父と母と。
長らく母の日が来ると、母に花を贈っていた。
子供のころは、花屋でカーネーションを何本か包んで
もらい、大人になってからは赤や紫、そのときどきで
紫陽花の鉢植えを贈っていた。
今年からそれをやめたのだった。
父が亡くなってから、母が介護施設に入居した。
その当時は施設の個室で暮らしていて、変わらず紫陽花を
届けていた。ところが二年前の師走に、転んで腰を
骨折してしまい、リハビリ施設のある同じ系列の施設に
移転した。昨年紫陽花を届けたときに、ここの施設は
四人部屋で、花を飾る机も置き場もないという。もう花は
いいからねと言われたのだった。
今年の母の日の少し前に、施設の担当者から電話があった。
お母様に、花は持ってこなくていいと伝えるように
言付かりましたとのことで、母の気遣いに従うことにした。
六月の父の日が来ると、酒好きの身に毎回日本酒を贈っていた。
酒好きでも、もっぱら飲むのは日本酒ばかり。いつも
紙パックの安酒ばかり飲んでいるから、
たまには上等なのを飲んでいただきたいと、当初は純米吟醸や
大吟醸などの高価な酒を渡していた。
ところが貧しい家庭で育ち、若いときから貧乏性な身は、
もったいながって、なかなか封を開けられない。
結局、冷蔵庫にも入れずにそのままで、めでたい正月の元旦に
ようやく飲む有り様で、すっかり味も老ねちゃってるよと
ため息がでたのだった。それからは、地酒のいちばん安い
一升瓶を二本に、ホタテの缶詰めを三つ渡すようにしたら、
こっちの方が嬉しいよという顔で受け取っていた。
生前父は、母と回転ずしに行くことがあった。ところが
あとで話を聞けば、お父さんったら、安いネタばかり食べて、
美味しそうな大トロや中トロは値段が高いからとぜんぜん
食べないのよ。お父さんが食べないのに私が食べるわけにも
いかないじゃないとこぼしていた。刺身をつまみに酒を飲む
のが好きだったのに、馴染みの魚屋で買ってくるのは、
いつもカジキばかり。まぐろや鯛を買ってきたためしが
なかった。
夕方、水戸黄門を観ながら旨そうに晩酌をしていたっけ。
馴染みの飲み屋に行くと、ときどき品書きにカジキの刺身が
載っている。父を思い出し、注文してしまうのだった。
父の日やいつも安酒二本なり。
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