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雨と葉っぱ


肌寒い季節に、悩みの種を撒いた。

その種は気づかないところで芽を出していた。
葉に触れる風を心地良く感じる日もあったし、自分よりお日様を浴びている隣人を羨ましく思い落ち込む日もあった。でも、それで良かった。

葉は、幼い頃に一度だけとても美味しいお水を飲んだ事をずっと覚えていた。
大事な思い出だから誰にも教えず「またいつか縁があって僕の所へ降るといいな」とたまに思い出しては幸せな気持ちになっていた。

植物でいうところの数年が経った。
葉は大きくなり、背もうんと伸び、沢山のお日様とお水に助けられて成長していた。辛い事もあったけれど何とかここまで乗り越えてきた。
もう隣人を羨ましがったりなんてしない。

「あの時の美味しいお水はこんなに成長した僕を見て何て言うんだろう」

少し経った頃、葉が眠ってしまっていた深夜にゴロゴロと空から低い音が鳴り響いた。雨だ。
当たっては跳ね返るその水音でゆっくりと目を覚ます。
真っ暗で何も見えなかったけれど、葉はあの時の美味しいお水だと心で分かった気がした。

「元気だったかい!」
お水も懐かしそうに葉っぱへ声をかけた。

「…………ああ!」
葉っぱは”君に会えて嬉しい”と言おうとしたが
何故か声にする事が出来なかった。

その日はお互いに今迄の事を楽しく話した。
雲の上での生活、近くの公園から聞こえる子供の笑い声、地上へ落ちる喜び、隣人から聞いたつまらない話。

葉っぱは、美味しいお水と一緒にいるとやっぱり安心した。明日はどこへ行くのか、どんな楽しい事をしたのか聞いていたいと思った。辛い事があった時は絶対に一人にはしないと思った。
それが葉っぱ自身の幸せだと根拠もなく思った。

「今度は北の方へ行くんだ」
お水はそう言った。

「何の為に?」
葉っぱは、また暫く会えなくなるのだと気付いて少し冷たい口調をした。

「僕を待っててくれるお花がいるんだ。まだ花は咲いていないんだけど、僕にはもうお花に見えてて…」
ごにょごにょと言いながらお水は照れ臭そうに俯いた。

「……それは良かったね。」
葉っぱはそれ以上何も言えなかった。

また降って欲しい。また僕を潤して欲しい。
他のお水じゃだめだなんて僕の勝手なのは分かってるよ。お水は僕のために降ってきた訳じゃないのは知ってたよ。

でも、さ
なんか違うじゃん。

何となく縁があって僕の所へ降ってきてくれたと思ってその思い出を大事にしまってきた僕は一体何なのさ。
それだとさ、会えて嬉しいなんて思うことも許されてないみたいじゃない。
でもさ、君の幸せなところを見ていたいと思っちゃうから自分の気持ちを優先させる事も出来ないんだよ。僕がそれを伝えても君は喜んでくれると思うから。これも全部ただの思い過ごしなんだって分かってるよ。

こんな気持ちになるなら最初から僕の所へなんか降ってこなけりゃ良かったとか思ったけど、それだと何か寂しいからやっぱりやめとくよ。

「ここへ降った時はまた話そうね」
お水は蒸発しながら手を振った。

「うん、それまでに楽しい話を沢山集めとくよ」
何食わぬ顔で僕も手を振った。

『それじゃあね』


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