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夢をあやつる

始まりは寝る前に書く日記だった。

大学ノートを開いてえんぴつで書く。
サラサラと
紙の上でえんぴつの芯が

音を立てながら、
その日のことを吐き出していく。
落ち着くし楽しい。
そしてノートを閉じて眠った。

ある時、書いた日記に
チカ自身の願いが混じった。

叶って欲しい小さな事。 

すると
夢のなかで、ちゃんと叶った。

うわ!

たかが夢だけど、
次の日は明るい気分になれた。

そんなことが
次の週にもあった。

日記に1コマか2コマ、
シーンみたいに書いて眠る。

すると、やっぱり
夢の世界で実現した。

そしてなんか
明るい気分で過ごせた。

ある夜、日記に書かず
布団に入って、妄想した。
だってそれは、
好きな俳優と会うとか、
結婚したら?という
恥ずかしいレベルの妄想だから。

すると、大ヒットだった。

夢で、俳優A、俳優Bが侍姿で登場。
二人が難しい顔で立ち話をしているのを、
着物姿のチカは柱の陰から見ている。

次に、
チカは座敷で俳優Bと向き合っている。
待っていて欲しい、
きっとここから連れ出す、と
チカに思いを告げるB。

Aは夫、Bは愛する男だ。
はい、と
着物姿のチカは返事をした。

チカが座敷を出ると、
俳優Cが渡り廊下の先に立っている。
その目は、
拙者もあなた様を、
という熱い視線。

モテまくりの妄想劇に、
チカは幸せマックスで朝を迎えた。

もう天才だわ、と思った。
誰にも文句を言われる筋合いはない。

驚いたのは数日後だった。

俳優A、Bの共演映画が
偶然、テレビ放映されたのだ。

Aは刑事、Bはカタギの元ヤクザ。
Aは事件の鍵を握るBを追い続け、
過去を背負ったBは仲間の為に、
Aの腕の中で死ぬ、という話。

ドラマ中盤、
AとBが事務所で立ち話をする。
証拠が無く、
Bの逮捕に漕ぎつけられず
執念の目を向けるA、
Bは堂々とAの前でシラを切る。

チカは夢の中の廊下で向き合う
侍姿の彼らを思い出した。

夢と現実映画の、
奇妙な共通点が気になり、
チカはTSUTAYAへ行った。

すると、すぐに
俳優Bと俳優Cの映画を見つけた。
こっちは時代劇だった。

借りて見ると、
Bは元赤穂浪士。
討ち入り直前に浪士を抜けたBの消息を
Cが追うという筋書き。

夢で見たことの断片が、
奇妙に形を変えて、
現実に起きている。

だから?
どれもチカには無関係。

でも、大勢いる俳優の中で、
夢に出た自分の大好きな3人の作品を、

わざわざ探さなくても、
現実で、ポンと見ることができる。

これってなんだろう、と思った。

そんなことが時々起きていたのに、

生活がハードになって、
チカは眠ることの優先順位を下げた。

眠気と戦い、
義務をこなし暮らすうち、

いつの間にか、
夢の中で夢が叶うことも、
奇妙なシンクロもなくなった。

寝るのはサボること、
と思うようになり、
なにかを失くしたのだろうか。

たとえ見た夢が理由であっても、
現実を楽しくしていた。

また夢をあやつるように
眠る日を作れるだろうか。

チカはまた、
大学ノートにえんぴつで
日記を書き、
目を閉じて眠り始めた。

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