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たまには鰻で。

須坂のメセナホールで、夏井いつきさんの
句会ライブを楽しんだ夕刻どき、ホールを出たら小雨が
降っている。
この程度の雨ならば涼しくて気持ちが好いと、
ぶらぶら歩きながら臥竜公園まで足を向けた。
春、たくさんの人で賑わっていた桜の名所百選の公園も、
時期を過ぎれば静かなもので、ひと気のない中、
爽やかな新緑の景色をゆっくりと眺めた。
公園を出て、坂道を下っていく。森厳な趣きの墨坂神社で、
須坂の町が平和でありますようにお詣りをして、
はす向かいに在る鰻料理屋、た幸におじゃまをした。
ご主人夫婦は以前長野駅前で料理屋を営んでいた。
地元の須坂で店を始めてからも、ときどき足を運ばせて
もらっているのだった。
子供の頃から胃腸が弱い。たびたび腹を壊しては、
胃腸薬ミヤリサンの世話になっていた。
高校生のときに陸上部に入っていて、朝夕練習をしていた。
日によって朝練で疲れてしまうと、食欲が出ず、
昼の弁当を同級生に食べてもらっていた。
大人になって酒の味を覚えてから、がんがん飲んでさらに
胃腸に負担をかけて、ますます調子がよろしくない。
ことに、油のつよい料理を口にすると、すぐに腹がこわれる。
自宅を出て善光寺の境内を抜けてしばらく歩くと、
老舗の鰻屋が在る。実家がそばに在り、父が健在だったとき、
ときどき両親と食事に伺っていた。
ところが、ビールを飲みながらうな重を食べて、自宅に戻る
途中、善光寺の山門の階段を下りたあたりで、
かならず腹がぎゅるる~となるのだった。
これはまずい・・自宅まで持ちこたえられるのか・・
ひやひやすることが毎回だった。
味の濃い、油のつよい鰻は相性が悪く、
父が亡くなってからはすっかり行かなくなった。
た幸でひととき過ごした折りは、全然腹に影響がない。
ご主人曰く、
柔らかくてしっかり油の落ちた味は、蒸し時間を
長くしているからとのことだった。
この日の夜はほかにお客の姿がなく、貸し切りでご主人夫婦に
お相手をして頂いた。
サッポロ赤ラベルでのどを潤して、うまきにすっぽんの
肝吸いに、白焼きにかば焼きをつまみながら、日本酒の杯を
重ねたのだった。
電車に乗って20分。駅から歩いて10分。
須坂詣での楽しみになっている。

この町の無事を詣でて鰻食う。



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