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巡査どの!その節は。。。3.侵入 ( ̄。 ̄ノ)

時に真面目さは
世を騒がすことがあります。
人間はそこそこ、いいかげんな方が
いい場合もあるようです。

これはかつての独り暮らしで
お世話になったおまわりさんへの
感謝と懺悔の話でございます。
(よろしければ前の記事もございます)

若い頃の私はクソ真面目で頭が固く、
人を頼るという発想がない。
迷惑かけるし、と。

例えば、引っ越し荷物も
家具屋で買った大型家具以外は、
ひとりで何往復もして運ぶ。
それを苦に思う頭がないのです。

当時、仕事の帰宅時間は夜9時頃。
ある夜、玄関を開けようとして

あ!!!鍵がない!

鍵はドアノブの真ん中のボタンを
押して閉めてロックする旧式。
予備キーを隠す発想のない私は呆然です💦

何か手があるはず!
どんな時も乗り越えてきたじゃない。
鍵がないくらいナニ?
暗くて怖い?
だったら電柱の下に行けばいいじゃない。

私は暗い外階段を降り、
近くの電信柱の街灯下へ行き、
そこから真っ暗な自分の部屋を
見つめました。

鼻歌を口ずさみ家を出た
今朝の自分が悔やまれる。
もう二度と、あの部屋で
朝を迎えることができないの?

そう思うと、あの四畳半に
愛しさが怒涛の如く押し寄せます

ラジオ番組の雑誌に赤鉛筆で
丸して録音した渾身のカセットテープ!
エアチェックは私の命。

私の四畳半、私の愛のパッケージ〜〜!

あの窓の向こうに
今朝まであった平和な暮らし

どうする?おりーぶ、どうする?・・・・

あ!あった!唯一の方法。
天使が私の耳元でささやいたのです。

あの暗い窓には鍵をかけていない…

あそこから入れるやん!
どうやって?あそこは2階、、、、

窓の下に外階段が斜めにあるやん!

階段から手を伸ばして、
えい!って反動つけて、
けんすいみたいにできるんちゃう?

バスケ部キャプテンでしょ!

でも、腕の力は一番無かった。

いや、できる、自分を信じて!おりーぶ!

私は覚悟を決め、迷うことなく、
挑戦することに決めました。

その時!

私の真面目気質が、ささやいた。

泥棒だと思われるんじゃないの?

え。。。思われる? 

うん、思われるよ。。。

そうかな?。。。

だって、外から窓に手かける人って
泥棒しかいないしょ。


住人だと思わない? 

思うかい!真っ暗だよ、見えないよ、
この辺の人、あんたがあそこに住んでるって
知ってるの?近所付き合いないしょ。

ない。

絶対疑われるね。

・・・そうか。わかった。

私は近くの交番に行きました。 
携帯電話のない時代。

交番には三角札が置かれ、
ご用の方はこちらまで、と
電話番号が書かれていました。
私は電話をかけました。

「はい、〇〇警察、どうされました?」
「私、〇〇に住む〇〇というものですけど、
部屋の鍵を忘れて帰ってきても入れないんです」
「鍵?ほう」
「それで、これから窓から入りますので、もし、泥棒という通報がありましたら、それは泥棒ではありませんので。私です」
「え?」

「泥棒ではなく私です。本人です」
「本人?なんの本人ですか?」
「住人の本人です」
「どこの?」
「〇〇の1号室の本人です」

「えーと、それで?どうしました?」
「あれ?わかりません?だから鍵を忘れて中に入れないんで、外の階段から手を伸ばせば入れそうなんで、これからそこから入るんですけど、多分、ガチャガチャやっちゃって、それを見た近所の人が、こんな夜に、きっと泥棒だと思って、おまわりさんのとこに110番するでしょ、たぶん。もし、そういうのがきたら、それは泥棒じゃなくて、それは私なので、先にお伝えしときます』
「ええっと、ちょ、ちょっと待ってね、どういうことだ?」
「・・・もう一回言いますか?」

「いや、鍵を忘れたオタクは、そこに住んでいる人なんですか?」
「そうです」
「それが自分の部屋なのね?」
「そうです」
「で、そこに入るの?」
「そうです」
「どうやって?」
「階段から、見えるとこの、窓から」
「あああ、ようやくわかってきた。で?」
「先にお知らせしておこうと思いまして」
「どうして?」
「え?」

長い電話の末、
おまわりさんは、やっと意味を理解してくれました。

警察に了承をとった私は
暗い外階段を上がり
自分の部屋の窓のところに立ちますと、

思った以上に距離がある!
けんすい一回もできない自分には、
ちょっと難易度が高過ぎる!


ええ?!結局打つ手はないの?
このまま朝までここにいるの?
明日、会社。。。長い夜、。。

階段途中で座り込んだまま、
すでに1時間は経っただろうか。

人の話し声が近づきます。
やだ、こんなとこ座ってみっともない。
どうしよう、怪しまれる。

懐中電灯を持った二人が
階段下の道を歩いて行きます。
そして私を照らす。

それは二人組のおまわりさんでした。
私を心配して見に来てくださったのです。

中年のふくよかなおまわりさんは、

「ここ、上がるつもりだったの?これは無理だよ」

すると、もうひとりの若いおまわりさんも、

「あ、これはー、ちょっとキツいですよ」
と二人で窓を見上げていました。

年配のおまわりさんが、
「お前、行け」
若いおまわりさんに命令しました。

「え!俺ですか?」
「そうだよ、お前何しに来たんだ」 
「いや〜林さんやってみませんか?」
「バカか!お前は。俺は86キロだぞ、俺がやったら家が壊れる。こういうのは若いのがやるって決まってんだよ。いいから、やれ」

「わかりましたよ、いけるかなあ」

若いおまわりさんは長身で、少々苦労しつつ
外階段から窓への侵入に成功!
足を入れるとき、上司の林さんが、 

「そこで靴脱げよ!若い女性の部屋汚すな」と
言ってくれたとき、
ようやく顔がゆるみました。


部屋の窓に電気がついた時の
私の喜びを、
なんと表現したらいいでしょう。

部屋に入れた私は、半べそかきながら
お礼を言いました。

おまわりさんふたりが、
よかったねえ、と笑ってくださる。


私は家に唯一あった
マクビティのビスケットを
無理やり差し上げました。
本当はコーヒーをお出しすればよかった、
と後から思いました。

そして、それから一年ほどして、私は
思い出深い、このアパートを
出たのでした。

私のような面倒な庶民に夜中も寄り添い、
助けてくださった、心温かい、
おまわりさんたち。

本当に救われました。
心から感謝しております。

そして長文お読みいただき、
ありがとうございました。



いただいた、あなたのお気持ちは、さらなる活動へのエネルギーとして大切に活かしていくことをお約束いたします。もしもオススメいただけたら幸いです。