデス地獄の彷徨』、他にもいくつものドキュメンタリー作品が製作されてきた有名な飛行機事故ですが、スマトラ島沖地震を描いた『インポッシブル』や賛否両論となった『ジュラシック・ワールド 炎の王国』のJ・A・バヨナ監督が母国語であるスペイン語映画としては16年ぶりに製作された本作。

ちなみに『ジュラシック・ワールド 炎の王国』は評価はそこまで高くないけど、全体にゴシックホラーのような作風やPG-12指定にしては攻めてるゴア描写など、しっかり監督の味を出せた怪作だったので個人的にはワールド三部作の中で一番好き。

けど批評的には失敗してしまったから、おそらく本作『雪山の絆』はJ・A・バヨナ監督にとって起死回生の一本として製作されたんだと思いますが、個人的には本作でJ・A・バヨナ、監督としてのレベルが完全に一段上に上がり、最高傑作を更新したと思います。

寒さでガラスが破れるほどの極寒の地。
食料は疎か防寒具すらなく、体調不良により尿が黒くなる。最初は缶詰やビスケットをみんなで分けた食べていたけど、それもなくなりタバコの食べたり、雪を食べたり… そして生きるために"死体"を食べる。過酷なサバイバル描写は言うまでもなく良いけど、本作はドラマ部分の描き方がとても丁寧。

絶望的な状況下でもジョークを忘れずにお互いを励まし合う。一部のレビューで雪山に墜落した危機的状況なのに登場人物たちがジョークを言い合っててリアリティがない と言う人がいるけど、個人的にはそこが最も人間らしいポイントであり、リドリー・スコットの『オデッセイ』のような"人間舐めんな"という力強いメッセージにも繋がっており、めちゃくちゃ感動しました……

ジョークを言い、お互いを励まし合う…
しかし捜索が打ち切られたことを知った場面。生存者全員の希望が失われ、ラジオからは呑気な音楽で自転車のコマーシャルか流れる… そのときの絶望感は凄かった……

また撮影監督を務めたペドロ・ルケ。
舞台となるアンデス山脈の雪山の景色。
その壮大な風景はとても美しい。けど美しいと同時に果てしない恐ろしさも感じさせる見事な撮影。また飛行機墜落場面の撮影も恐ろしいほど素晴らしいものでした。墜落の衝撃で人間が押し潰される… 個人的にジョー・カーナハンの『ザ・グレイ 凍える太陽』に匹敵する恐怖の墜落描写でした。

本作は生還したところで映画が終わっているけど、実際は生き延びるために人を食べたことが国内で問題となり、生存者たちが非難の対象となったそうですが、本作ではその部分は描かれていない。

これは、どうやって生き残ったのか… ということが大事なのではなく、生還したことがまずは奇跡であり、"諦めない"ことが大事なのだ というJ・A・バヨナ監督の優しさを感じました。

事故の当事者ではない第三者が批判するような卑怯なことは本作には必要ない。そういうことは現実のマスコミがやってるからね……

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