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観てきた!【特別展】【復活開催】明治錦絵×大正新版画-世界が愛した近代の木版画- at 神奈川県立歴史博物館

これは行かねば…!と直感し、都内からはるばる出かけてまいりましたが、想像以上!展示にも細かなところまで気配りがなされていて、本当に素晴らしかったです。博物館の方々の熱意と愛情を感じました。

約1ヶ月の会期で終わってしまったのは本当に惜しい限りです。
気になる方はぜひ、図録でお楽しみいただきたいです!!!

場所:神奈川県立歴史博物館(神奈川・馬車道)
会期:2020年8月25日(火)〜9月22日(火・祝)
時間:9:30~17:00 ※入館は閉館の30分前まで
※事前予約不要/混雑時は整理券配布による入場制限あり


◎行こうと思ったきっかけ

開催中であることを全く知らずにいたのですが、9月6日の日美「アートシーン」で取り上げられていたのを観て、明治~昭和期の錦絵好き・新版画好きなので、一瞬でひきつけられてしまいました。
歴史博物館自体も行ったことがなかったので、この機会に行ってみよう!と。


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◎どんな展覧会?

本展では、世界に誇る日本美術の粋である木版画、その近代の展開をご紹介します。
木版画は近代以前にあっては日本の印刷技術のほぼすべてを担った技術と言っても過言ではありません。幕末に西洋由来の版表現や印刷技術が受容されたことにより、近代の木版画は新たな刺激をうけ、さらなる進化/深化を遂げたといえるでしょう。
本展では、明治錦絵の最大の版元大倉孫兵衛、そして新版画の版元土井版画店、二人の版元に焦点をあて、明治から大正昭和にかけての活動を連続的に追いかけます。近世的な浮世絵の伝統を継承しながらも、新たな表現に挑戦した二人の版元と、そのもとで活躍した絵師とその多彩な作品をご紹介します。(公式サイトより)


そうなんです、展覧会は大きく2つの構成になっていました。

江戸時代の浮世絵から、明治に入って錦絵(にしきえ)と呼ばれるようになり、これは海外で売れる!と版元・大倉孫兵衛さんによってたくさん制作された頃の錦絵を鑑賞できるエリアと、
さらに多色摺りで制作されるようになった、大正〜戦前の昭和にかけて、版元の土井版画店が手掛けた新版画をたっぷり鑑賞できるエリアにわかれていました。

この展覧会は、素晴らしい木版画の数々をご紹介したり、絵師に注目する、だけではなく、作品を生み出してくれた2つの版元にフォーカスし、携わった人々に思いを馳せ、より多面的に深みを持って味わえる、ちょっとめずらしい趣向の展覧会だったのです!!!

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◎そもそも版元って何?

版元、の前に・・・
そもそも浮世絵、新版画って、たった一人の人間が最初から最後まで手掛ける、のではなく、プロフェッショナルな職人たちによる完全分業制で作られているって、ご存知ですか。

絵師:絵を描く人 北斎とか広重とかとか。
彫師(ほりし):使われている色ごとに絵を分解しながら木の版に彫る人
摺師(すりし):顔料を版につけ、加減しながら、紙に摺っていく人

そして
版元(はんもと):絵師や彫師、摺師を組織し、資金を準備して、作品を生産販売する責任者。プロデューサーでありパトロンであり、組織の経営者、ビジネスオーナーってところでしょうか。

現代では、やっぱり絵師の名前がしっかりと残ってますよね。確かに、絵が素晴らしくなければ、後世には残らないでしょうから。

でも、仕事内容を見てみると、彫師も摺師も、相当なスキルが必要だと思うんですよね。

彼らがいなければ、絵師の絵が、彫りや彩色の力で何倍も魅力的に表現されることだってなかっただろうし、木版画として同じものがたくさん作られて、安価になったおかげで庶民に広まって、遠いヨーロッパで人気になってもいないでしょう。

彫師や摺師の名前が、作品に署名のように入っている、ということは本当に少ないです。なかなか残っていないのは、アーティストというより、やっぱり職人という認識だったからなのでしょう・・・。
そんな中で、版元については、わりと作品や史料に名前が残っているため、辿って研究しやすい情報ではあります。

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◎錦絵の版元・大倉孫兵衛さんって?

