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ブロマンス好きは2/27までに三千円握りしめて歌舞伎座走って第一部を観てほしい


ごきげんよう、うっかりフォロワーを買いそうになった元子役、歌舞伎好きのオタクライターです。

突然ですが週末占いです。
A型のあなた!予定が決まっていない?それなら歌舞伎座の10:30開演第一部がラッキースポット!
B型のあなた!最近元気がない?第一部「泥棒と若殿」がおすすめ!
O型のあなた!ブロマンスが見たい?「泥棒と若殿」を見に行こう!
AB型のあなた!うまい芝居が見たい?「泥棒と若殿」がぴったり!

木曜日から、大体こんな気持ちでおります。歌舞伎座の第一部を観に行ったら白目が全部赤くなりました。泣きすぎて!!

フォロワー買うお金あったら舞台もっかい観に行きますが、とにかくこの良さを伝えたすぎた。バズりたすぎて、土下座している夢をみました。

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上演、27日までなのですが、脚本も演出も役者の芝居も良い良い良良ヨイなので、とにかくみんな三千円(3階B席お値段)握りしめて観に行ってほしい。

平穏と裏に隠れた不穏……「泥棒と若殿」あらすじ

さびれた大屋敷に、たった一人で寝ている侍。物音に刀を握りしめて飛び起きるのは大名の息子・成信(しげのぶ)。お家争いに巻き込まれ、人里離れたオンボロ屋敷に幽閉され、もはや今は食料すらも届かない。そんな屋敷に忍び込んだ流れ者の泥棒・伝九郎。金目のものを出せと迫るが、成信に「あったら俺にも少しくれ」と言い放たれる。そんならと家探しするが、踏み板や畳の穴にハマり散々なめにあう伝九郎。成信が「なにもない、自分も3日は食べていない」と告げた翌朝……伝九郎はなぜか飯炊きをしていた。
それから奇妙な共同生活が始まり、成信はただの「信さん」(のぶ)として初めて人間らしい日々を送る。このままずっと二人で暮らしたい……と思っているところに、家臣が「家に戻って欲しい」とやって来て……。

原作は1949年に発表された山本周五郎の短編小説。青空文庫で全部読めます。


現在2月大歌舞伎第一部として上演中、19日(金)19時~BSプレミアムでドラマもオンエアされたばかり!50年前の小説だけど今が旬!鰆!!(関東の鰆は2月が旬)

https://www.nhk.jp/p/ts/P88XMLJ258/


文学賞の名前にもなっている大作家のストーリーの細やかさは、短い話でも色鮮やか。お互い事情を抱えた、身分もバックグラウンドも全く違うふたりが、奇妙な共同生活の中で今までにない安らぎを感じ、またその生活には「終わり」が近づいているという、箱庭のような安寧が大きな魅力です。

こんなにブロマンスだなんて聞いていないんだが?

とまあ真面目に話しましたが



(これは私の錯乱したツイート)

大体こんな感じでした。本当にこんなブロマンスだなんて聞いていない。

ブロマンスとは「Brother」と「Romance」をかけ合わせた造語。友情以上恋愛未満と言ったらいいんでしょうか、BBC版「SHERLOCK」で一気に有名になった言葉です。古い例えだとあぶない刑事のタカとユージ?最近だと「TENET」「ハワイ・ファイブオー」、「コードネーム・アンクル」「キングスマン」……。


ただ、芝居を観ながら思い出していたのは「ブロークバック・マウンテン」。あんまり好きな映画じゃないし(事情が事情なのはわかるが嫁がかわいそうではないか……)ブロマンスではなく恋愛ですけど、閉鎖的で、モラトリアムで、外側には現実があって、どうにもならなくて……という面、非常に通ずるものを感じました。

二十日(はつか)あまりいっしょに暮すうち、成信はすっかり伝九郎が好きになった。彼の躯には生きた世のなかの匂いが附いている、良いところも醜くいところも、卑しさも清らかさもひっくるめた、正直なあるがままの人間の呼吸が感じられた。

この文章が刺さったなら、もうこのnoteこれ以上読まなくていいので、「歌舞伎美人」(https://www.kabuki-bito.jp/)でチケットを見てみてください。3階B席はネット販売してないかもしれないので、東銀座駅直通木挽町地下のチケットセンターへGOです。今なら買えます。

とにかく、ブロマンス好きは観て!

私はクラブハウスでもツイッターでもわめきにわめいておりますが、上質の美しく切ない作品を、極上の芝居で味わえます。約束されしシャトーブリアン。

人力ドルビーアトモスを体験してほしいー歌舞伎役者は芝居がうまい

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近年、歌舞伎役者がテレビにゴリッゴリ登場しています。「半沢直樹」で歌舞伎役者の力を感じた方も多いのではないでしょうか。あれ歌舞伎に寄せていったと個人的には思っています。どうですか?TBS(元ドラマ出演者)

私は、森光子さん、池内淳子さん、赤木春恵さんなどそうそうたる女優を見て育ちました。昔から女優にばかり夢中になるので、歌舞伎は正直あまり興味がなかったんですね。だって好きになったって絶対に出られないし、人によっては生まれたときから芝居に囲まれているなんてずるいじゃないかと……。
ところが4年前。初めて歌舞伎を観たとき「私が好きだったものがここにある」と雷に打たれました。


みんな芝居がうまい。とにかく隅から隅まで芝居がうまい。例え若くて経験が浅くても、数年経てば見違えるようになる。これは、ハマると思ってしまったし、実際ハマってしまって、歌舞伎の記事を和樂webで書くところまでいってしまった。松竹の皆さんいつもありがとうございます!!!

