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幼馴染みと。

遠くの町に暮らす幼馴染みがいる。
お互いの母親同士が友だちで、小学生の頃、
たびたび会っていた。
中学校に入学以降は、交流が途絶え、そのまま
延々音信不通になっていたところ、SNSに載せていた
こちらのブログを見つけてくれて、再び付き合いが
始まったのだった。
かつて世話になっていた叔母さんが長野に暮していて、
ときどき会いに帰省して来る。
この師走の帰省の日が、折よくこちらの休みと重なった。
お昼ご飯を一緒にと相成ったのだった。
朝、長野駅まで車で迎えに行って、親せき先への土産を
買ったら、その足でクロネコさんの営業所へまわり、
送り届けた。そのまま大きな通りを東へ下って
行くと、叔母さんの入居している介護施設にたどり着く。
面会をしている間、まわりの景色をぶらぶら眺めながら
待っていた。冬晴れの気持ちの好い日で、
閑静な住宅街に、田畑がところどころ広がっている。
ひとまわり空が清々と高く、年寄りが余生を過ごすには、
まことに穏やかな場所だった。施設の東側におかね食堂が
在った。年季の入った店構えで、
長年地元の人に贔屓にされてきたとうかがえる。
こういう店はたいてい味も好い。この界隈に、
我が息子も暮らしている。気が向いたら一緒に飲みに
来てみるかと眺めた。
面会が済んで、いちど自宅に戻って車を置いて、
さて、新蕎麦新蕎麦と、馴染みのかんだたさんへ
出かけたら、入口に臨時休業の貼り紙があってふられた。
それではと、そのまま通りを南下して、さがやさんの
暖簾をくぐったのだった。
白海老と舞茸の天ぷらと蕎麦湯の湯豆腐をつまみに、
幼馴染みは梅酒サワーを、こちらは黒ラベルを空けて、
地酒を三杯。
ゆっくりと一献のひとときを過ごしたのだった。
この頃の近況をうかがえば、身内絡みの屈託を話してくる。
いくつになっても親としての悩みは尽きないものと、
伝わってくるのだった。
せめてもの気分転換に、また一緒に旨い酒でも。
頼りがいのない男やもめの身は、せいぜいそんな台詞が
言えるだけだった。
また会える日を楽しみに。帰るうしろ姿を見送った。

立ち飲みで背中見送る冬ぬくし。




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