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甥っ子と。

甥っ子が訪ねてきた。
函館に暮らす兄夫婦の子で、今年33歳になる。
函館の高校を卒業してから、はるばる宮崎の大学に
進学して、卒業後は、いちど函館に帰ったものの、
ふたたび宮崎に渡り、飲食店で働いていた。
何年か働いていた後に、支店を東京に開くこととなり、
マネージャーとして、東京に転勤になった。
それからしばらくしてコロナ騒ぎが始まったのだった。
店の売り上げが激減して、せっかく出した支店も
閉鎖の憂き目にあってしまった。
飲食店を退職したあと、通信制の高校の職員に転職して、
現在東京に暮らしている。
海外留学に力を入れている学校で、
英語の授業をしたり、留学の講演会をしたり、
都の中学を営業で回ったり、毎日忙しい。
甥っ子も大学を卒業したあと、海外へバックパッカーの
旅に出て、外国暮らしの経験がある。
それを生徒のために活かせればというのだった。
親よりも、この叔父さんの血が濃いんじゃないかと
思うくらい、
写真を撮るのが好き、珈琲が好き、胃腸が弱くて、
すぐ腹をこわすところまで一緒だった。
当然酒も好きで、アルコールなら、
なんでもござれだった。
飲みだせばだらしなく酔うのもおなじだから、会えば、
きりなくいつまでも、杯を重ねてしまうのだった。
昨年の夏に結婚をして、このたびは嫁さんも
連れてきてくれた。
嫁さんも、甥っ子とおなじくらい酒が
つよいというから素晴らしいことだった。
馴染みの飲み屋の暖簾をくぐり、
久しぶりと初めましての夜に酔っ払った。
翌日二人を連れて、介護施設に暮らす母に会いに行った。
甥っ子は、ときどき母に手紙を出してくれている。
優しい気づかいを受けて、
母もずっと会いたがっていたのだった。
コロナ禍で、ほんとは東京からの来訪者との面会は
いけないことだった。母も今年90歳で、
この先、甥っ子といつ会えなくなるかわからない。
所長さんの計らいで、玄関先でごくごく短い時間、
会わせていただいた。ちいさくなった体で、
来てくれてありがとう。何度も頭を下げる母に、
甥っ子も嫁さんも、泣き笑いの顔で答えていた。
馴染みの蕎麦屋で昼酒を交わし、
夕方、東京に帰る二人に、長野の日本酒と
ワインと、八幡屋磯五郎の唐辛子を持たせて見送った。
かわいい二人ではないか。
また会えるのが楽しみなことだった。

冷や酒や甥っ子夫婦ととめどなく。

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