(これとか。他に三谷かぶきなども書いてます)

「泥棒と若殿」はほぼ二人芝居、泥棒・伝九郎役は四代目尾上松緑丈、若殿・二代目坂東巳之助丈が演じています。もう今さら私が説明するほどでもないんですが、まあ~~~芝居が良い。ふたりともマジで人力ドルビーアトモスなので3階席まで声が通る!!滑舌がキレイ!


私は巳之助丈が推し……好き……尊敬……よくわかりませんが、とにかく芝居がうま~~いと思っています。

ていうか上品たおやかなお姿で「お前のことが好きになった」って言う推しを予備知識無しで見せられたこっちの身にもなってほしい。酸素足りなくなるだろ。

近年は「NARUTO」のナルトとミナト、「風の谷のナウシカ」のミラルパとナムリス、「ワンピース」ではゾロ、ボン・クレー、スクアーロの三役を演じていて、「歌舞伎の挑戦」を実現するのに欠かせないひとりと言っても過言ではない役者さんです。この通り演じる役の幅が相当に広い。どれも声音から所作に至るまで見事に演じ分けるので、体内でどういうシステムを採用しているのかは未だによくわかりません。
「棒しばり」のような踊りの演目、「三人吉三」のお坊吉三というような古典の上品な役柄もすらりとした佇まいでこなし、一方当人は至ってクール。インタビューは高倉健を彷彿させる渋さです。


歌舞伎座は今、客席を半分に減らし、第一部の開演時間は10:30。そして舞台も相当広いんですね。そのなかから、たったひとり、白塗りでピンスポに当たり浮き上がるように登場する姿、ゾッとするほどに主役……。

人が良くて、血なまぐさい家督争いに巻き込まれ、幽閉されて捨て鉢になることでどこかほっとしている、育ちの良い若殿。つい面倒を見てしまうおっとりさ、そして家臣に説得される姿の凛々しさ、ほんっとに素晴らしい。

そして面倒見の良いうっかり泥棒の伝九を尾上松緑丈が演じ、若い巳之助の芝居をがっと受け止めているわけです。弱った若殿の静けさと裏腹に、よく喋り、動き、明るい江戸弁の伝九。舞台をパっと明るくし、二人のやり取りにはつい笑顔になってしまいます。

もともと巳之助のお父上・坂東三津五郎丈と演じた芝居であり、三津五郎のお兄さん以外とやりたくないとまで仰っていたのを、今回ご子息とやってみようと思われた、とのこと。歌舞伎という連綿と続く血筋の文化を感じました。

ま~とにかくカワイイんですよ。この二人が。どっかおままごとっぽさがあって。
どちらも「このままではいられない」ことも、「相手には隠された事情がある」ということも理解しながら、今この時間が楽しく、幸せで、ずっと続けばいいのにと願い穏やかに暮らしている。

今まで不遇だった伝九も、生きているという実感のなかった若殿も、よかったね、おめでとう、という気持ちになります。
ただやっぱり身分も背景も違う二人に、別れはどうしてもやってくる……。

家臣が二人を引き裂きに来た!と思ってしまいますが、違うんですよね。彼らには彼らの守るべきものがあって、若殿のことを思っての行動……つらい……。
7万5千石の民が彼らの後ろに控えている、だから殿のお気持ちはわかっても引き下がるわけにはいかない。坂東亀蔵さんはじめ、脇を固める役者さんもおすすめです。長くなりすぎるので割愛(涙)

最初、舞台上手に梅が咲いています。そして、最後の最後で盆転(舞台が廻る)して、屋敷の入り口が初めて現れる。そこに咲いているのは、桜の花。
時が過ぎてしまっているんです。


毎回暗転の時に、客席に背を向けていた若殿は最後、しっかりと観客を向きます。その姿は凛々しく美しいけれども、同時にどこに背を向けているのかという話で……。このあたり泣きすぎて頭痛がしんどかったです。

できる限りネタバレを避けて書いているんですが、伝わるかしら……。オタクの命と祈りを救うと思って観てほしい……。「本朝廿四孝」はうってかわってスタンダードなTHE・グレート・歌舞伎で、三姫のひとりにあげられる八重垣姫が見られます。こちらは非常に歌舞伎を観たという感覚を得られ、皆さんのお芝居がすばらしいのでこちらもぜひ……ストーリーだけ把握していくのがオススメです。


劇場に行くということ


巳之助当人がインタビューでこう言っていて、これは正直ものすごく正論です。
だから、私は今劇場に行ってくださいとお願いしていますが、一部の側面から見れば、全く正しい行いではない。とは、わかっております。

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ただ、歌舞伎座は相当前から対策を徹底し、劇場内、事務所、裏方さんに至るまで、全員がなんとか、歌舞伎の火を消さないように、400年の伝統を次に引き継ごうと、決死の覚悟とも呼べるなか上演してらっしゃいます。
そして、感染リスクの最前線にさらされながら、お客様に楽しんでもらおうとさまざまな想いを背負って演じる役者さんがいる。
面白くて、泣けて、素敵なお芝居が劇場でかかっている。もしも興味がわいたら、ぜひ、(対策をして、健康ならば)行ってみてほしいと、願います。

そんで私のように、一日中泥棒と若殿のことを考えてしまって頭がフルーチェみたいになってください。頼む。


追伸:NHK様、「にっぽんの芸能」でフル放送してください。松竹さんは歌舞伎オンデマで配信してください……。


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