実は、つい2年前の2018年、今回展示された錦絵の画帖が初公開されたばかり。つまり、版元であったことが最近、注目されるようになったばかりの方なんです。

この画帖、今回、展示されていたのを観て、本当にびっくりしました。
ほどんど滅多にページを開いていなかったようで、できたてほやほや!なくらいの鮮やかさで、赤!青!黄色!緑!!!と、ものすごい極彩色で、緻密なデザインの世界が、これでもか!と広がっていました。
はっきりとした制作年が出てなかったのですが、100年以上も前に摺られたとは到底思えない色とデザイン。どことなく中国絵画っぽい感じもします。

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大倉孫兵衛さん、版元としても注目されるようになるまでは、輸出用陶磁器から事業をスタートした実業家として有名でした。
なんと!現在のノリタケに、TOTO、日本ガイシ、INAX→LIXILと、びっくりするくらいの大企業の創業者なんです!!!

そして、孫兵衛さんが最晩年に、”道楽”のつもりで始めた事業が・・・なんとなんと!あの美しいお皿やカップを作り続けて100年、泣く子も黙る高級洋食器メーカー・大倉陶園!なのですよ・・・。

ご存知でしたか?
わたし、全く存じ上げず、展示を見て驚きました・・・すごすぎます。


孫兵衛さんは、これら陶磁器関連の事業を始める前に、版元として錦絵の発行を手掛けます。それは後に出版社となり、さらに洋紙の会社も興していきました。さらに、錦絵の輸出で出た利益が、陶磁器の事業につながっていったんですよ。

しかも、図録によれば、孫兵衛さんは素晴らしいアートディレクターで、そのスキルは、版元としてチームワークで錦絵を生み出していた経験によって磨かれたものでもあったそう。

すごいなぁ・・・
展示されていた白黒のお写真でも、ダンディで素敵なお姿で、ぜひお会いしてお話ししてみたかったなぁ、なんて思いました。


余談ですが、大倉陶園といえば、昨年、松濤美術館などで行われた展覧会、本当に観に行きたかったです・・・
図録、買おうか迷ってましたが、今回の展示を観てやっぱり買おうかな、と思っています。あと関連書籍もいろいろと読みたい、と思いました。

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◎新版画コレクターお2人の存在

もう一つの版元である、土井版画店にフォーカスした展示では、2人の新版画コレクターの存在が非常に大きなものになっているようでした。
土井利一さんクリスチャン・ポラックさんです。

お二人について、展示室内で詳細に何かが展示されている、ということはなかったのですが、図録では、それぞれのインタビューがたっぷり掲載されていました。これが本当に素敵な内容なんです。ぜひ図録にてお読みください。

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◎もっと展示内容を伝えよう!という工夫が随所に!!!

この展示、短い会期になってしまったということもあってか、展示を企画された方々の愛情と熱意をひしひしと感じて感激したポイントがいくつもありました。


●会場内で配布されていたパンフレットが秀逸!
こんなに情報量の豊富な資料が、無料で配られてるとは。驚きました。

・会場内にあった「ごあいさつ」から、各解説パネル、の文章が全文掲載
・展示室内のMAPでは、どこにどんなテーマの展示があるのかが、一目でわかる上に、それぞれの見どころも簡潔に紹介。
・もちろん出品目録もしっかりと。

情報量が豊富すぎるあまり、少々、文字サイズが小さいのが気になったところですが・・・これは、わたしが過去に展示室内でいただいた資料の中で、群を抜いて分かりやすく、充実した内容でした。ほんとに驚きました。

しかも文章は、専門用語をなるべく使わず、事前に知識がない人にもわかるような、できるだけ平易な言葉で、親しみが持てるようなニュアンスで伝えようとしてくれていることも伝わってきました。これ、案外難しいんですよね・・・

この資料、特設サイトからPDFでダウンロードできます!!!
文字の拡大もできますし、これを読むだけでも楽しいと思います。(読んだら展示&図録が見たくなるかと)おすすめ。ぜひご一読ください!

