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【読書】「罪の声」

今日、映画公開初日の「罪の声」

おもしろくて、一気読みしてしまった。

前々から読みたいと思っていた小説だったが、「ノンフィクション」を超える「フィクション」と言って良いだろう。

1984年から1985年にかけて関西を中心に起きた一連の食品会社脅迫事件。「グリコ・森永事件」として知られているが、結局未解決のまま、すべての事件が公訴時効を迎えてしまった、あの事件がモチーフとなっている。作者が新聞社勤務だったこともあり、その事件の様々な背景や伏線をすべて用いて、未解決だった事件が、「フィクションとして」解決されているのだ。

 読んでいるうちに、私は、幼かった頃の記憶を呼び戻し、最後にはその事件が現実に「解き明かされていく」状況にどっぷりとはまり込んでしまった。現実社会では、この事件は時効を迎え、迷宮入りしたはずである。捜査上に浮かんでは消えた容疑者の姿も、録音された音声のテープも、きつねめの男の似顔絵も、確かに現実世界にあったはずだ。でも、私たちは35年という年月によって、記憶を薄れさせ、その事件があったことすらもわすれてしまうのだ。

 事件当時、小学校1年生だった私は、大好きなお菓子を作っている会社さんが、悪い人に毒を入れられて、お菓子が売れなくて困っていることを知った。子ども心に何とかしなければと思い、森永製菓にあてて、励ましの手紙を書いて送ったのだったっけ。お礼にと、森永製菓は、お菓子の詰め合わせと手紙を送ってくれ、そのチョコレートを大切に食べた思い出がある。子どもだった私は、その事件の裏側を知ることは無く、かいじん21面相が、「もう、やめたわ」と終結宣言を出したことを無邪気に喜んでいたのだ。

 35年経った今、改めてこの事件のことを思い出し、調べてみると、その時代と世の中が、この難解な、不可解な事件を生み出したことを知った。捜査線上に浮かんだ様々な憶測や捜査状況を詳細に組み入れながら、緻密に練られたストーリーは、「ノンフィクション」と「フィクション」の境を飛び越えてしまっているのだ。

 脅迫テープに残された声の主は誰か。子どもの声であったことや金の引き取り手として無関係な市民を拘束し、使いにしたことなど、これまでの犯罪の常識を覆すような手法をとっていた犯行グループ。犯罪に巻き込まれてしまった子どもは、どうなってしまったのか。このような事件に関わってしまった家族は、その後どんな人生を送ることになるのか。新聞記者と、テーラーの男性が、この事件の真相を探っていくことになるのだが、ラストは、読者が予想だにしなかった方向へ向かっていく。

 この物語のラストについて、あくまでも「フィクション」であることを差し引いたとしても、本当に「あり得る」ストーリーとして私は捉えている。家族によって、知らないうちに犯罪に加担することになった子ども達。その罪を負って、辛酸をなめるような生活を送らなければならなかった人がいる。加害者であり、被害者である犯人達の家族は、犯人同様に罪を償うべきものなのか。そして、その事実を知らぬまま育ってきた子は、その事実を知ったとき、どう生きるべきなのか。

 小栗旬が、新聞記者で、録音テープに声を残した男が星野源。原作のイメージ通りの配役だと思う。登場人物があまりにも多くて覚えきれないという所もあるが、小説の世界観を上手く映像化できているのではないか。

10月30日から公開ということで、まだ映画は見ていないが、今年読むべきミステリー作品であることに、間違いは無いと思う。


 

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