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松本まで。

久しぶりに松本へ出かけた。
信濃毎日新聞松本本社のギャラリー、
信毎メディアガーデンで、版画家吉田博と
息子の遠志の、作品展が開かれているのだった。
5年前、上田市立美術館の吉田博展を、
観に行ったことがある。柔らかな色彩の風景が、
静かに気持ちに染み入ってくる、好いひとときだった。
再び目に出来るのはありがたいことだった。
松本駅を出て、遅い昼飯をと、通りすがりの
蕎麦屋に入る。ビール一本と蕎麦で、
さらっと済ませるつもりだったのに、品書きを見たら、
地酒の品ぞろえが好い。
にしんの甘露煮をつまみに、サッポロのラガーと
今錦の純米を酌んで、かけで締めた。
手前そば・俊、接客も愛想好く、
今度は夕方におじゃましたい店だった。
吉田博さん、遠志さんの作品を観て、
メディアガーデンの中をうろつけば、
松本を舞台に撮影された映画、流浪の月の、
松坂桃李や広瀬すずの写真が、あちこちに
展示してある。
三階の松本ブリュワリーのテラスで、
ビールを飲みながら彼方の山並みを眺めていれば、
午後の陽射しが気持ち好い。松本は来るたびに、
清涼な空気に包まれているのだった。
メディアガーデンを出て、あてもなく、
女鳥羽川に沿って歩いていく。
橋を渡って善哉酒造の前をすぎて行くと、
飲み屋とスナックと中華屋の看板が
並ぶ通りに出た。
道の左右の街灯に、ようこそうら町へと
看板が下がっている。
昭和の風情を残すうら町に、人の気配がない。
その先のかどの八百屋の店先に、
いろんな花が並んでいる。野菜はトマト以外
見当たらなかった。
小路を抜けて市役所の前をすぎて、
松本城公園でひと休みする。
久しぶりの松本城を仰ぎ見れば、
小ぶりながらも、空を背景にそびえ立つ姿は、
清々と潔い。
松本に暮らす人たちは、この姿を見るだけで、
元気を頂けるのだった。ベンチに座って、
のんびりと城を眺めて過ごしていれば、
空に薄暮の気配が訪れる。
好い頃合いと立ち上がり、ふたたび女鳥羽川を渡って、
信毎メディアガーデンの前をすぎて、
そのちょい先の焼き鳥屋、末喜商店におじゃました。
飲み友だちのお身内のかたが営んでいて、
気さくなご主人にお相手してもらい、
旨い焼き鳥を食べながら、松本の宵に酔ったのだった。

薫風や黒白の城仰ぎ見て。


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