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●特設サイトの企画担当者ブログが熱い
開催が延期になってしまった6月までの過去ブログと!

今回の復活開催が決定してからの復活ブログ


どちらも長いですが、ぜひご覧ください。担当者さまの熱意がひしひしと伝わってきます・・・。
学芸員課程で勉強して、よくわかりました。展覧会の企画って、大変なんですよ、本当に・・・。

●音声ガイドがお家でも聴ける!!!
これは、地味に嬉しい!!!ですよね。
最近よく見かけるようになってきた音声ガイドアプリ「ポケット学芸員」が導入されています。なので、お家でもじっくりゆっくり、何度でも!聴けるんです、音声ガイド。
実はこの内容、配布されたパンフレットの解説文と同じなんです。読む手間いらず!ながら聴きで図録をながめるのも結構楽しくて、おすすめですよ。

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◎図録&グッズは?

図録(¥2,000)、本当に本当におすすめです。これはなかなか他では見られないボリュームと内容がまとめられている!と思いました。

訪問前、事前にのぞいた特設ページからも、熱意がすごく伝わってきてました。だって、抜粋見本を公開してくださっているんですよ!これ、他では滅多に見たことありません。太っ腹すぎます!!!

で、ミュージアムショップで実物サンプルを観て納得。この内容はほんとに素晴らしいです。構成もとってもわかりやすい! もちろん買いました。安すぎると思います。

通販もされているそうですので、ぜひぜひどうぞ!

ちなみにミュージアムショップでは、鏑木清方さんの資料や、平塚市美術館で行われた川瀬巴水展の図録、新版画に関する書籍、大倉陶園の製品、京都・芸艸堂(うんそどう)さんの版画、川瀬巴水さんの「東京二十景」のポストカード(バラ/セット)などなど、充実の内容でした!

え?なんで鏑木清方さんの資料があるのかって?
昨年、MOMATで公開されて話題になった《築地明石町》。わたしも観に行きました!

これが実は、昭和になってから特大判サイズの錦絵になっており、なんと会場でしれっと展示されていたんですよ。え!なんで《築地明石町》があるの!?と、びっくりしました・・・木版画になっても繊細で美しくて、じっと見つめてしまいましたよ。

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また、別コーナーでは、この歴史博物館で過去に行われた企画展の図録のうち、発行から一定期間以上たった図録が、なんと50%OFFに!
太っ腹がすぎるんですけども。

一通り見本を手に取ってみた中で、見たことないテーマ&掲載資料が気になり、「四都美人装い競べー京・大坂・江戸・名古屋」展の図録も買ってしまいました・・・。

このほかにもアート関連の書籍、神奈川県の歴史や、鎌倉時代に関連する書籍など、書籍が充実していました。もちろんお菓子などのお土産もありましたよ~。

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◎常設展にレトロな喫茶などなど 見どころがたくさん

初めて来たし、せっかくだから常設展示ものぞいていこう!と、セット券を買ってハシゴしましたが、これも良かった!びっくりしました。
皆さまも、お時間に余裕があったらぜひ、のぞいてかれることをおすすめしたい展示内容でした。
2フロアにわたって、縄文時代から近代までの神奈川県の歴史をたどれます。

特に鎌倉時代に関する展示エリアの充実っぷりにはびっくり。おかげで、予定してた1時間では全部巡りきれずに閉館時間・・次回のお楽しみ、となりました。

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また、「喫茶ともしび」も素敵でした。一生懸命な接客にに和みました…
手羽元カレー、美味しかったです!!!

個人的にはエスカレーターやサイン関連のちょっとレトロなデザインも好みです。もちろん、この外観も!!!

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◎まとめ

本当に、本当に、行けて良かったです。人気なのも納得。いい展示でした。
何より、無事に開催となって本当に良かった。尽力された関係者の皆さまに感謝感謝の内容でした。

展示はこちらの動画で、解説付きで楽しめます。ぜひぜひ!!!
そして図録もぜひぜひ!!!

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